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はじめて田原坂に行った話



中学校くらいかな、
父が出かけるの好きで
休みの日はしょっちゅうどこかへ連れて行かれていた
ある日のドライブ先が、
田原坂だったのだ

田原坂にはいる向かいの道側に
まんじゅう屋さんがあって、
最後はそこに寄って帰ろうね、なんて
話しながら、
田原坂公園へ続く山道を登った

一の坂、二の坂という看板があって
どんどん上へ登っていくんだけど、
なんかね、すごく厳かな感じっていうか、
重い色をしていて、
気持ちはルンルンでは無いんだよね、
冷たい感じ

脳内にいわゆる、戦場、っていう景色が入ってきて
ああ、重いな、たくさん人が倒れていく
斜面を盾にしながらも撃たれて死んでいく
すごく、うん、
そういう場所なんだと、感じた

書いててすごく頭がいたくなってきた
もう少しだけ、書かせて

そんな山道を登って、ひらけた場所へ
駐車場に車を停めて外に出る

登っていた時の重い感じが体にきて、
胸あたりっていうのか、上半身が熱もってきて熱くてそして
ゾワゾワ感、悪寒が凄かった

それでも空気は澄んでいて、
その差が苦しかった

公園の草を踏んだ
その時
涙が流れた

あれ、とその時少しだけ
からだの気持ち悪さが抜けた気がした

空は白かった

どうして流れたのかは分からない
でもあふれた涙は私のものじゃないのだ
私の気持ちじゃないのは確かで
水だと思って舐めたら涙の味がした

気づいた母が心配そうに寄ってきて
体調悪いのか、と

涙出てくるんだよね、分かんないんだけど

体調は悪くないのね、おかしな子

わたしが感じやすいのを知っているから
あまり詮索はせずに、ただそれだけ


少し降りて、柵と見渡せる場所
下はみかん畑、?かな、

大きく息を吸ってみる
びゅう、と冷たい風が背中から吹いた
少し持ってかれそうになって
策を強く掴んだとき、

背中を指先で強く押された

ぐん、と前のめりになって
うわっ、と声が出た

後ろを見ても誰もいない
山道からのことを思えば
きっとそういう事なんだろうなと
悟った

今度は冷たくて
そよそよと穏やかに吹いてくる

空は白かった

空と山の境目がみえないくらいに

空気も透明で、澄んでいる

ここはきっと生と死が交わっている場所なのだろう

生きているだけじゃ触れない
何かをずっと触っている気がする
生きているだけじゃ聴こえない
誰かがずっと叫んでいる気がする

澱みのない、新しく紡がれた風

いのちの風が吹いている

美しかった、

上手くいえないけど、
美しかったのだ、田原坂は

自分のなかで、
とても思い出に残る場所になった
不思議な経験をした場所

車を運転出来るようになって、
気が向いたらたまーに行くんだ

猫ちゃんもいるの、
たまーにしか顔出さないけど


なんでか惹かれるんだ、
田原坂に



茶埜子尋子

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