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過呼吸の音、生きているよ



不健康な黒い内蔵の中みたいだった
人間の恨みつらみの僻み妬みの禁足地に
足を踏み入れてしまった
汚い色して蠢いてる
汚れた言葉で遊んでる
酸素も足りない、
涙も足りない、
心もすべて足りなかった
手のひらでも掬えないくらいの
空気を肺いっぱいに吸い込もうとする
今のことだけに精一杯で
出すものも出せずに
無数の星をみる
渦にのまれていく
爆音のなかで死んでいく
新しい心音
体はすでに黒曜石と化している
みっともない形で転がった
それでも微かに揺れている
生きている灯火
死なないよ、大丈夫、
辛いことがあったんだね、
大丈夫、大丈夫、苦しかったんだね
頑張ったんだねって
消えかけた火がほろりと
泣いた気がした
顔もしらない
名前もしらない
暗闇の隙間から聴こえて
気づいたら目の前にいた医者に
引き摺りあげてくれた医者に
頭を撫でてくれた医者に
涙は体にとけていった
心が透けてみえる
世界が眩しくみえる
戻ってこられたんだと
いまだに麻痺した唇から
胸いっぱいに呼吸する
もし今日が辛かったら
思いだして
小さく刻まれて死んでいった
あの日を
大きな力で光をくれた
あの時を
わたしは生きているよ
ひとまず今日は生きている


茶埜子尋子

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