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脳内シャーベットメモリー

 私はシャーベットアイスがあんまり好きではない。なんだろう、歯が痛い感じ? アイスクリームの方が美味しいよね、断然ジェラート派なわけです。そんな私の価値観がひっくり返ったことがあった。フランスはパリ。ジャックマール=アンドレ美術館での話だ。


 転職のための有給消化で、2 週間のロンドン旅行。その間に、5 日間パリへ向かった。28 歳、一人、初パリ! お金のある旅行じゃないから、ブランド物を買うわけでもなく、気ままに美術館をはしごする。


 その日は朝からオランジュリー美術館で印象派を見て、ボン・マルシェ(老舗デパート)をひやかした。パリに来て 4 日経っていたけれど、まだ地下鉄にはビクビク。そして何より日差しの暑い日だった。ジャックマール=アンドレ美術館は街中にある小さな個人美術館で、企画展示はやっておらず屋敷の見学だけできますと言われた。元は貴族の邸宅だったためそれは見事な屋敷で、こんなところに住めたらと思わず口に出る。美術館には大抵カフェが併設されていて、街中のどこに入るのにもドキドキする私には心強い味
方であり、むしろ絶対に立ち寄るスポットだ。


 人がおらずがらんとしたホールで、一人だけど入れる?というアイコンタクトをすると、ウエイトレスが解放的なテラス席へ案内してくれた。この時点でシチュエーションは文句なしに素敵だ。ケーキが美味しそうだったけれど、暑くてジェラートを注文した。最初に出てきた時は、あージェラートって書いてあったけどシャーベットか、失敗だったかな、と思った。しかし口に運ぶとねっとりとした冷たさが口に広がり、都会の太陽にぴったり合うおしゃれな味がした。こんな美味しいアイス、食べたことがない! 程よい日差しと、少しの緊張があって、安いのじゃなくてきちんと作られて丁寧に運ばれたアイスに真価があるのだな、なんて一人思った。だって本当に美味しかったんだもん、忘れられないアイスになった。


 忘れられない味ってよく言うけど、自分の中を探してみるとそんなものはとても少ない。私は人より、味に関するメモリー容量が少ない気がする。旅先で感動的な景色を見たときもそうだけど、「うぉー!この気持ちを忘れないぞぉぉー!」というスイッチが入って、やっと覚えていられる。でもそうやって無理やり脳内メモリーに入れた味とか景色とかが、ふとしたときに自分を奮い立たせてくれたり、気の利いた会話に変換されるんだろうな。自分の中に残したい経験をするために、まずは普通の毎日を頑張って生きて、それからまたどこかへ出かけて行かなきゃな、なんてこのピンクのアイスを見て思ってる。


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写真を見るだけでパリの暑さや、このシャーベットの舌触りを思い出しそう。
ウエイトレスが丁寧に敷いてくれたナプキンは、風に軽くなびいた。アイスの先に立っている焼き菓子も驚くほどに美味しかった。さすが、パリ。お菓子の平均点が高い。ここのカフェは街中のカフェより相場が安かったから、行ってみて欲しい人には是非にと勧めてるスポット。

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