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第8回:コモングラウンドの世界を俯瞰して伝えることでアイデアのヒントにつなげる。コンセプト動画メイキング インタビュー

コモングラウンド・リビングラボ(以下、CGLL)のパートナーの活動や取り組みを紹介するインタビュー。第8回目はコモングラウンド・リビングラボのコンセプト動画の作成を担当したgluonの瀬賀 未久氏に、制作の裏側やアイデアのヒントにつながるポイントなどについて話をお聞きしました。

gluon 瀬賀未久氏

# 時代の変化にあわせてコンセプトの見せ方をアップデート

ーー まず最初に動画を作成することになった経緯を教えてください。
 
瀬賀:私とCGLLのスーパーバイザーである豊田が所属する「gluon」<https://gluon.tokyo/>という会社は、実空間とデジタル空間をつなぐコモングラウンドの構築を通じて、ヒトとデジタルエージェントが共存する新たな世界での価値創出を目指しています。その基本となるコモングラウンドという概念は、今までに無かったものなので説明するのが難しく、考え方もバラバラという課題がありました。コモングラウンドの提唱者である西田豊明先生も著書の中で、「コモングラウンドを議論するためのコモングラウンドを形成することが難しい」ということを書かれていて、わかりやすく伝えるために言葉や絵で表現するより、世界観を伝える動画を作るのが効果的だということで、私が制作を担当しました。
 
ーー 動画の中で何を伝えようと考えましたか?
 
瀬賀:メタバースとの違いを意識して、その次に来る世界をどう描くかというのをテーマにしました。双方向性とリアルタイム性とマルチエージェント性をキーワードに、それらの単語がちゃんとわかるようにシーンを作っていくことで、コモングラウンドの世界観が伝わるよう細かいところも工夫して、いわゆる小ネタみたいなものも結構入れてます。

CGLLの世界観を伝える絵作りに工夫。

実は今回の動画を作る1年ぐらい前に、gluonでも約2分間のコモングラウンドのコンセプト動画を作ったんですが、その時はデジタルエージェントと人が見ている世界は異なるため、共通認識ができる基盤が必要ということをひとつのテーマにしていました。その時から概念自体は変わってないのですが、伝えたいことが結構変わってきて、新しい技術が登場してますし、世の中もメタバースやWeb3という言葉が受け入れられるようになってきて、それにあわせて動画もアップデートしました。
 
動画の場合、長すぎても見られなくなってしまうので、CGLLメンバーのみなさんからいただいた意見を参考にしながらたくさんある要素をキュっと詰め込んで、コモングラウンドが実装された都市で生活がどのように変わるのか、将来的な変化を描いたシーンだったり、活用される場面を想定したユースケースを入れました。今回は都市と室内をシチュエーションに描いてますが、動画を見た人がそれぞれの職場だったり、学校だったり、工場や住んでる街などに置き換えてもらって、コモングラウンドを使うアイデアを広げてもらえるようにしています。

#コモングラウンドの世界観を一瞬で伝える小ネタあれこれ

ーー 具体的にどんなところを工夫されたのか教えてもらえますか?
 
瀬賀:そうですね。全体としてはコモングラウンドでなければできないことを伝えるべく、優先してシーンに入れました。それは何かというと実空間の情報をデジタル空間に集約するだけでなく、デジタル空間の情報を還元して実空間に環境側から指示ができることなんですね。例えば、あるシーンでは人とロボットとアバターが3人で街に出かける場面を描いており、正面から来た複数の異なる規格のロボットとすれ違います。これまではロボット側のカメラやセンサーを賢くして避けようとしていました。しかし、ロボット側の眼だけに頼ると、近づきすぎると互いに停止してしまい動くことができなくなります。またメーカーによって規格も違っているため、異なるメーカーの複数台のロボットを制御をすることが難しくなります。そのためコモングラウンドによって、環境側から最適化したルートを示してあげれば、複数のロボットやメーカーの異なるロボットが混在した環境でもスムーズに移動をアシストすることができます。
 
また3人組の1人はアバターなので実空間では認知されず、ぶつかるというか普通はすり抜けてしまいます。もちろんそれでも問題はないのですが、コモングラウンドはデジタル空間で起きていることを実空間に反映しているので、アバターも認識されて正面から来たロボットがスムーズに避けてくれます。アバターを避けられることができれば、アバターがロボットなどの物理的な存在に置き換わっても同様に避けることができます。このようにこれまでは個々のカメラやセンサーで動いていたものに対して、環境側に眼を与えて全体最適化を図ることで、人やロボット、アバターが共存する社会を実現するというのがパラダイムシフトである、ということを伝えようとしてます。

人・ロボット・アバターが行き交うシーンにもこだわりが。

ロボットが段差を超えるシーンも、既存の地図情報だと30cmから50cmほど位置がずれたり、高さが認識できず、5cmぐらいの段差だと対応できないのですが、コモングラウンドはヒューマンスケールで情報を与えることを想定しているのでスムーズに移動をアシストできます。他にも現実の都市には昨日はなかった工事現場の状況だとか、お昼はキッチンカーが来るので人が混んでいるとか、常に変化している都市情報もリアルタイムに情報を収集しているので都市全体を俯瞰できます。
また、シーンの中で細かなところでは、機器やシステムが異なっても情報を統合することができるということを伝えるために、街灯と建物のセンサーの形をわざと変えて描いています。

様々な情報が集約された都市の俯瞰図。

ーー 確かにロボットと人間が共存する世界がほんとうに来るかもしれないと思わせるように描かれてますね。
 
瀬賀:私たちは「サイバーフィジカルシステム」ともいっているのですが、コモングラウンドはデジタルだけで閉じず、さまざまな情報を一度集約して、デジタル側で統合・解析シミュレーションしてから実際に現実空間に反映させることを目指しています。ロボットと自動運転車椅子が近づいた時も、これまでならそれぞれの視点からしか状況を把握できないので、どちらも危険だと判断して停止すると指示するところを、コモングラウンドでは上からというかゲームでいう神の視点で指示を与えられるので、スムーズによけられますし、ロボットと人がそれぞれ専用道路を造らなくても共存できます。そういうことを一瞬だけですがシーンに入れ込んでます。

ロボットと人をひとつの道路に共存させる「サイバーフィジカルシステム」。

ーー なるほど。そうしたところが今のバーチャルワールドとコモングラウンドとの違いでもあるのですね。
 
瀬賀:こうした世界を実現するのはすぐには難しいとは思いますが、コンセプト動画を通して、コモングラウンドが実装されることで起こりうる未来像を示し、実現に向けてバックキャスティングで各々の領域では何をどう開発していけばいいのか、実装に向けて何が不足しているのかを考えるきっかけになるといいなとは思っています。
 
ーー 領域を横断して様々な人が各視点から参加できるようになれば、一つの会社だけが勝つんじゃなくて一緒に成長できるという気がします。
 
瀬賀:そうなんです。あとこれもほんの1秒ほどのシーンなんですが、登場するキャラクターで女性はARグラス、男性はスカウターというようにあえて異なるデバイスを装着することで、デバイスの違いは問題なくなるということを伝えています。CGLLは様々な企業やアカデミアの人たちが集まって一緒に何かを作る場所なので、デバイスによって独自のシステムを作るのではなく、異なるデバイスも共通の基盤で接続できるように汎用化できる仕組みを考えています。
また、現状のオンライン会議では等価に接続されるため、コミュニケーションが一方向になりやすく、現実空間での会議のような複数人で同時に双方向のディスカッションは難しかったりしますが、コモングラウンドでそれぞれの相対的な位置関係を把握することで、音の向きだったり、距離に応じて音声の強弱を付けることができるため、複数人でのディスカッションなども可能になります。そのことを伝えるために、キャラクターがそれぞれの位置関係を認識しながら話者の方向を向いて話すなど、キャラクターの細かな仕草を織り込むことで表現しています。

コモングラウンドにより、オンラインでの双方向ディスカッションが快適に。

ーー こうしたシーンは絵コンテの段階から入れようと考えていたのですか?
 
瀬賀:動画を作りながら気づいて変えていった部分は多いですね。無理やりなんとか入れたシーンではあるんですけれども、建物の中ではビーコンやセンサーを使ってロボットを動かす事も多いですが、コモングラウンドは屋内から屋外へシームレスにつなげられるという特徴があり、それを表現するため、ロボットが建物の中から外へ出る時に一瞬止まる動きを入れて、そのあとスムーズに動き出すというシーンをいれています。非常に短いシーンなので誰も気付かないかもしれないけれど、コモングラウンドの特徴を伝えるために、細かな動きにもこだわっています。動画の中には、そのような小ネタもたくさん詰まっているので、是非繰り返し見て発見してもらえると嬉しいです。

屋外へ移動するロボットの描写にも、コモングラウンドだからこその特徴が。

ーー 小ネタになっているところこそがコモングラウンドの特長であり、アイデアのヒントになると思いました。
 
瀬賀:コモングラウンドを本気で説明しようとすると時間がかかってしまうので、とりあえず3分で動画をぱっと見て、それぞれ響いたシーンから発想を広げてもらえればいいと思っています。

#メディアアートによる思考実験を通して、未来の世界を”ソウゾウ”する

ーー アイデアを考えるときに参考にされているものはありますか?
 
瀬賀:情報収集は圧倒的に人から聞く部分が多くて、CGLLもほんとうにいろんなメンバーさんがいて、やっていることも違いますし、専門外の話も聞けるので1番の情報ソースだと思っています。今回の動画も3か月ぐらいかけて作った絵コンテにみなさんからフィードバックをもらって、それを元にまた絵コンテを書き直すという作業を繰り返しました。そこで自分の中で知識を整理したり、増やしたりできるので、プロジェクトを通して色々学んでいくことが多かったです。そういう意味では今回すごくいい機会をいただきました。
 
またメディアアートの領域からもヒントをもらうことは多いです。メディアアートでは最新のテクノロジーや多種多様な媒体を使って既存の手法や形式に留まらない表現がされており、アートを通して、現代のテクノロジーに対する問題提起だったり、思考実験によってテクノロジーが進化した未来を考察したり、未来の世界を“ソウゾウ(想像、創造)”するヒントがたくさん詰まっています。アートを介した未来思考と、自分の専門領域でもある建築や都市などの実空間と掛け合わせることで既存の枠を超えた発想に結びつくのではないかと考えております。また、メディアアートの場合、作品が出来上がってからもアップデートしていくところがあるので、そうした姿勢も含めてヒントになることが多いですね。もう一つはゲームの領域で、空間の中を自由に動けて、カメラも自由視点で、移動した方向に対してリアルタイムに世界が構築されていくスピード感がほんとにすごいので、いろいろ学んでいます。
 
ーー 印象的なクリエイターさんやアーティストさんはいますか?
 
瀬賀:たくさんいるのですが、例えば「アバターズ」という作品はとても印象的でした。美術館の中に置かれた観葉植物や車、家電、看板などがそれぞれIoTでつながっていて、お客さんはオンラインからリモートでそれらのモノを動かしたり、モノに憑依して美術館にいる人にアクションを起こすことができる作品で、もしこれが都市に実装されると、これまで重厚長大で動かなかった都市が可変的・流動的になり、不動産が「可」動産になったり、樹木が動いたり、家具やサインが人の動きに合わせて反応したり、これまで動かなかったものが動くことで人とモノの間に新たなインタラクションが生み出せるのではと想像しています。

瀬賀さんに強い印象を与えた「アバターズ」

#何かを新しく”ソウゾウ”するのにリアルな場所があることはとても大事

ーー この先、コモングラウンドは浸透していくと思われますか?
 
瀬賀:浸透させるために今頑張っているって感じです。CGLLという実験場を使ってまずコモングラウンドに関する技術開発をどんどん進めていって、小さくてもいいから実際に使えるシーンを増やしていこうとしています。
 
大事なのは拠点があることで、アイデア段階ではいいと思っても、実際に使ってみると違うことはよくあるので、CGLLにコモングランドの環境を築いて実際に何かを作り、実験できるというのはとても大事です。ユースケースの描き方もリアルな場がある方がヒントや気付きが得られますので、これからどんどんいろいろなことをみなさんと一緒にできるのを楽しみにしています。

瀬賀 未久氏 プロフィール:(gluonのサイトより引用)
千葉大学都市環境システム学科卒業。ランドスケープ設計事務所を経た後、空間デザイン会社にて、ブランディングとプロモーションを軸に、イベント、エキシビション、インスタレーション、商空間開発を手掛ける。2018年よりテック/コンサルティングの領域横断型プラットフォームのgluonに参画。建築・都市とテクノロジーの両軸から、領域を横断して各々の専門領域を繋ぎ、新しい価値を生み出すために、都市のビジョン構築や技術実装に取り組んでいる。

#テクノロジー #スマートシティ #万博 #3D都市 #CGLL