第6回:大企業とスタートアップをつなぐ実験場としてCGLLに期待されるものとは
コモングラウンド・リビングラボ(以下、CGLL)のパートナーの活動や取り組みを紹介するインタビュー。第6回目はコモングラウンド・リビングラボ運営委員会(以下、運営委員会)*と「スマートシティ実装の推進に向けた連携協定」を締結する Plug and Play Japan(以下、Plug and Play)のみなさん(Director, Osaka:安藤慎吾 氏、Program Lead, Smart Cities:川口雄大 氏、Communications Manager:市川はるか 氏)に、これまでの取り組みや今後の活動予定などについて話をお聞きしました。
# スマートシティをテーマに連携をスタート
ーー ご存じの方も多いと思いますが、Plug and Playについてあらためて教えてください。
安藤:Plug and Play は2006年にシリコンバレーで創業され、スタートアップ、大手企業、投資家をつなぎ、世界中のイノベーションを加速させることをミッションに、イノベーション・プラットフォームとしてベンチャーキャピタル(VC)とアクセラレーター事業を展開し、世界18カ国に40以上の拠点があります。VCでは多数のユニコーン企業を輩出しており、他方、アクセラレーターとしては多くの企業パートナーと共にプログラムやイベントを実施しながら、スタートアップの事業化や事業成長を支援しています。
日本拠点のPlug and Play Japanは2017年に設立され、40社以上におよぶ各業界のリーディングカンパニーがパートナーとして参画しています。2020年7月に国内3つ目となる「Plug and Play Osaka」が立ち上げられ、私はそのディレクターを担当しています。業務内容として、VCやアクセラレーターとしてスタートアップとのマッチングにより大手企業の課題解決を支援する以外にも、最近ではスマートシティ分野におけるオープンイノベーションを促進するプログラムにおいて、2025年の大阪・関西万博やうめきた二期などのスマートシティ実装に関わる案件推進に取り組んでいます。
川口:私はスマートシティの大阪チームを運営しており、スタートアップと大手企業が協業する場所などを紹介させていただくこともあります。私たちはアクセラレータープログラムを期間ごとにBatch(バッチ)と呼んでいます。スマートシティプログラムのテーマは5つあり、大きくはDXですが、脱炭素、サステイナビリティ、旅行や観光などのエンタメ領域、IoTやロボティクス、そしてスマートライフなどホスピタリティや生活全般を向上させるサービスなどがあります。
ーー CGLLと連携協定を結ぶきっかけは何だったのでしょうか。
安藤:大阪に拠点を立ち上げる数カ月前に大阪商工会議所のイベントに登壇させていただく機会があり、そこにおいて大手企業が参加してオープンイノベーションに取り組むCGLLの存在を知りました。私たちが行っている、大手企業とスタートアップの方たちが一緒にオープンイノベーションでビジネスを作っていく際に、CGLLを実験場として使うことができる可能性があると考え、連携協定の締結につながりました。
連携協定は「Smart City & Living(次世代都市と未来の暮らし)」をテーマに、スタートアップ支援プログラム「Startupbootcamp Scale Osaka」を関西で運営するRainmaking Innovation Japanとともに、CGLL運営委員会と3者で締結しています。締結式が行われた2021年5月20日にはシンポジウムも開催され、それぞれの役割について紹介させていただきました。
# 仲介する役割を備えた実験場だからこそ生み出せるものがある
ーー スマートシティ分野の関心は高まっているのでしょうか。
川口:スマートシティは領域がとても幅広い上、私が担当するプログラムは大阪と東京の2拠点で展開していることもあってチームの規模は一番大きく、パートナーとなる大手企業の数も多いです。テーマが幅広い分さまざまなスタートアップに興味を持たれ、応募される数は100社を超えます。
ーー そうした企業パートナーの中には、CGLLの設備にあるようなカメラやセンサーを使って何かをしようというところも多い気がします。
川口:そうですね。例えば、建設業界や大手SIerが持つソリューションの中には、IoTセンシングなどに関わるものも結構ありますし、それらはこれから万博出展にもつながるかもしれません。開発されているサービスをどう当てはめていくかは仮説の中で動いていくしかないですが、CGLLの存在を通じて次の新たな発見ができる可能性もあると思います。
ーー CGLLに対してはどのような印象を持たれましたか?
安藤:第一印象として、歴史を感じさせる建物の中に現代的でおしゃれな実験場があるため、不思議な空間であると感じました。また、実験場には数多くのカメラやセンサーが用意され、試作品から商品化まで一気にチャレンジできる場であり、ここからスマートシティに必要な、人流計測や人の動きを最適化する新しい何かが生まれるのではないかとワクワクしたことを覚えています。
海外にもスタートアップが集まる実験場のような施設はありますが、一企業の中にある実験場を商工会議所と複数の企業が共同で運営し、私たちと同じような外部の企業・団体との仲介機能を持つ施設は非常に稀であるように思います。
# 大企業とスタートアップが平等にビジネスを育める文化を作る
ーー 連携協定後の活動としてこの6月にマッチングイベントが行われましたが、反響はどうでしたか?
市川:マッチングイベントでは私たちが採択したスタートアップの中から、AI画像認識・処理やセンシング、ロボット等のCGLLと非常に親和性の高い5社にピッチをしていただきました。ピッチ後にはCGLLメンバー企業とディスカッションをしたり、後日CGLLを視察されたりと参加いただいたスタートアップの皆様から好評をいただきました。イベントはオンラインでの開催であり、CGLLについて説明することが難しかったため、今後はCGLLを実際に見ながら何ができそうか具体的にイメージしていただく機会をつくることが必要だと感じました。
ーー しかし実際に連携となると、スタートアップにとっては自分たちが命を賭けている大切な技術や研究成果を共有することになるので、ハードルが高いように思われます。
市川:何がしたいのか解像度が上がってくると、お互いに情報を開示する必要性は出てきます。そこで私たちが間に入って円滑に連携ができるよう、伴走させていただきながら状況・情報をお伝えするなど、相互の歩み寄りやコミュニケーションで理解を深めていくという形で進めることがCGLLとの連携においても重要になると思います。
# 実証実験は出口が見えることで参加しやすくなる
ーー これからもスタートアップにCGLLを活用してもらえそうでしょうか。
川口:技術に興味を持って今からビジネスを考えるフェーズのスタートアップであれば、CGLLで一緒に実験をやってみたいと思われるかもしれません。しかし我々が採択する企業はすでに何かしらのビジネスを始められているので、連携するメリットをまず考える必要がありますし、条件も少し厳しくなります。なので、CGLLをいつでも実験ができるオープンな場としてとどめるのではなく、案件をまずCGLL側でスモールスタートさせ、実験した後の展開をイメージしやすくすることで、案件に参画したいと考えるスタートアップや自分たちでも実証実験をやってみたいと思うスタートアップが増えるかもしれません。
安藤:その他にも、私たちのパートナーでCGLLを活用している企業もありますので、そこをフックにしながらCGLLと私たちの両方で支援ができれば、スタートアップ側も参加しやすくなるかもしれません。活用としては、実際の場所で実証実験する前にCGLLでシミュレーションするといった形がおそらく1番やりやすいのではないでしょうか。
ーー CGLLで行う実証実験もどういう出口を設定しているのか、もう少し具体的に判るようにすることでもっと興味を持ってもらえるかもしれませんね。
川口:スマートシティの実験場と言われる万博は、シンボリックであり、グローバルでも通用するテーマでもあるので私たちも注目しています。例えば、万博での実証実験を出口とするようなプロジェクトがあって、自社PRにつながると判断されれば、興味を持つスタートアップや大手企業はいると思います。ただ、いきなり出口に向かった取組は難しいので、その1歩手前のステップとしてCGLLを活用してほしいと思っています。
ーーCGLLとの連携で今後期待していることを教えてください。
川口:我々はプログラムに参加される方たちにオプションをできるだけたくさん用意したいですし、連携する方法を一緒に整理しながら、実態のある協業に繋げていきたいと考えています。そのためにも定期的に情報交換しながら実案件を作ったり、お互いのメリットを見出していきたいですし、大阪の地域性に鑑みて貢献していくことにも力を入れていこうとしています。
安藤:これからはリアルでもっと一緒に何かできるようにしていきたいですし、CGLLを活用したい人たちを選ばなければならないぐらい、人気がある場所になってほしいですね。
Plug and Play Japan 株式会社
Director, Osaka:安藤慎吾 氏
Program Lead, Smart Cities:川口雄大 氏
Communications Manager:市川はるか 氏