好きを仕事にしていません
「好きを仕事にする」というキャッチーな言葉がありましたね。
あの言葉のいいたいことはわかっているつもりですが、私は好きを仕事にしていません。
文章を書くことは、「お金を貰えるだけの社会的役割がある」と納得しているから、自分の仕事にしているのだと思います。
働くことは好き
働くことというか、何かに没頭すること。それが好き。だから没頭できればなんでも好きです。
だったら好きを仕事にしているのでは?
そう思われるかもしれません。でも、好きを仕事にしていると思っていないのです。
好きを仕事にしているタイプのライターさんには、大きく2種類の人がいると思っています。
◆好きなことに関して文章で情報を伝えるライター
例えば、旅行が好きだから旅ライターになるとか、オシャレが好きだからファッションライターになるとか。ライターとして好きなことに関わることを仕事にしているというタイプです。
◆書くことそのものが好きというライター
例えば、何か主張したいことを伝えられることが好きという「ご意見番」的なライターとか、うまい表現を探し当てることが好きという「表現の魔術師」的なライターとか。文章を書くことそのものが好きで仕事にしているというタイプです。
それぞれにスペシャリストの要素が加わり、これらは細分化されていくようですが、「好き」を仕事にしていると明言されているライターさんは、この2つのタイプに集約されると考えます。
文章を書くことが好きというわけではない
私は文章を書くことが好きかというと、全くそうではありません。
けれども、文字で伝えることの「価値」をよく知っています。
だから、この仕事をしているのだと思います。
では、なぜ、そのようなことになったのでしょうか?
かつての職場で広報の仕事をやらざるを得なくなり、仕方なくやっていたことが、そもそもの始まりです。
運命のいたずらとでもいうのでしょうか。
なんともセンセーショナルな広報デビューでした。
突然上司に呼ばれて
「メールマガジン編集と発行、プレスリリース作成、新聞社や雑誌社への電話がけ等々。それらをあなたの仕事としてやってもらいます。」
と話を切り出され、
「私は誰のサブにつくのでしょうか?」
と聞き返したくらいです。
結局、私は誰のサブにつくこともなく広報責任者となりました。当時の担当者が急遽退職されることになったからです。
本来抱えていた業務に加えて、慣れない広報の業務で右往左往の連続でした。広報締め切りのスケジュール管理に心臓がおかしくなるのではと思うほどのプレッシャーを抱える毎日。
そんな中「ホームページのリニューアルもやってみない?」という話が突然やってきます。通常の業務が終わった後の時間を利用して、WEB原稿を書き上げるのは大変でしたが、今では懐かしい思い出です。
文字で伝えることの「価値」
広報の仕事をする前から、何かと文章を書く仕事を任されていました。パソコンの文字入力が早いというのが、そもそもの理由だったと思います。
文章を書く仕事というのは、具体的には、トイレの個室が使えないときに、「トイレ使用禁止」の掲示を作成して貼りだすといった業務です。
上から書けといわれれば書く。ただそれだけのこと。
当然のことながら「トイレ使用禁止」の貼り紙は無記名、もしくは、施設長の名前で掲示します。私が無記名ライターの存在価値を理解できるのは、この体験が根底にあるのかもしれません。
「トイレ使用禁止」の掲示と併せて、「使用可能な近くのトイレはどこか」という情報を伝えることは大切な仕事です。そのプラスアルファの文言に、私はパワーと可能性を感じていました。
トイレというプライベート空間で、禁止事項をきちんと守ってもらえる工夫ができることは、文章で情報を伝えることの神髄だと思っています。
私は、文章を書くということは、好きでもないし、楽しくもないし、スゴイ仕事だとも思ってはいないのですが、文章で情報を伝えることは「この世に必要な仕事だ」と思います。
私は好きを仕事にしていません。
ですが、誇りを持って働いています。