IT活用でソーシャルセクターを変えていく「STO」とは? ②岩澤樹さん(認定NPO法人カタリバ)・前編

NPO等の非営利団体で活躍するITエンジニアを増やそう!というSTO創出プロジェクト。

実際にSTO人材として活躍する人を紹介する連載の第二回は、10代の可能性を広げる活動に全国で取り組む「カタリバ」の岩澤樹さん。企業のCTOとSTOはどう違う?など伺いました。

※STOとは?
今や組織の事業推進はIT活用なくして成立しない。企業でも技術部門を統括するCTOを設けるケースが増えている。しかしNPO等ソーシャルセクターでは、未だIT活用が十分だとは言い難い。そこで私たちCode for JapanではCTOになぞらえ、経営レベルでソーシャルセクターのIT活用を担う人材をSTO(Social Technology Officer)と定義、その浸透や育成を目指す「STO創出プロジェクト」を展開している。

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経歴・プロフィール
大学卒業後、SI企業に入社しインフラ、セキュリティ対策関連の導入業務に従事。その後、ボランティアとして関わっていたカタリバに情シス担当として入職、組織の基盤となるシステムの導入・改修を中心となって行う。現在は情シス兼会計マネージャーとして、会計システムの改修や財務管理、決算業務に従事。

STOには2種類ある!?

そもそも「STO」と聞いてどう思ったか、自分と重なる部分があったかどうか、岩澤さんに伺った。

「重なる部分、メチャクチャありましたね! NPOが困難な社会課題を解決するには、最新の技術を使った方がより早く大きなインパクトを生み出せます。それは自分がやっている事と重なるイメージがあります。」

そして岩澤さんによれば、STOには2つの種類があるという。

「1つは、画像認識やAI等の技術を使い、社会課題を大きく解決するためにテクノロジーを扱う人。もう1つは、私のように情シスとして組織に入り、中から課題解決を進めて一つ一つのインパクトを積み上げる人です。」

前者は課題に対して直接的に技術を使う。後者は課題解決に取り組む組織のために技術を使う、という事になるだろう。

CTOとSTOとは何が違う?

ところで、STOは企業のCTOからその名称を着想されている。実際のところ、CTOとSTOとはどんな違いがあるだろう?

「企業のCTOと比較した場合、企業は利益が出る前提でシステム投資等を考えます。しかし非営利団体では、利益以上にステークホルダーを説得しながら、必ずしも数値化できない課題解決を目指す所に難しさがあります。そこをどうやって解決するのか?どう糸口を見つけるのか?どんな情報を提供すればいいのか?それらを考える点が、企業のCTOとは異なるスキルです。そこでは事業への共感性が必要になります。」

「事業への共感性」は、前回の取材でもキーワードに出た。そして岩澤さんもまた、事業への共感をキッカケに、民間セクターからソーシャルセクターに転じた経歴を持つ。

ボランティアやサポートスタッフを経てカタリバへ

岩澤さんはプログラマーだったお母さんの背中を見て育つうち、いつしか自分も理系に進み、システム系の会社に就職。そこでインフラエンジニアとしてキャリアを積んだという。

そして大学時代、友人に誘われてカタリバに出会い、就職後も年に2,3回ほどボランティアで関わるようになる。やがて就職して3年、裁量を持って新しい事に挑戦したいと考えていた頃、カタリバから声がかけられた。

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「当時からプログラムやExcelでの資料作りで団体の活動のサポートをしていましたから、その関係で誘って頂けたのかなと。理念には共感していましたし、成長している組織で一人で情シスできる経験はそうそうない。ちょうど全国の100名規模の拠点をどう伸ばしていくかを模索中の時期でもあり、そこに入ればチャレンジできる事が多いだろうと思い、転職を決めました。給料は20%くらい減りましたが、それから4年働いてようやく以前に追いついた状態です。 」

ソーシャルセクター全体でインパクトを出したい

「最初の1,2年は現場に半分入りながら、システムの全体改修に関わりました。その後、CIOやCTOに必要な財務スキルが欲しいと思っていたタイミングで、経理担当の方が育休となったので、これはチャンスと思い業務を引き継ぎました。それ以来、システムと経理の両方を担当しています。今は寄付システムの改修もしていますが、それが終わったらカタリバを含めたソーシャルセクターがもっとインパクトを出せるよう、外に目を向けてチャレンジをしていくつもりです。」

寄付、経理、業務管理…扱う業務の幅を広げ、さらに業界という広い視野を持つ岩澤さんは、まさにSTO人材的だと言えるだろう。そんな岩澤さんのいるカタリバであってもなお、STOの必要性はあるのだろうか?

岩澤さん、カタリバのIT事情を語る

①STO人材が必要な理由

「STOは、今まさにうちの団体でも必要です。色々な子供たちがいる中で、個々の教育効果をどう上げていくか?様々なクラウドやICT教育のツールがある中、どれを使って、何を実現するのか?それらを一般の方が考えるのは、荷が重すぎます。そこにSTOという存在が必要なんです。」

だから岩澤さんが頑張っている…

「はい。しかし、私自身は教育の専門知識や教育免許を持っているわけではありません。だからより専門的な人やデータアナリスト等が入って欲しい。外から新しいアイディアや技術を持ってきてくれる人は大歓迎です。」

②カタリバのIT環境はどうなっている?

カタリバの常勤スタッフはパートの方を合わせて約120名。NPO団体としては大世帯だが、IT部門は昨年まで岩澤さんのみ。しかも経理と兼任で稼働は0.5人分。今年になって常勤スタッフが入り、ようやく1.5人体制になったという。

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「それでも、この人数だと手が付けられるのは必要最小限の部分です。複数の拠点で業務改善をしたい、新しいシステムを導入したい、そういう大きな話は後回し。どうしても目先の小さな課題対応に追われます。」

人手がないとITに関するスタッフの指導や育成に手が回らない。組織全体のリテラシーが底上げされなければ、IT関連の環境整備も遅れてしまう。

「転職してきた時に驚いたのが、システムに関わるルールがなかった事です。企業だとパソコンを持ち出すのにも申請フローがあり、このガイドラインを読んでね、というのがありますが、そういう環境が殆どありませんでした。改善提案をしても「??」という感じで、なかなか理解を得られない。システム的な情報リテラシーの低さは今でも課題です。」

③SalesforceとExcelは日常的に使われているが…

「パソコン自体は業務に必要なので、みなさん使えます。しかしExcelで分析したり、Salesforceからデータを書き出しカスタマイズできる人は1割程度。さらに実際の事業に反映させられるレベルは数人程度でしょう。Salesforceは、寄付者、現場の生徒、スタッフの勤怠経費の管理等に使われていますが、その先の使いこなしが課題です。」

こうした状況にSTOが加われば、現場スタッフを始め組織全体のリテラシーが底上げされ、そこから大きな成果が期待される。

「スタッフは、どういうシステムなら子供たちがどうなるのか、それは本当に運用できるのか?等のイメージができません。そこに対してSTOが育成や提案をすれば、プロジェクトが一気に進む可能性があるでしょう。 」

④カタリバが抱えるNPOゆえの悩みとは

非営利団体では開発予算や導入計画にも特有の課題がつきまとう。例えば寄付システムなら、削減できるコストや寄付金が増える等の予測、数値をもとに導入時期や予算額を判断できる。しかしNPOが目指すものは数値で見えるものだけではない。

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「NPOの主目的は受益者の課題解決です。これは必ずしも数字だけで測れるものではありません。どこにどのような投資をすれば子供たちが変化するのか?それが分からないうちは、迂闊に開発は進められません。そこは今も試行錯誤中で、なかなか良いアイディアが出ない状況です。
それに比べて寄付や会計のシステムは導入効果が見えやすいので、優先させているわけです。しかし当然、それだけでは足りないのがNPOです。」

費用対効果の測りにくさは、ソーシャルセクター全体が抱える悩みだろう。

ソーシャルセクターが抱える5つの課題

ここまではカタリバをフォーカスに課題を考察してきた。次は視点をソーシャルセクター全体に広げてみよう。そこで岩澤さんが感じるポイントは5つある。

>>後編に続く

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※Code for Japanでは、非営利団体が抱える多様な課題に対して、アイデア出しのワークショップや勉強会、STOの養成や採用に向けてのマッチングイベント等を定期的に開催しています。組織を中から改善したい方、そういう方たちと協働したいエンジニアの方は、ぜひこうした場にもご参加ください。

STOに関心のある方はこちらからお問い合わせ下さい

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