【対談#5】スタートアップ×チャレンジフィールド北海道 「スタートアップ、トライしてみてどう?」
「将来世代のために、希望あふれる地域社会を共につくりたい」
「人と組織と地域が『自分ごと』として関わり、共に成長したい。」
そのために私たちができることとは、どんなことでしょうか?
第5回の対談(鼎談)相手であるサジャッド(Sajjad)さんと北村さんは、たんぱく質を豊富に含むウキクサ(ウォルフィア/Wolffia)の栽培技術の開発により、持続可能な生産で、食料安全保障と気候変動に挑むスタートアップ「Floatmeal」を展開しようとしています。スタートアップ創出支援も行うチャレンジフィールド北海道としては、サジャッドさんと北村さんがなぜスタートアップという選択をしたのか、またその活動のどこに魅力を感じているかはぜひとも知りたいところ。チャレンジフィールド北海道の山田総括との対談(鼎談)から、スタートアップ創出に必要なことは何か、考えてみたいと思います。
―――――海外経験というバックグラウンドや、若くしてスタートアップをめざすなど、私たちの目から見るといろいろな意味で大変ダイバーシティを感じるお二人の、今の取り組みについて教えてください。
サジャッドさん(以下サジャッド):私は北海道大学大学院環境科学院で、ウキクサやバクテリアを活用し、よりよい循環型社会をつくるための研究をしています。
きっかけは、自転車で北海道内を旅行したことでした。酪農や農業の現場を目にしたのですが、排水処理がしっかりとされておらず、土壌に含まれるミネラル分(窒素やリン酸など)がそのまま流れ出ているようでした。土壌からのミネラル流出は、海洋汚染、例えば赤潮やアオコなどの原因となります。その時、自分の研究しているウキクサの栽培技術がミネラル分の除去に役立つかもしれないと思いました。ウォルフィアなどのウキクサは、水中のミネラルを吸収する優れた水生植物です。ウォルフィアの葉には、安全な植物性タンパク質が大量に含まれており、1日半で重量は2倍になります。この未利用の天然資源を、現代の技術で最大限に活用することができるのです。
ウキクサは南アジアやヨーロッパなどで栽培されてはいるものの、有害微生物の問題があって有効な栽培法は確立されていません。そこで、私たちの技術開発によってウキクサをしっかりと育てられるようにしたいと思っています。
北村さん(以下北村):私は北海道大学水産学部に所属しています。Hult Prizeという大学内のピッチイベントでFloatmealのプレゼンを聞く機会があって、おもしろそう!と思ったことがきっかけで、Floatmealに携わっていますが、学部での研究はまた別のことをやっています。
大学1年生の時から参加していた北海道大学の新渡戸カレッジ(北海道大学内の学部横断的な特別教育プログラム)は人として成長できるプログラムが豊富にあって、興味のあることには何でも参加してきました。その中でたまたまHult Prizeのイベントのお知らせをもらい、参加してみたところ、Floatmealのビジョンや考え方に共感して。今はFloatmealでマーケティングや渉外を担当しています。
山田:サジャッドさんのプレゼンのどんなところに特に惹かれたんですか?
北村:新渡戸カレッジのフェローゼミというプログラムで地球温暖化について徹底的に調べて議論し、発表するという機会がありました。それを通じて自分たちが地球温暖化の解決のために何か行動を起こさなければならないことはわかったものの、自分の行動一つだけで解決できそうな問題では無いな…と実は思ったんです。そんなタイミングで見たのがFloatmealでした。「自分ひとりだけの力じゃ何もできないけど、ここに参加したら何かできるかも!」とひらめきました。本当にいいタイミングでマッチしたんです。
山田:それで飛び込めるのがすばらしいですね。我々のように大企業に入るのが当たり前のような世代からすると、スタートアップは正直手が出しにくいなと感じます。露頭に迷ってしまわないかとか、そんなことばっかり考えてしまう。お二人にとって、スタートアップをめざすことのハードルは高くなかったわけですか?
北村:スタートアップが大企業のもつ安定性とは真逆だとはわかっているんです。それでもリスクを負ってでもできる限り挑戦してみたいです。その理由としては、もうこのわくわく感を知ってしまったから!自分の行動によって、地球温暖化の解決策の一つを世界に提供することができるチャンス、そしてFloatmealのいろんな可能性を見出してサポートしてくれる大人がたくさんいるからです。ふつうに就職してしまったら、自分の仕事が社会に役立っていることを直接的に感じたり、0から会社を作って、かつ手厚いサポートももらえる機会は少ないと思います。もし私が新卒で就職したら、「あの時Floatmealをやっていればよかった」と後悔しそうだなと。
あと、一度就職したあとにスタートアップを始めるってもっとハードルが高いのでは、と思っています。今は学生なので貯金もそこまで無いし、失うものも少ない。逆に今ならサポートしてくれる人がたくさんいるんです。今がチャンスだと思っています。失敗しても死なないですしね(笑)。
サジャッド:私は留学生として毎月学費をもらって研究活動をしていたんですが、その時は「ちょっとやってみよう」くらいに思っていたんです。でも去年のSCORE事業に採択されたことで、予算がついて、Floatmealに専念する時間も生まれました。博士課程で培った研究の経験とノウハウで、スタートアップが資金調達するうえで不可欠なコア技術ができました。そのおかげで、スタートアップをつくってみたいと思うようになりました。
山田:SCORE事業や今年のSTART事業もそうだし、NoMaps Dream Pitch、Ezofrogsなどを見ていると、採択された人への支援が手厚いですよね。専門家からのアドバイスや関係者との引き合わせなど、ひっきりなしの印象です。そういうネットワークやサポートが最大のセーフティネットではないかと思いますね。もしFloatmealがうまくいかなかったとしても、信頼できるつながりができれば何らかの形でずっと関係は続き、次のチャンスを開いてくれると思います。
―――――日本で学んでいると、いろいろな面でご自分の育ってきた環境とのギャップを感じることも多いのではないかと思います。
サジャッド:日本の学生はとても頭がいいと思いました。いろいろな考えを持っていますし、趣味や遊び、研究分野にしてもひとつの物事に没頭するような印象があります。
一方で、人生のライフプランを固定化して考えているようにも見受けられます。この年齢までは学部生、そのあとは修士、新卒で働き始めないといけない、と思っていて、そのレールから外れることが怖いと思っているようです。
山田:確かにそうですね。昔はもっとひどくて、例えば卒業後に世界1周になんて出かけると、その1年をすごくマイナスに評価されました。
北村さんが通っていたオーストラリアの学校では、自分と社会の関わりや貢献というものはどう教えられるのですか?
北村:日本では全員を同じレベルにする教育が一般的な気がします。通っていたオーストラリアの学校ではすごくよくできる子は伸ばすし、できない子へのサポートも手厚い。真ん中の平均的な子には特にサポートはほとんどありません。私はオーストラリアに行ってすぐは英語が全くできなかったので、実年齢では小学3年生だったけれども2年生のクラスに入れてもらえました。そうすると体育は何でも1番だし、日本で公文に通っていたから算数もよくできました。でも、その他は全くできませんでした(笑)。1番のものと最下位のものがあって、どちらも多くのサポートを受けることができました。
日本はできる子に対して、特に大きな評価はない印象です。通っていたオーストラリアの学校では、スポーツやミュージックのキャプテンをやったり成績上位だったり、市民活動をしたりすると、制服にバッヂを付けるんです。毎日の制服で自分の得意なことをアピールできるのは、学生にとってうれしいことです。2週間に一回、授業内外で活躍した生徒に表彰する場もありました。
山田:まさに多様性ですね。誰でも得意なことがもてるということなんですね。
北村:オーストラリアは、勉強ができなくても社会で活躍できるしくみができています。できない人を無理やりできるようにはさせない、できる人ができることをやるというシステムですね。
山田:そんな海外経験のバックグラウンドをもつサジャッドさんと北村さんがどうしてFloatmealを、日本を拠点に展開しようとしているんでしょうか?
サジャッド:理由はふたつあります。ひとつは、世界における日本のブランドイメージが非常に良いということ。私が小さい頃から、日本人が思いもよらないアイディアで人を助ける技術を開発したというニュースを見てきました。「ウキクサを食べる」ということは、なじみが無いので人によっては抵抗感があるかもしれません。でも日本の厳しい品質管理基準をクリアしたということが伝われば、世界中の人が安心して食べてくれると思っています。
もうひとつが、スタートアップに対する支援の多さです。農業系スタートアップはやっている人が少ないので、実現させたいですね。
北村:サジャッドと同じように、海外ではMade in Japanのイメージが良いということ、それに加えて日本の食料生産の大部分を支え、美味しい食べ物がある北海道から世界に向けて新しい食を発信したいと考えました。北海道旅行に来た人はまず食べ物のことを考えると思います。全国をみても、商品名やパッケージに「北海道」という言葉を追加するだけで美味しそうに聞こえるのは北海道だけだと思います。
―――――最後に、それぞれチャレンジしたいことがあれば教えてください。
サジャッド:2つあります。ひとつは資金調達をすることです。2~3年分の活動資金を得て、事業や研究に集中したいと思っています。そのために、投資家と面談したりビジネスモデルを作ったり、忙しくしています。
もうひとつが、ウキクサ栽培装置のプロトタイプを使ってくれる人を探すことです。現在開発している栽培装置のFloatfarm3.0にはいろいろなユースケースがあります。ひとつはウキクサを栽培して食品メーカーに卸すこと、もうひとつが陸上養殖の魚のえさとして使いながら、水を循環利用できるようにすることです。自分たちだけでウキクサをつくって世界中で売るのではなく、みんなに栽培してもらうのがいいと思っています。
北村:まずは、ウォルフィアを知ってもらい、国内市場の開拓をしたいと思います。今まで見たことのないような食べ物で、きっとその見た目、食感、味を知ったらびっくりすると思います。環境負荷の低い、次世代の食資源として、多くの人にウォルフィアの価値に気づいてもらい、加えて栄養源の一選択肢として選んでもらえるような商品をパートナー企業などと作り上げたいです。その後は、ウォルフィアが、例えばとうもろこしや小麦・大豆などのように農業のひとつとして世界に広まっていくための栽培システムをFloatmealチームと一緒に作り上げたいです。この記事を通して、一緒に行動したいと思っていただいた方、連絡お待ちしています!
Floatmeal コンタクトフォーム
スタートアップが立ち遅れ気味と言われる日本ですが、サジャッドさんと北村さんとのお話から、なんだかとてもパワーをいただきました!日本が長年培ってきたブランドイメージや信頼性は強みとなることは、日本にいるとなかなか認識しづらい点。その強みをベースに、いま豊富にあるスタートアップ支援をどんどん活用いただけるようなPR活動や、人材の発掘に力を入れることが必要ですし、チャレンジフィールド北海道でも取り組んでいきたいと思います。
一方「よくできる人へのサポート」がかなり重要ということも認識しました。日本ではマイナス面をゼロにするような支援は多く、「美徳」とも通じるところですが、プラス面を強化していくことが得意なお国柄ではないのかも。でもそれもとても大切な「支援」です。
誰もが得意なことを活かしてチャレンジができるような社会づくりに貢献できるよう、私たちも邁進します。「失敗しても死なない!」ですから(笑)。
(和田)