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【対談#3】クロスボーダーな人×チャレンジフィールド北海道 「VUCA時代の新しい価値とは?」~後編~

ソニー知的財産サービス(株)矢藤さんと山田総括の対談記事の後編です。
前編はこちら

-----社内スタートアップやイノベーションのイメージのあるソニーですが、現在はどのような動きがあるのでしょうか。

山田:冒頭(前編)で出た、データを活用した将来の技術トレンド予測についてはどうですか?VUCAの時代とも言われ、先行きが不透明ですが。
 
矢藤:そこはまたやってみたいと思っています。昔はGoogleなどのビッグカンパニーの動きを見ていればある程度予測できることもあったと思います。でも今はそうではなく、スタートアップ企業の動向に注目すべきだと思っています。
また、データに基づいた知財分析だけだと見誤ることがありますし、視野が狭くなってしまうのですね。そこで社内では、データから導き出せた仮説があれば、現場に出てその仮説が合っているのか実際に人に会って確かめるよう勧めています。日ごろ視野を広げておけばデータから見えてくる仮説も変わってくると思います。データ分析や仮説の組み立てと、現場に出て話を聞くことは、並列でやらなければいけないと思います。
 
山田:自論ですが、私はもう大企業や大組織というのはイノベーションを起こせないと思っています。スタートアップ企業や、ソーシャル活動をしている意志ある個人、地域組織などが、大企業や大組織をうまく使っていくことでイノベーションが起き、そして、大企業も大組織も少しずつ覚醒すると思っています。失礼ながら大学も同様で、大学に所属する研究者や学生たちが起点となり大学という組織を変え、動かしてゆくしかないと。私はNPOや地域で活動している人と機会さえあれば必ず話をするようにしています。そこから他の組織へとつないで、それぞれが有機的に動けるような、そのようなつながりがこれから必要ではないかと思いますね。

矢藤:そう思いますね。大企業の中にいると特にそうですが、一時代を築き上げた既存事業の組織は、巨体ゆえにイノベーションを興すハードルは高くなりがちと思います。既存事業の戦略から一歩踏み出そうとしても、その一歩に何千億円レベルの巨大な成果を求められてしまうこともあります。

今年ソニーのメンバーたちが立ち上げた「MUSVI(ムスビ) 」という会社は「窓※」というテレプレゼンスシステムを提供しています。これは「臨場感」や「気配」を重要視し、あたかも同じ空間にいるような自然なコミュニケーションを可能にするディスプレイツールです。元々私の部署でインキュベーションに関わっていたのですが、山間部と都会の子ども達を、「窓」を通してつなぐ実証実験を行った時、互いの空間をつないだ瞬間、双方にいる子ども達の目の色が変わって怒涛のコミュニケーションが始まりました。場の空気がガラリと変わったことを感じた瞬間、この価値は数値やデータでは表せないし、すぐに何千億といった利益は生み出せないかもしれないけれど、きっと重要な価値になるはずだと確信しました。

そしてその価値がさまざまな現場で認められるようになり、会社設立に至るまでになりました。ソニーは出資者として、「大企業は使われる側」かもしれないけれど、それでいいと思います。

「窓」
映像・音声・インタラクションの技術をオントロジカルな視点から凝縮し、距離の制約を超えて、相手が目の前にいるようなリアリティと、同じ空間を共有しているような気配や雰囲気(アウラ)を感じさせる次世代コミュニケーション装置。

MUSVI(株)ウェブサイトより

-----「新たな価値」ついてどのようにお考えですか?

山田:GoogleやAppleだって、あんなに大きくなるなんて最初は誰も予想しませんでしたよね。「窓」のように、やってみないとわからない、テクノロジーだけではなくそこに価値を生むための「感性」には開拓の余地があると思いますが、どうですか?
 
矢藤:まさに感性ですね。どうしても数値や機能に目が行きがちですが、機能=価値ではないですよね。
 
山田:そこがブルーオーシャンだと思いますね。日立も15年前まではモーター、インバーターを始めとするプロダクトがイノベーションの中心でした。そこから、プロダクトだけでなくシステムが新たな価値だと言われ始めました。そして今は、サービスと。現在は価値も多様化しており、効率やスペックのような定量化が可能な指標だけでなく、価値づけが難しいとされてきたQoL(Quality of Life 人生の質)にも更に注目が集まると良いと思いますし、そこは大学での研究や取り組みにも期待したいところです。

矢藤:「窓」や「Triporous」も機能ではなく価値を売っています。当初「Triporous」は、においを何時間吸着し続けられるか等の機能を売りのメインに考えていました。でも「Triporous」は、捨てられることの多い籾殻を原料にしているので、籾殻が廃棄処理されない分、CO2やメタン排出を抑えることができると考えています。また「Triporous」生産時に出るGHGもとても少ない。つまり、生産すること自体が環境に優しい素材を「着る」ことで、サスティナビリティへの貢献をより身近に感じられる体験、それこそが価値だと、ドイツでの展示会に出展した際、参加者の方々との対話を通じて気づきました。

 山田:新たな価値とは他者との対話から気づくものかもしれませんね。

 -----矢藤さんにとって、北海道に感じる可能性とはどのようなものでしょうか。

矢藤:もともとスキーが好きということもあって、北海道へはよく来ています。今いちばん興味があるのが「食料安全保障」。日本の食料自給率の低さは将来的にも心配です。北海道はその課題を解消するきっかけとなる可能性のある場所だと思っています。

 山田:北海道は言うまでもなく日本最大の食料生産地ですが、本州視点の「食料供給基地」という呼ばれ方には反発もあります。作付面積が大きく単作で機械化しているため、効率的に収量が維持できます。もちろん食料安全保障のためにはその観点は非常に重要ですが、労働集約型の多品種農業で、手間ひまをかける喜びが得られる農業も少しあると良いと思いますね。実際に、帯広ではそのような方向性も議論されています。
また、一次産業の抱える問題はとても複雑だと実感しています。今、チャレンジフィールド北海道では技術導入の点で関わりを持っていますけれど、農業という事業そのものの仕組みを考えるための検討や場づくりも必要ではないでしょうか。そこを大学や産業支援センターが、先行研究や先進取り組みとしてリードいただけると良いと期待しています。
 
矢藤:技術開発や研究により、単純な収量アップだけでなく、そこに生産者や地域の人の笑顔があるかどうかという視点が欲しいですよね。
 
山田:時間のかかることですが、若い世代をエンカレッジすることはそうした価値を考える時に決して無駄ではないと思います。もしかしたら早道かもしれない。今始めている高校生プロジェクトも、それがきっかけです。

-----共感する仲間をどんどん増やしていくために、どのようなことが必要でしょうか。

山田:北海道は客観的なデータを見てみても魅力が多い土地です。一方、北海道の関係者がしばしば口にされる「課題先進地域」という悲観的な思考や空気感をどうやったら変えられるのか、考えることがあります。
 
矢藤:イノベーションが興りやすい場づくり・土づくりが大事なのではないでしょうか。会社の組織で、私は、職場の環境づくりが自分の役割と思っていますし、他社さんとのコラボレーションにおいても想いを共有できる場づくりが大切と思っています。
 
山田:そうですね。良い方向へと動かそうと行動を起こしている人、コミュニティづくりをしている人、そうした多様な活動をどう盛り上げたらもう一段大きな火になりムーブメントを起こせるのか、ということに興味があります。ヒントはたくさんいただいていると思っているので、次のしかけがあるならやってみたいですね。
 
矢藤:情報発信も大切ですね。いろいろなプロジェクトを進めるにあたり、メディアに取り上げられることで、新たなファンやプロジェクト化のパートナーが見つかることもあります。やはり発信は大切だと実感しています。

山田:何かポイントはありますか?
 
矢藤:様々な情報があふれていますが、その中で気に留めてもらうには「同じことを違う人に話してもらうこと」だと思います。口コミがそうですよね。商品のストーリーに他の人も他の立場で共感し、かつその人の言葉で語ってくれるようになると大きなムーブメントとなり、さらには大きな価値になっていくと思います。
「窓」も、介護・学校・企業といった利用者の方が、彼らの言葉で語ってくれたおかげで動き出すことができました。いかに共感してもらい、かつ語ってもらえるようにするかがポイントだと思います。
 
山田:矢藤さんにもぜひチャレンジフィールド北海道のことを語っていただきたいですね。今、私たちメンバーに足りないのは、夢を持てるようなただただ楽しいという動機付けのものだと感じます。そこに是非矢藤さんはもちろんのこと、ソニーをはじめとする矢藤さんの共感者にも関わっていただきたいですね。そのためにチャレンジフィールド北海道はいくらでもお手伝いできます。
 
矢藤:社内にも地域創生や地域活性に興味のある人はとても多いのです。ぜひそうした人たちのきっかけを作る場として、チャレンジフィールド北海道とご一緒できればうれしいです。いろいろなセクター、地域の人とつながることで、ソニーの利益のみならず、北海道や日本が元気になることにつながればいいですね。


「いろいろな人と話していて気付く感覚」「徹底的に話を聞く」「実際に会って確かめる」「同じことを違う人にも話してもらう」。矢藤さんは様々な方との対話や関わりを大切にされ、それをきっかけに新たな着想を得たり、進むべき方向性を見つけたりしています。何でも調べればわかる時代、情報量もチャネルも多いのでついついデスクトップ上で満足してしまうけれど、答えはそこにはなく、人と人の間にあるのだろうなと思いました。
Well-beingやQoLといった定性的なものにようやく価値としてのスポットライトが当たるようになりました。変化が大きく不確実な時代だからこそ、確実に存在している目の前の人との関わりと、自分の感性が重要なのかもしれません。(和田)


矢藤さんにもご出演いただいた動画はこちら!(3分16秒あたりから)


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