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【対談#3】クロスボーダーな人×チャレンジフィールド北海道 「VUCA時代の新しい価値とは?」~前編~

「将来世代のために、希望あふれる地域社会を共につくりたい」
「人と組織と地域が『自分ごと』として関わり、共に成長したい。」

そのために私たちができることとは、どんなことでしょうか?
 
第3回の対談相手である矢藤有希さんは、現在ソニー知的財産サービス(株)で情報分析や新規事業創出支援に携わっています。今年度からはチャレンジフィールド北海道の「産学融合アドバイザー」にも就任いただきました。様々な事業創出やインキュベーションに関わってこられた“クロスボーダー”な矢藤さんと、チャレンジフィールド北海道の山田総括との対談から、VUCA時代の「新しい価値」について考えてみたいと思います。今回はその前編です。
 

―――――矢藤さんのこれまでの仕事や、仕事をするなかで大切にしていることを教えてください。

矢藤さん(以下矢藤):私はもともとエンジニアになるつもりだったのですが、入社後は知的財産の仕事をすることになりました。発明者との会話は、最先端の技術を知ることができてとても楽しかったですね。ただ、会社が何をめざしてどこへ向かうのかの大元が知りたいと思い、戦略系や事業系の部署で仕事をしていた期間があります。その後、戦略立案に生かすためのデータ収集や、それを活用した将来の技術トレンド予測、さらに一歩具体化し、特許の先取りとその特許技術をさらに生かすため、その技術を埋め込んだ事業を作る仕事へと発展してきました。
 
山田総括(以下山田):データ分析、特許創生、さらにはご自分で事業も創出、というように次から次へと新しいチャレンジをされてきたのですね。
 
矢藤:そうですね。ただ、「一体何の事業を始めるのがいいのだろう?どこに資本投下をすることがいちばん価値を生むことができるのか?」と悩むことも多いです。「ここだ!」という目利きは、機能やデータばかりを見ていてもできるようにならない。何が価値になるかは、いろいろな人と話していくうちに「気づく」感覚が必要だとわかり、できるだけ現場に出向き、話を聞いたり議論をするようにしています。
 
山田:矢藤さんの活動はとても幅が広いですよね。まわりの人を巻き込む時、戦略だからと上から押し付けたら何事も動かないですけど、何か「秘儀」はありますか?
 
矢藤:「秘儀」なんてものではないですが、やっぱり押し付けでは動かないですよね。まず、自分たちのコアとなるものはブレないようにしつつも「とにかく聞く」。相手が課題に思っていることなど、一度は全部聞いて受け止めたうえで、「もしかしてこうしたらどうだろう?」というものを出していきながら共感を得ていくイメージでしょうか。

山田:なかなかそれができないのですよね。ただ、何でもかんでも自分ひとりで抱え込むのではなく、まわりの仲間にもやっていただくことで、大きな仕事ができるようになりますね。チャレンジフィールド北海道でも、自発的で自律分散的な活動があちこちで元気よく動くことをめざしています。それでも「傾聴」は難しいですね。私の場合、ちょっと聞いていると5倍返しでしゃべってしまう(笑)。

矢藤:確かにそういうモードになってしまう時はありますね。ただ、私たちの場合はあまりにも知らな過ぎる業界の方とのご縁から事業創出・価値創出をさせていただいたので、傾聴できたということがあるかと思います。ソニーが開発した新素材「Triporous™(トリポーラス)」※という、籾殻から生まれた天然由来のサスティナブル素材を使ってもらっているひとつに、アパレル業界があります。そもそも私たちは、アパレル業界のサプライチェーンも、何に困っているかも、ましてや用語さえもわからない状態で飛び込みました。そんな中ではとにかく相手に聞いていくしかありませんでした。

Triporous™(トリポーラス)
籾殻から生まれた天然由来の多孔質カーボン素材。特許を取得した独特の微細構造により、水や空気の浄化など幅広い応用が期待されています。

ソニーグループ(株)ウェブサイトより

―――――「Triporous」を担当された時のことを教えてください。

山田:矢藤さんは「Triporous」には最初から関わっていたのですか?

矢藤:「Triporous」は2006年に発明されたのですが、私が担当したのは2017年からです。新事業のインキュベーションを担当している時に、「事業化して」と急に降ってきました。今でもよく覚えているのですが、ちょうど休暇で沖縄にいて、トロピカルジュースを飲んでいた時に上司から電話がかかってきて(笑)。長年試行錯誤を繰り返してきている素材ということは知っていたので、自分にできるのだろうか…というのが最初の印象でした。

山田:そこから今では大躍進ですね。

矢藤:はい、おかげさまで今では国際宇宙ステーション(ISS)でのリラクシングウェアに採用されるなど、アパレル用品、インテリア用品など様々な分野・用途でお使いいただいていますが、そこに至るまでは本当に大変でした。
私が担当しはじめた当時、社内にあったリソースは数名の開発担当者でした。途方に暮れながらも、まずはその数名からこれまでの経緯など徹底的に話を聞きました。その過程で、自社でできること・できないことが明らかになりました。自分たちでできること・やるべきこととして素材の生産・ライセンス・ブランディングに絞り、できないことは他社や社内の協力者にやってもらおう、とオープンイノベーションに舵を切ったところ、仲間が増えていったのです。

 山田:それまでに社内でオープンイノベーションの成功事例はあったのですか?

 矢藤:ないわけではありませんが、比較的ソニーは自分たちで全部やりたがる傾向があったのですね。「Triporous」やその取り組みが注目してもらえるようになると、社内ではオープンイノベーションの事例として「Triporous」が扱われることが多くなりました。

 山田:急にオープンイノベーション戦略と言っても、契約関係や事業化戦略、ブランディングなど、手順を追ってきっちりと進めなければならないので大変だったのではないでしょうか?

 矢藤:大変でしたね。契約や知的財産関係のスキルはありましたが、デザインやブランディングは社内の専門部隊に応援を依頼しました。本当に駆けずり回っていましたね。パートナーになってくれそうなところに行き、ひたすらヒアリングや売り込みを重ねていました。

 山田:私が日立の研究所でセンター長だった時、当時の上司から「山田君、“センター運営”と難しく考えるからいけない。例えば自分の家庭で起こっていることに置き換えて考えてみたらいいんだよ。肌感覚を持って、アナロジーを駆使して考えてみれば、答えはすぐ出てくるよ。」と言われ、なるほどと思ったことがあります。矢藤さんのように、徹底的に話を聞くことやそこからの気づきを大切にする姿勢、まわりに良い意味で頼っていくことは、例えばMBAで習ったとかではなく、ご自分の常日頃の感性や道理を基にして考えられているのではないかと思いましたが、いかがですか?

矢藤:そうですね。言葉にしていただいて、まさにそうだなと思いました!

 山田:矢藤さんがご自分で選んだキャリアとして、冒頭で事業系の部署を数年間経験したとおっしゃっていましたが、それまでとは異なる分野に身を置くことはとても良いですね。私は人生に悩む(笑)若き頃、日本を飛び出して4年間アメリカで過ごしました。その4年間、研究者としてどれだけ成長したかと聞かれれば怪しいけれど、物事のベースの考え方はそこで形作られたと感じています。
あとは子ども達の小中学校でのPTA会長の経験ですね。いろいろな考えを持つ方々、親御さんたちや先生方ですが、と共に「子ども達のため」という御旗を立て、まとめていく経験は、日立でマネージャーになった時に大いに役立ちました。職場で自分勝手なことを言う人は全然いないし、なんて楽なんだと(笑)。
まわり道や無駄かもしれないと思うことも、関心を持ったらちょっと手を出してみればいいですよね。その余裕の無さが今の日本社会の閉塞感の要因ではないかと思います。

 【後編は近日公開予定です】


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