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雨坂が創作で苦悩した時のこと

「羽倉茶葉店」のエピソードの一つ「井の中の少年」は、キャラクター設定にもストーリー展開にも苦悩しました。
どのようにして書き上げるまでに至ったか、ご紹介します。

最初のキャラクター設定

藤嶋ミゲル
羽倉の高校時代の友人、ハーフで混血の魔法使い、ポルトガル系
大学に入って早々女性を妊娠させて中退
両親から反対されたのを押し切る形で結婚したため、ずっと顔を合わせていない
必死で働いたものの、数年後に妻が浮気して離婚
シングルファーザーとして息子を育ててきた
しかし詐欺まがいの仕事をしており、とうとう悪いことをしてしまった
本当は自分の高校に息子を通わせてやりたかったが、できそうにない
息子は中学卒業したら働くと言ってくれたものの、そこまで迷惑をかけることもできず
息子を預けられる人を探して羽倉へ行きついた
羽倉は魔法業を行っていて、現役で魔法を使っている魔法使い
息子に魔法を教えてやることもできるだろうとの考えから、後見人に指定する遺書を残して自殺
>羽倉の反応
ミゲルは大事な友人、彼の願いを聞かないわけにもいかず、後見人となることを決意
しかし息子が中卒では何かと大変だろうしと、高山と相談した上で通信制高校をすすめる
でも息子がそんなに面倒を見てもらうわけにはいかないというため、店でアルバイトをしてもらうことに

藤嶋悟(ふじしまさとる)
15歳166cm
ミゲルの息子、しっかり者で魔法が大好き
本当は魔法を学ぶために父の母校に通いたかったが、できないことを知って中卒の道を選ぶ
少々人間不信なところがあり、羽倉には懐くが乙女のことはなんとなくライバル視
人と打ち解けるまでが長く、なかなか自分の意見も口に出せない
(むしろそんなところが乙女にとっては不安で放っておけないのだが、どうにもうまく付き合えない)
(将来的には羽倉の養子となりハルシネイションセラピーを会得、店を継ぐ)

初期構想

ついにアパートへ引っ越して一人暮らしを始める乙女、ロフトには可愛いものと本棚を作っておいて、自分の趣味のためのスペースに
初めての一人、夕食はコンビニ弁当にしてしまったが、明日からはきちんとしようと決意
次の日、仕事帰りのスーパーで梨加と遭遇、よければ夕飯ごちそうするから遊びに来てって言われる
そんな頃、ミゲルが息子を連れてやってきて魔法の話
乙女、梨加さんに誘われたから夕飯を食べに二人の住む部屋へ
宵田にはすごいにらまれるけど、なんだかんだで楽しく食事をして帰宅
誰かといるのは楽しいけれど、やっぱり一人でいる方が落ちつく
一方、オーナーも気を利かせて夕食に誘ってくれる
森脇もうちに来るか? とか言うし、真木はむしろ遊びに行っていいですか?
みんなが気にかけてくれるのは嬉しいが、なかなかすべてに応えることもできず
そんな中、休日の昼間にまた梨加さんと遭遇、何気ない景色を楽しそうに眺めている
東京の人はせかせかしてて、京都とは比べ物にならん
けど、慎ちゃんがそばにいてくれるから大丈夫
乙女も大変ではあるけれど、自分で自分が食べたい料理を作って食べて、のんびりと紅茶を飲める時間はいいと思う
ほんの少しだけ大人になれたような、そんな気がした秋の日のこと

悟の部分が極端に少ないことが分かりますよね?
このプロットには「ロフトの秘密と魔法」というタイトルが設定されていました。最終的には引き延ばされて「井の中の少年」~「ロフトの秘密」まで、全部で4つのエピソードになるのですが、このプロットのまま執筆を開始したところ、詰まってしまいました。
そこで、もっと悟にスポットライトを当てることにしました。

再構想

ようやく一人暮らしを始めた乙女、引っ越しが済んで仕事に復帰、オーナーが使ってないティーカップをくれる
その日の午後、ミゲルが息子の悟を連れてやってくる
というのも悟が自分を助けてくれたケットシーに恩返しをしたいのだと言う
ミゲルたちは高円寺に住んでおり、鷺宮や野方など、こっちの方にもいるかもしれない
ケットシーの特徴(黒猫で緑と赤のオッドアイ)を話して帰っていく二人
その猫は乙女にも見えるものらしく、普段は普通の猫のように暮らしているため、特徴と似た猫を見つけたら教えてほしいと言われる
猫は元々好きだし、気にかけてみる乙女
帰りに寄ったスーパーで梨加さんと遭遇、実はご近所さんだったことが判明
夕飯をごちそうしてもらえることになり、後日遊びに行くことに
一人暮らしの部屋、ロフト付きでロフトには趣味の物を並べておいてある
快適ではあるが少し寂しさも覚えつつある乙女
しかしながら甘えたことは言っていられない、きちんとやることはやってから就寝
次の日、仕事へ向かう道中で猫を見かける
とはいえ特徴と当てはまらないのでただの猫、ケットシーがいるわけないよなぁと思いながら通り過ぎる
真木にもケットシーの話をしておくが、なかなか見つからない
宵田家に遊びに行く乙女、宵田にはめっちゃにらまれるがなんだかんだで楽しく夕食
近くに知っている人がいると安心できるなぁと乙女
梨加さんも嬉しそうだし、何かあったら頼ってと言ってくれる
そして帰宅、シャワーを浴びて一息ついた時、ロフトから猫の泣き声がする
ドキドキしながらはしごをのぼっていくと、見たことのない猫が勝手に入り込んでいるではないか!
しかもケットシーの特徴とよく似てる
まさかと思いつつ、そっと刺激をしないようにロフトへ上がり、声をかけてみる乙女
しゃべる猫、どうやら悟のことも覚えている様子
恩返しがしたいらしいと伝えると、ケットシーはふらりとどこかへ消えてしまう
捕まえておくべきだったかと思いながらも、その日は就寝する
次の日、あのケットシーを抱いた悟がやってくる
見つけることができた、これから美味しいものを食べさせてやると約束したと
無邪気な悟を微笑ましく思いつつ、めでたしめでたし
結局ケットシーは見つけることができたのだけれど、ミゲルが羽倉に悟をしばらく預かってほしいという

プロットにしてはずいぶん細かく書いてあります。これがまさに苦悩の証。ちなみにこの時点でのタイトルは「ケットシーに恩返し」。ネタが変わっています。
しかし、このプロットに納得がいかず、もう一度書き直したのが以下です。

ある日曜日の開店直後、ミゲルが悟を連れてやって来る
ケットシーに助けられたこと、そのケットシーにお礼を言いたいことを話すミゲル
悟はいまいち浮かない顔、でも羽倉のハルシネイションセラピーに興味を示す
魔法の好きな子で、本当は母校に通わせたかったんだけど……的な話
とりあえずケットシーのことは頭に入れておくよ
帰っていく二人、悟のことが心配になる乙女たち、あの子もしかして情緒が不安定なのでは
そんなことがあった翌々日、乙女は物件見学で野方へ来ている
母と一緒に見に来ており、小さいバルコニーに猫の姿を見つける
緑に赤のオッドアイ、まさかと思いつつ猫の写真を撮る乙女
すぐに羽倉へ送信、ミゲルに確認してもらうとおそらくそう
次に出勤した日、ミゲルたちがケットシーに会えたかどうかという話
閉店後、ミゲルが来るから紅茶を淹れてほしいと頼まれる
悟の話、実はここ最近学校へ通っていない
お金がなくて高校へ通わせることすら難しいという
乙女、そんな悟にかける言葉を探す
土曜日、一人でケットシーを連れてやってくる悟
羽倉、悟に話があるからと奥へ案内する
乙女もまた様子を見ており、悟の話を聞く
高校へ通えないことが辛くて、だけど父親に頼らざるを得ない自分も嫌で
自暴自棄になっている悟、だけどそうやって自分で自分の道を閉ざしている
乙女の正論にくずおれる悟、羽倉も自分に出来ることがあれば助けるからと声をかける
結局、ミゲルに迎えに来てもらう

再々構想

しかし、やはり執筆が思うようにいきません。そこでさらに考え直しました。

ミゲルが息子を連れて来店、学生結婚した妻に何年か前に浮気されて離婚、会社の方で悪いことをしてしまったミゲルは捕まる前にと、息子を預けられる人を探している

この時にタイトルが「井の中の少年」になったのですが、これまでのプロットは何だったのかと思うほど、話がすっかり変わっています。
それでもまだ、執筆はうまく行きませんでした。

考え方を変える

どうして書けないのか、原因を探った私は悟のキャラクターがいまいち固まっていないことに気づきました。
それならばと考え方を大きく変えて、悟視点で書いてみることにします。

設定と展開の見直し

悟視点で書いたものを、乙女視点に直すにあたり、悟の父・ミゲルの設定を大きく変更しました。
詐欺まがいの仕事だの、会社で悪いことだのといった、犯罪部分をなくして普通の父親にしたのです。
こうすることで物語のメイン要素が「悟の不登校」のみとなります。何故学校へ行かないのか、その原因を探ることにスポットが当たり、ストーリー展開もすっきりしました。
また、悟の設定も少しだけ変えて、最終設定に近いものとなりました。

ストーリー展開も大幅に変更したのですが、例に漏れず最終プロットを作っていないため、載せることができません。ごめんなさい。

再執筆開始

ついに、ようやく、やっと執筆が進むようになりました……!
キャラクター設定をしてから執筆を終えるまで、約二週間もの時間を費やしました。
没になったプロットは再構成し、結果的には使うことができました。
「井の中の少年」
「秋の夜長とケットシー」
「ハッピーハロウィンの約束」
「ロフトの秘密」
と、最終的には初期構想から4つのエピソードが生まれることになったのです。ただし、「ハッピーハロウィンの約束」のみ、悟の感情の流れを考えた際に新しくできたものであり、悟の物語として見ると、執筆を終えるまでに約一ヶ月がかかっています。(4エピソード合計文字数:約43000文字)
ですが、この4つのエピソードを無事に書き終え、投稿できた際には達成感がありました。やりきった、という思いです。

というわけで、「感覚的に」創作をしている雨坂でも、こんな風に苦悩することがあるという一例でした。




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