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創作のために現実を無視した話

先月完結させた「不老の若葉」を、執筆していた時のことです。

※本編のネタバレが含まれます。ご注意ください。


タイトルにあります通り、わたしは執筆中にとある現実を無視しました。
「不老の若葉」は謎多き「不老薬」を巡る物語なのですが、その謎を解くにあたって、インターネットや書籍で細胞について勉強しました。
がん細胞やテロメア、細胞分裂などの知識を得たのです。
そして「不老薬」のメカニズムの概要も固まってきました。それが以下。

元々はがん治療のために開発された薬であり、「不老化」は副作用だった。さらなる開発により「不老化」を安定させたものが「不老薬」だった。
がん治療のために開発されたものとして、本来はがん細胞にだけ働きかける薬であったが、「不老薬」となるにあたって、全身の細胞に「不老化」が起こることとなった。

ここで注目してほしいのは「がん細胞にだけ働きかける薬」の部分です。
これ、実はもう現実にありました。

まだ承認はされていませんが、とても画期的な薬のようです。ですが、実はこれ、ウイルス製剤なんですよね。

私は考えました。
現実に「がん細胞にだけ働きかける薬」が存在するのなら、創作における「不老薬」のメカニズムはどうなってしまうのかと。
現実と同じく、ウイルス製剤ということにしようかとも思いました。
ですが、それだと他の説明がつかなくなって、再び考え直さなければならないし、読者を納得させられるかどうか分かりません。

なので、無視しました。

ウイルス製剤という言葉も使わず、ただ「がん細胞にだけ働きかける薬」とだけ書き、現実で起きていることをまったく無視したのです。
これぞフィクションです。

創作におけるリアリティ問題は、本当に難しいところがあります。
読者を納得させるために、多少のフィクションや現実との齟齬が出るのはよくあること。
リアリティはあくまでリアリティであって、現実にあるかどうか、ではないのです。現実と比べるのは無粋というものです。

ただし、フィクションは行き過ぎるとファンタジーになるため、作品の内容や作風などとの調整も必要になってきます。
作家としては腕の見せ所なんですが、この辺りのバランスは、私もまだまだ勉強中です。

今回なんて、現実を無視してフィクションにしてしまいましたし、これでよかったのどうかは分かりません。
でも、時にはこうしたことも起こりうるのだと、一人でも多くの方に知っていてもらいたいですね。



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