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花結文庫

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#300字小説

願い星は彼方

願い星は彼方

 今夜は流星群が流れるのだと、朝のニュースが告げた。流星群って?と母に尋ねると、空から星がたくさん落ちるのが見えることよ、と説明が返った。どこでも見られるからと、夜更かしが許されて、みんなで庭で空を見上げていると、母が不意に口を開いた。
「お母さん、星を捕まえられるのよ」
 ほんとに、と聞くと空に手を掲げた母が、何かを掴んだように両手を合わせる。
「ほら」
 胸の前で広げられた手の中には小さな星が

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偶像崇拝

偶像崇拝

 夢か、幻か。
 狂おしいほどに魅了するのは、優しい弧を描く唇、伏せたまつげ、胸の前で組まれた祈りの形。すべてが完璧な位置で整えられた、美しいもの。神々しいと口にすることすらおこがましいと感じながら、その美しさに酔いしれる。
 ただ佇む姿のなんと神々しいことか。出会えた幸せに、死んでもいいとさえ思えた。
 震える指先が、真白の肌に伸ばされる。
 触れたら穢れる。けれど触れずにはいられない。ぎりぎり

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透明な希望

透明な希望

 アンタ、アタシが見えるの!?
 城の倉庫で見つけたものに、おネエ口調で騒がれた。己を運べと言わて運んだ場所は、謁見の間。常ならば足を踏み入れる機会などないはずなのに、なぜか阻まれることなく気づけば赤絨毯にて御前にて叩頭せよと声がかかる。
 見えているのか。
 手に持ったそれに対する問いに是と答えると、今度は腰掛けてみろと言われた。言われた通りにすれば、感嘆の声と拍手に包まれ、祝福された。
 アン

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胸の中の星、ひとつ

胸の中の星、ひとつ

 その人は、凜と前を向いていた。
 だから、横顔しか知らなかったのだ。細いつるが印象的な眼鏡の奥、理知的な瞳は知性と探究心に溢れ、これからの魔法界を第一線で牽引していく存在なのだろうなと感じられた。
 憧れのひと。それでしまいの関係のはずだった。
 なぜならば、遠い存在の彼女は落ちこぼれの自分などとは比べものにならない実力で、強く美しく、魔法を扱う人だったから。
 凜と前を向いて、生きていくひと。

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