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24/09/26 すべてのぶどうが自転車になる(醸造体験1日目)

御徒町のワイン醸造所、BookRoadの醸造体験に参加させてもらっている。

選んだのは、マルヴァジアのコース。友人5人と一緒に申し込み、平日の作業は行ける人が有給をとるなど代わるがわるで参加するつもりだ。

今日はその1日目で、ぶどうの収穫をする。朝9:30に勝沼ぶどう郷駅集合なので、新宿からあずさで向かった。駅からはタクシーで移動し、ぶどう畑へ。着いたらぶどう農家の方から獲り方を習う。

ワイン用のぶどうの収穫方法って知ってます?

私、まったく知りませんでした。

良果(よい実)と、病果(病気になったり虫に食われていたりして捨てるべき実)を1粒ずつ選り分けながらやるんですってよ。

どうやって選ると思います??

嗅ぐんですよ。

ダメな実は、ビネガーのような酸っぱいニオイがする。逆にいい実は、見た目が枯れていたり黒くなっていても甘いニオイ。表面がカビていても、いいカビがあるらしい。貴腐ワインをつくるときに活躍するカビ。ボトリティス。でもカビっぽい見た目の、晩腐病なる病気もあったりする。

ハサミで木から房を切り取り、鼻を近づけニオイをチェック。酸っぱいニオイがしたらニオイのもとになっている粒を探して、そいつをひたすらハサミで弾いていく作業である。

これは隣の畑のぶどう。マルヴァジアではない。でもかわいい。

とにかく最初は、病果のニオイが嗅ぎ分けられない。酸っぱいと言われても、果物っぽい酸味の香りにも感じられるので混乱する。農家さんは「みなさんのテイスティング能力が試されますよ」と笑っていた。普段いかにテキトーな酒の飲み方をしているかが露呈する。

ぶどうに鼻を近づけスンスン、スンスン。あ、酸っぱいやついる!とわかっても、次はどの粒か特定しなければならない。1粒だけとは限らないし、そのあたり一帯がダメになっている場合もある。判定に迷うゾーンに時間がかかってしまう。

横で作業していた友人は「迷ったら落とす!面接と一緒!」と繰り返す。この人が面接官だったら私は即不採用にされていそうだ。

房を探ると、小さなクモが結構いる。最初は丁寧にお帰りいただいていたが、だんだん面倒になり「貴重なタンパク源ってことで……」みたいな話になったりして。飲食店で料理にコバエがとまろうものなら断固として手をつけなくなるくせに、ワインのクモはいいのかよ。

この日の勝沼は、最高気温30℃超え。THE炎天下。ぶどうを穫ればとるほど日陰がなくなる。持ってきたペットボトルの水はすぐさまお湯に変わっていた。

お昼ごはんはお弁当を用意してもらえる。この日はチーズが入ったハンバーグのお弁当。なんとワインも用意してもらえる。試飲サイズのカップに、昨年つくったマルヴァジアのスパークリング&ハンバーグと合うからとメルローを少しずついただく。作業後の冷えたスパークリングは一瞬で身体に吸収された。次いで、メルローってこんなに美味しいんだ…知らなかった…と声に出た。

昼食後は再び作業。といってももう殆ど終わっていたので、獲り残しがないか探して回るだけだ。

とんぶりみたいだな…と思っていたら、友人は「宝石みたい!」と喜んでいた。感性。

収穫が終了し駅までタクシーを……とタクシー会社に電話をした。ところが空いているタクシーが全然ない。農家さん曰く「このへんの会社はタクシー2,3台しか所有してないからねぇ」。醸造家さんの提案で、シェアサイクルを使うことにした。15分ほど歩くとコンビニがあり、そこにポートがあるはずだと。電動自転車なので楽だよと言っていた。

コンビニで自転車を借り、駅を目指す。完全車社会だと聞いてはいたが、徒歩の人は1人もおらず自転車もガンガン飛ばせる。友人同士で縦に連なり「次、右に曲がるよ〜」なんて言いながら走るのは、久しぶりの体験だった。高校生みたいだ。

微妙にエモさを感じられたのは、ほんの一瞬。勝沼は盆地である。駅は、山の上である。

つまり、どういうことですか?

文字通り死ぬほど坂があるということです。

電動自転車でも辛いレベルの急勾配。じゃあ降りて登れるかというと、電動自転車は重いので押して登る方が辛い。こぐしかない。

大人になってまで立ちこぎするなんて思いませんでした。

死んじゃうかと思いました。

先に登れた男子ふたりが「ガンバレ、ガンバレ」と上から呼んでくれるが、うるせぇ頑張っとるわいとしか思えない。15年以上築いてきた友情にヒビを入れそうになった。別に誰も悪くないので入らなかったけれど。

どうにか駅までたどり着き後ろを振り返ると、農園地帯は遥かに遠い。友人が息を切らせながら「ニセモノかと思うくらい下にあるんですけど!!」と言っていた。

サウナに入った後みたいな赤い顔と汗で濡れた衣服のまま、電車に乗って帰る。美しかったぶどうの収穫体験は、今や完全に自転車のシーンで上書き保存されている。帰りの電車は、いかにあの坂が辛かったかの話題で持ちきりであった。

30代の大人が4人。わざわざ平日に休みをとって、わざわざ山梨まで自転車に乗りに行った遠足の記憶である。





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