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成田名璃子『いつかみんなGを殺す』

他人から勧めてもらった本を読んで、20分で思いつきの感想文を書く遊びをたまにしている。

今日は成田名璃子の『いつかみんなGを殺す』を読んで。


G屋敷に住んだことはあるかい。

ゴージャスじゃない。グレイトでもない。ジーニアスでもない。

わかるでしょう。ゴキブリ屋敷よ。セメントはある。5年前くらい。駅徒歩5分、築10年くらいのきれいなおうちだった。

見た目のきれいさとは裏腹に、とんでもなくGが出た。どれくらい出たかと言うと、度々依頼した駆除業者のお兄さんから「そろそろこの地域の一般家庭で考えられるGの種類コンプリートしますよ」と言われたくらいには出た。

考えてほしいんだけど、

普通Gが出まくるのって家の中か近くかで繁殖してるときじゃん。1匹出たら30匹はいるって、ヤツら繁殖力が高いからでしょ。でも「コンプリート」するくらい桜梅桃李なGが出たの。どういう状況なの?

『いつかみんなGを殺す』もそう。老舗高級ホテルであるグランドシーズンズが、とある者の嫌がらせによって大量のGが放たれ、ゴキブリホテルと化す話だ。グランドシーズンズホテルなので略すとGホテルだねってことですか。違います。

このホテルには凄腕清掃員がいて、彼女は凄腕のGハンターでもある。常人とは思えぬスピードで、しかも素手で、Gを仕留めるのだ。

最初は凄腕ハンターにホテル中のG駆除を任せる登場人物たちだったが、次第にそうもいかず(かつ自主的に)、Gと闘えるようになる。

そこでのGは各登場人物のコンプレックスだったり思い出したくない過去と重ねて描かれており、自分にだってできるんだ、自分は変わるんだ、といった想いの丈を放つとともに、各々Gを素手でぶっ潰す様が描かれている群像劇だ。過去の恋人を引きずるピアニストだったり、東京に敗れ田舎に帰りたいと思っているベルボーイだったり、大事な場面で緊張故に味覚を失ってしまうシェフだったり。そういったGloomyな自分、Gな自分を退治する成長物語なんですねこれは。

群像劇って、グランドホテル方式って呼ばれたりしますよね。つまりG方式ってことですね。


登場人物らの成長物語に興をそそられはするものの、それに勇気づけられて自分もG退治ができるようになったかと言えば、それはそれで別の話だ。

セメントは自力でGを退治できない。キモいから。あの謎に動く触覚もヌラヌラする身体も毛羽立った脚も全部無理。何よりあの不規則な動きが無理。出るときには不思議と部屋の中の一切が無音になる感じも無理。共食いするのも無理。無理な理由100個言える。できないやつは言い訳が多い。

今の家では未だ出会っていないが(ベランダでいちど見たので引っ越しリーチです)、仮に出会ったとしても泣きながら近い順に友達へ電話をかけるだけだと思う。闘うなんてできる気がしない。その点で、『いつかみんなGを殺す』は、私にとってフィクション中のフィクションのままなのである。


ちなみにこれは駆除業者さんが言っていた有益情報なんですけど、Gを家に入れてしまう要因で意外に多いのは、

・ベランダから洗濯物と一緒に取り込んでしまうG
・飲食店から鞄に紛れて一緒にお持ち帰りしてしまうG

の2つらしい。どっちも嫌だが2つ目が嫌すぎる。TaKe out Gってことですか。TKGってそういうことですか。Gが入ってた鞄、どうすればいいんですか。



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