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アチアチ神無月

電子レンジが壊れた。約10年使った電子レンジ。お安く買った量産品なので、10年はよく頑張ってくれた方だと感じている。


壊れてしまったのは、ちょうどお昼を食べようとしたときのこと。冷凍していたごはんをチンした際にそれは起きた。

普段通り取っ手に手をかけると、スカッとした感触がある。扉が開かない。普段のようなバコっとした感触でなく、スカッとしかしない。気持ちはよくないので、スカッとするんだかしないんだか。しないんだけど。

つまり取っ手が壊れてしまったわけだ。取っ手がカクンカクンと動きはするが扉は閉ざされたままであった。

閉じ込められている。ごはんが閉じ込められているではないか。

お米には1粒に7人の神様がいると子どもの頃に聞かされた。お茶碗1杯には、約3,200粒のお米が入っているらしい。ということは、1杯×3200粒×7人=22,400人の神様が閉じ込められている。22,400人。史上最悪の閉じ込め事故である。

こちらがあたふたしているうちに、狭くて熱い中に押し込められた神々は諍いを始めたようだ。酷暑の中満員電車に詰め込まれた人間と同じ。レンジの中は、次第に騒がしくなった。プシュー。ワイワイ。ガシャン。バチバチ。

セメントは焦った。このままでは神様がポップコーンになってしまう。何か対応を調べられないかとスマホに目をやったとき、電子レンジの扉が勢いよく開いた。

モコモコのポップコーンとなった神様たちに押され、扉は完全に吹っ飛んだようだった。何か怒られるかと思ったが、誰も何も言わなかった。22,400人の神様は弾け、膨らみ、電子レンジを破壊して、キラキラと輝きながら一行はスゥっと窓から出ていったのであった。

神様一行は、いいにおいがした。

10月だから、みんなで出雲へ行くのかもしれない。出雲にはきっと、愚かな人間のせいで見た目が変わってしまった神様も集まるだろう。

電子レンジに1粒残った、弾けきれなかった硬い神様だけ、つまんで口に放り込んでおいた。

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