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【ロスティスラフ・ドゥビンスキー, 1923-1997🇺🇦ウクライナの芸術家シリーズ24】

室内楽が好きな人ならみんな知ってるボロディン四重奏団の創始者,ヴァイオリニストのロスティスラフ・ドゥビンスキー(Rostislav Dubinsky, 1923-1997)は旧ソビエト連邦ハリコフ(現ウクライナ)[1]のユダヤ系の家庭の生まれだ。ただし,書籍やサイトによってはキーフ生まれ[2]と説明されていることもあって,どちらが正しいかわからない。

[1] https://ja.findagrave.com/memorial/124812834/rostislav-dubinsky
[2]
 https://www.wikidata.org/wiki/Q48953366

モスクワ音楽院でアラム・ヤンポロスキー(Abram Ilich Yampolsky)に師事。
ヤンポロスキーは,ドゥビンスキーの1歳年下のレオニード・コーガン(現ウクライナのドニプロ出身, 過去記事はこちら)や1歳年上のボリス・ゴールドシュタイン(オデッサ出身)の師匠でもある。

ドゥビンスキーについてはあまり知らなかったのだが,Amazon Primeに加入していたらもれなく無料で読める自伝をたまたま見つけて読んだらとても面白かった。

この本には,設立当初,ドゥビンスキーを含む3人がユダヤ人だった弦楽四重奏団が,反ナチスを標榜するソ連の体制下で差別を受けて活動を制限を受けていた10年近い期間の話(メンバー交代によりユダヤ系がドゥビンスキーのみになってから状況が変わる),ショスタコーヴィチやオイストラフらが反体制下で受けた苦難や,ボロディン四重奏団が彼らから受けた支援,無実の罪で20年間強制労働をさせられた女性とドゥビンスキーの儚いロマンス,演奏会での選曲にも厳しい制限がかかる体制下での苦難などなど,ソ連で活動していた芸術家達の過酷な状況を垣間見れる。抑圧された体制下で反旗を翻すようなショスタコーヴィチの室内楽曲の解釈もいくつか書かれている。

ドゥビンスキーは,選曲も行動も厳しく制限されるソ連から亡命することになる。ただ,ボロディン四重奏団の演奏(特にショスタコーヴィチの演奏)はソ連時代が鬼気迫るものがあって良かったよねというヒトも少なくないみたいだ。今現在だって,反ロシアを声高に叫ぶのに,ロシア内で叫ぶ場合と国外で叫ぶ場合を想像すると,そりゃそうかもねとも思う。

ボロディン四重奏団はドゥビンスキーがソ連から亡命した後もメンバーを変えて,設立から70年以上たった今も活動している。特にチェロパートは創立以来2007年までの60年以上ベルリンスキーが担当。

僕が以前チェロを習っていたチェリストの一人は国内の某有名オケで首席チェリストを長い間していた方だったけど,70才を超えても海外のセミナーに参加して,大学生に混じって勉強をしていた。もう10年以上前に他界してしまったが,ボロディン四重奏団のチェリストにレッスンを受けたんだととても嬉しそうに話していた笑顔をよく覚えていて,思い出すだけで泣けてくる。

さて,紹介する演奏はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番。動画のコメント欄に,「運転中に聴くと,追いかけられている気がしてアクセルを強く踏み込んじゃったりするから,運転中は聴かないでね」とか書いてあったので,よく注意しましょう。以下は,ドゥビンスキーの自伝にあったこの曲の紹介。ボロディン四重奏団はショスタコーヴィチとの親交も深く,ショスタコーヴィチに請われて彼の新作の四重奏曲を彼自身の自宅でも演奏したりしていた。

その音楽には作曲家の人生があった。苦く痛めつけられた人生が。弦楽四重奏8番は戦争とファシズムの犠牲者に捧げられている。曲の冒頭に出てくる音符レミドシは、ショスタコーヴィチのイニシャル(D. SCHostakovich, D-Es-C-H)をドイツ語の音名にしたものだ。弦楽四重奏第8番ハ短調作品110は5つの楽章からなり、切れ目なしに演奏される。第1楽章は「レミドシ」の主題によるゆっくりしたフガートだ。第2楽章の怒り狂ったスケルツォには、ピアノトリオ第2番作品67のユダヤ風メロディーも使われている。第3楽章は激しいワルツ、第4楽章は犠牲者のためのレクイエムだ。そして最後に再び作曲者のイニシャルを持つ苦いフガートが弱音器付きで演奏される。
(中略)
第4楽章に来た。この楽章は、まるで爆弾が上から落ちてきて地上で爆発するように、あるいはまさに心が張り裂けるように響く。次に古いロシアの歌「重い縛りに痛めつけられ」が現れ、やがて全曲の頂点として歌劇「カテリーナ・イズマイロヴァ」のメロディーが引用される。この歌劇の最後のシーンで囚人たちがシベリア川を移送される際、カテリーナはセルゲイのためにすべてを犠牲にしたのに、セルゲイは彼女を裏切りソネートカと関係を持つ。このシーンのインパクトは絶大で、全聴衆もオーケストラも出演者もステージから目が離せない。劇場の警備員ですらセルゲイとソネートカに向かってつばを吐く。カテリーナだけが何も知らず、セルゲイと会えることに幸せを感じている。傲慢なソネートカが現れ、取り返しのつかない破局にカテリーナは勘付いていく。カテリーナは氷のように冷たい川へ身を投げ、ソネートカを道連れにする。
(中略)
ここではそのメロディーは作曲者自身の孤独感であり、避けようの無い最期が予感されている。

ドゥビンスキー著「ボロディン弦楽四重奏団創立者は語る」より


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jun
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