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やや敵対している組織がいる卓球サークルの話

趣味で卓球を始めた。
体力づくりのためだ。体力を付けるためならもっと動くスポーツが良いのでは?と思われるかも知れないが、そもそも私の住む地域は田舎で社会人スポーツサークルはそれほど選択肢がない。
ざっと見て平日19時以降活動していて且つ初心者歓迎なのが、卓球サークルしか無かったのである。
メンバー募集サイトで見かけて応募すると、その日のうちに代表の「宮田さん」から返信があった。

「ご家族の許可は得られていますか?」
私が最初に妻子有りと伝えたからだろう。まずはそこから始まり

「どういう理由で卓球を始められたいんですか?」
「ラケットやシューズはお持ちですか?」
「他にスポーツはされていますか?」
「サークルを掛け持ちするつもりはありますか?」
「もし掛け持ちする場合、ダブルブッキングしたときはどのように対応されるおつもりですか?」
「別のサークルに入る場合連絡してくれますか?」

などなど、質問が押し寄せる。
面倒と思いながらも、もしかしたらもうすでに試験は始まっているのでは?と考えた。
めんどくさがらずに丁寧に返せるかどうかのテストである。

どうしても卓球がしたいわけではないが、こちら側が断ることはあるにせよ、サークル側から入会拒否されるのはなんとも釈然としない。
テストを合格した後に嫌ならこちらから入会拒否を申し出たい。

イニシアチブを持っておきたい。
だから私は努めて丁寧に返答した。

「体力づくりとスポーツコミュニティでの交流が主な理由です」
「持っておりませんが準備して伺います」
「ウォーキングなどは行っていますがスポーツは経験ありません」

と丁寧に答えていく。
返信し、これで終わりかと思いきや。

「交流が理由とのことですが当サークル外で他参加者と交流したりすることは固く禁じております」
「ラケットは100均などに売っているおもちゃでは使い物にならないのでせめてレク用を用意してください」
「ウォーキングはスポーツでは有りません」

なぜか責められているような感覚を得た。
質問に答えるとアンサーへのディスが始まったのだ。
いつから私はラップバトルに巻き込まれてしまったのだろうが。

「禁じてる。俺はそんなこと知っている。お前より先んじているぜ未来へイヨー」
「100均をまるでバイキン扱い。レク用以外も応用していくStyle」
「スポーツ。スパッツ」

このような具合で返したい気持ちをぐっと堪え、ChatGPTを駆使しながら返していく。
そしてついに

「問題なさそうですのでまずは体験という形で参加させます」

どうやら一次試験は突破できたようだ。
注意文と規則事項が送られてきて、これに同意してほしい。とのことだった。

■時間厳守
・遅れる際は連絡をお願いします。
■守秘義務
・参加するにあたって活動場所や時間等サークルに関する情報を第三者に漏洩しないこと。サークルに入れなかったとしても同様。
※どうしても家族に活動場所を伝えないといけないとかであれば、奥さんのほうにも守秘義務の徹底をお願いします。
穴場の場所を使っていたり、予約を勝手にキャンセルされたりなど防止の為。
■その他
・メンバーとの連絡先の交換等は禁止。
・他のサークルとのかけもちを考えているようであれば必ずご連絡ください。
※副業勧誘系のサークルや、やや敵対しているサークルに出入りされるとなれば当サークルへの参加を検討させていただくことになります。
・参加費はお釣りが出ないようにお願いします。
※基本は2時間500円。
・あくまで体験での参加になります。万が一マナーなどに問題があった場合、サークルへの加入を約束はできませんので、予めご了承ください。

規則自体は一般的な部類だと思うが、言葉の端々に見られる加害性が気になった。
その他の注意事項に「やや敵対しているに出入りされるとなれば当サークルへの参加を検討」とある。

まず、やや敵対している組織があるようだ。
敵対組織から受けた過去の嫌がらせとして、予約を勝手にキャンセルされたことがあると思われる。
家族すら信用できない内部紛争も過去に発生した可能性がある。

これは、かなり危険な匂いがするぞ?
さらに、サークル外での交流以前に、そもそもメンバーとの連絡先の交換を禁止している。
過去にそういうゴタゴタがあったのだろうか。
詳しくは不明だがとにかく、グループ内外での問題は多そうだ。

しかし、ここまで丁寧に体験者に説明、審査する主宰はかなり面倒見の良い人物であると思われる。
対立グループがあっても活動を続ける忍耐力と、サークルを運営する責任感がうかがえる。
さらに最初の質問が家族への配慮はあるかどうか。ということからおそらく3~40代の主婦だろう。
すこし細かいことが気になるタイプで、それ故に煙たがれる事もある。という。

まぁ仕方ない。サークルを守るためだから。
母猫が子供を守るためにものすごい形相で威嚇するような、そんなイメージを覚えつつ、規約に同意し、集合場所と日時を聞いた。

当日、集合場所に15分前に到着し、主宰へ連絡すると
「まだ前の時間の方たちが使われておりますのでスタンバイルームでお待ち下さい」
と言われる。始めて訪れる市営の体育館だった。フロアマップを頼りに「待機室」と書かれた部屋に入る。

部屋の奥にはすでに男性が二名居り、一人は腕を組みながらブツブツと仕事の愚痴を言っており、もうひとりは長椅子に寝転がってそれを聞いていた。
私は入口側のテーブルに座って本を読みながら時間を潰す。
奥の二人は知り合いなのだろう。腕組みの男が
「あの対応はないよ。デュエマで言ったらライフ1000の時にあのカードを~」
デュエマとはおそらくカードゲームのデュエルマスターだろうか。私は名前しかわからないが、職場でちょうどデュエマに例えられる事態に遭遇したいのだろう。男は少し得意げに愚痴を話す。
それを聞いていた寝転び男は高くか細い声で「はにゅ~」「しょうなんらねぇ~」と相づちを打っている。

独特なコミュニケーションを取る二人組を私は横目で見つつ、時間になるのをまった。

「あのさっき挨拶してきた黒髪のメガネの子が、遊戯王で言ったら木馬に似ててさ・・・」
「あの子はねぇ~新しく来たこだにゅ~ん」
「そうなんだ。戦闘力いくつ?」
「ふにゅ~ん。6くらい?」
「わろす」

会話を盗み聞くのは良くないと思いつつも、あまりにも衝撃的なキャラクター像の二人に私は目が離せなくなった。
決して関わりたくはないが、傍から見ている分には面白い。
そんなことを考えながら定刻まで残り3分ほどとなった時。

「そろそろいきましゅか~」
寝転び男は体を起こして待機室の入口へと向かう。
そして私の前を通り過ぎる瞬間に両手を後ろに伸ばし
「きゅうぶれ~き~」と言い立ち止まりこちらを向く。
私の眼の前に着た寝転びふにゅ~ん男は体を左右にくねくねとくねらせながら
「見学の方ですよね?代表の宮田です~よろしくにゅ~ん」
といった。

あまりの衝撃に言葉が出なかった。
イメージと違いますねとも言えず、半笑いで「よろしくお願いします」と挨拶を交わした。

体育館は季節柄とんでもない熱気をはらんでいて、1試合動くと汗が溢れ出す。
私は参加者の中で比較的初心者の方と対戦しボロボロに負かされた。

卓球は楽しくて、あっという間に時間となり、片付けを終えて解散となった。

質問といい、規則事項といい、人物像といい、何もかもがエキサイティングなサークルだった。
人生の刺激としてこれ以上無いというほど興味深く、また新たな発見や価値観を見いだせた素晴らしい機会だったと思う。

それはそうとサークル入会は断った。
普通に怖い。もっと平和なサークルを探すことにする。

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