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Jonathan's Space Report No. 830 日本語版

 本記事は、天文学者のジョナサン・マクダウェルさんが発行されている『Jonathan's Space Report(JSR)』No. 830の日本語版です。

オリジナル版はこちら


2024年3月1日 マサチューセッツ州サマービル

国際宇宙ステーション(ISS)

 ISSでは、第70次長期滞在(Expedition 70)が継続中である。

 米民間企業アクシアム・スペース(Axiom Space)による宇宙飛行ミッション「アクシアム3(Axiom-3)」は、協定世界時2月7日14時20時にISSから分離した。同ミッションにはスペースXのクルー・ドラゴン宇宙船が使われており、2月9日12時37分ごろ、後部にあるトランク部分を分離し、高度223×293kmの軌道に放出した。

 宇宙船はその後、12時41分に軌道離脱燃焼を行い、13時30分に、西経29.8度、北緯80.7度付近の、デイトナ・ビーチ沖の回収エリアに着水した。

 ロシアの「プログレスMS-24」補給船は、協定世界時2月13日2時9分、ズヴィズダー・モジュールから離脱した。その後、5時16分に軌道離脱噴射を行い、5時52分ごろに南太平洋の上空で再突入した。

「プログレスMS-26」補給船は2月15日に、バイコヌール宇宙基地から「ソユーズ2.1a」ロケットで打ち上げられた。船内には2500kgの補給物資が搭載されていた。打ち上げ後、協定世界時2月17日6時6分に、ズヴィズダー・モジュールの後部ドッキング・ポートにドッキングした。

 2月24日0時21分にはスラスターを噴射し、ISSを1.2m/s増速させて軌道を調整した。

中国宇宙ステーション(CSS)

 CSSは協定世界時2月19日9時35分ごろ、約5m/s増速し、軌道を上げた。詳細は不明だが、ドッキング中の「天舟七号」補給船のスラスターによって行われたものとみられる。

捷竜三号

 中国航天科技集団第一研究院((中国運載火箭技術研究院)傘下の中国長征火箭は2月3日、南シナ海に浮かべたバージ船「博潤九州」から、固体ロケット「捷竜三号」を打ち上げた。打ち上げ場所は東経112.05度、北緯21.54度とみられる。

 この打ち上げで、9機の衛星が降交点通過地方時10時35分の太陽同期軌道に入ったことが確認されている。

 打ち上げられた衛星は、

  • エジプトの「NExSat-1」(ベルリン・スペース・テクノロジーズと共同開発)

  • 威海レーザー通信先進技術研究院のレーザー通信試験衛星「威海一号01星」と「同02星」

  • 国星宇航などの「星時代18星」、「同19星」、「同20星」(19星はStar Mobile Lianxin Tech Devと、20星は四川衛星テレビとの共同開発)

  • 中国空間技術研究院の「東方慧眼高分01星」と「煙台二号」

  • 北京智星空間が開発した「智星二号A」

 なお、このうち1機は「DRO-L」という名前でも呼ばれていることが確認されているが、どの衛星のことなのかは判然としない。

PACE

 NASAの地球観測衛星「PACE(Plankton, Aerosol, Cloud, ocean Ecosystem mission)」は2月8日、ケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションからファルコン9ロケットで打ち上げられた。

コスモス2575

 ロシア国防省の新しい低軌道衛星「コスモス2575」が2月9日に打ち上げられた。これは昨年12月に打ち上げられたコスモス2574と似たミッションを行うようである。

スターリンク衛星の打ち上げ

  • 2月10日……スターリンク グループ7-13(22機)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地

  • 2月15日……スターリンク グループ7-14(22機)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地

  • 2月23日……スターリンク グループ7-15(22機)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地

  • 2月25日……スターリンク グループ6-39(24機)、ケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーション

  • 2月29日……スターリンク グループ6-40(23機)、ケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーション

USSF-124

 スペースXは2月14日、米宇宙軍のミッション「USSF-124」を搭載したファルコン9ロケットを打ち上げた。

 USSF-124ミッションは、米国ミサイル防衛局のミサイル追跡衛星「HBTS」2機と、米国宇宙開発局のミサイル追跡衛星「トランシェ0トラッキング・レイヤー」4機からなる。

 このうち1機のHBTSSはノースロップ・グラマンが製造した。もう1機のHBTSSと4機のトランシェ0トラッキング・レイヤー衛星はL3ハリスが製造した。

 これらの衛星は高度1000kmの円軌道に投入された。

 打ち上げ後、ファルコン9の第2段機体は、軌道の1周目が終わる直前に、米国東部上空で軌道離脱噴射を行い、マダガスカルの南東で大気圏に再突入した。

IM-1

 スペースXは2月15日、ファルコン9ロケットを打ち上げ、米宇宙企業「イントゥイティヴ・マシーンズ」の月探査機「オデュッセウス」(ミッション名「IM-1」)を月遷移軌道に投入した。

 ファルコン9はまず、協定世界時6時12分に高度160×242km、軌道傾斜角28.6度のパーキング軌道に入ったのち、6時46分にインド洋上で第2段エンジンを再着火し、高度223×41万1633km、軌道傾斜角28.6度の月遷移軌道に到達した。

 IM-1は6時53分にファルコン9の第2段から分離された。第2段機体は月をフライバイし、太陽周回軌道に入る予定である。

 IM-1は2月20日20時47分に、月の作用圏に入り、21日14時36分に高度100kmの月の極軌道に入った。

 2月21日の遅くには、高度12×250kmの楕円軌道に変更された。

 その後、近月点付近でシステムの試験中に、メインのレーザー距離計が機能しないことが判明した。その後の調査で、打ち上げ前の作業中における、スイッチの設定ミスが原因だったことが判明している。

 このトラブルを受け、管制チームは、高度データの取得に、実験用に搭載していたナヴィゲーション・ ドップラー・ライダー(NDL)システムを使用するようにソフトウェアを書き換えることにした。これにより、月面への着陸がやや遅れることとなった。

 最終的に、IM-1は2月22日23時12分に、高度12kmから動力降下を開始した。そして23時23分に「マラパートA」クレーター付近に着陸した。

 機体はタッチダウン時に転倒し、水平面に対して30度傾いた状態になったが、まだ通信を続けている。

 着陸の直前には、エンブリー・リドル航空大学が開発した小型の観測機器「イーグルカム(Eaglecam)」が月面に向けて放出される予定だったが、ナヴィゲーション・システムの変更により放出は中止された。最終的に、着陸した状態で、1月28日に放出されたが、データは返ってこなかった。

 その後、IM-1に搭載されているすべての実験機器から、いくつかのデータが送られてきた。そして2月29日に、着陸地点が夜を迎えたのに合わせて休止状態に入った。次に夜明けを迎えた際に復活するかどうかは不明である。

H3ロケット試験機2号機

 2月17日、日本の「H3」ロケットの試験機2号機の打ち上げが成功した。

 打ち上げにより、2機の超小型衛星が太陽同期軌道に投入された。ダミー・ペイロードとして搭載されていた質量2900kg(?)の「ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)」は、第2段に取り付けられたまま分離試験を行ったのち、インド洋上空で軌道を離脱し、大気圏に再突入した。

(訳者注:VEP-4の質量は約2600kg)

GSLV-F14

 インド宇宙研究機関(ISRO)は2月17日、「GSLV」ロケットF14を打ち上げ、気象衛星「INSAT-3DS」を静止トランスファー軌道に投入した。

 衛星の質量は2275kgで、気象イメージャー装置、データ・リレー機器、UHF捜索救助用トランスポンダーが搭載されている。

ADRAS-J

 アストロスケールの実証衛星「ADRAS-J(Active Debris Removal By Astroscale – Japan)」は、ロケット・ラボの「エレクトロン」ロケット44号によって、ニュージーランドから打ち上げられた。

 ADRAS-Jは質量150kgの衛星で、軌道上に残留しているH-IIAロケット15号機の第2段機体(33500、2009-002J)への近接運用と検査を行うことを目的としている。2月29日の時点で、ADRAS-Jは大きな軌道変更を行っていないようである。

メラ・プティ2

 2月20日、スペースXはインドネシアの企業テルコム(Telkom)の通信衛星「メラ・プティ2(Merah Putih 2)」を打ち上げ、スーパーシンクロナス遷移軌道に投入した。

 メラ・プティ2は質量4000kgで、タレス・アレニア・スペースの衛星バス4000B2を使用している。

メテオールM 2-4

 2月29日、ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは、気象衛星「メテオールM 2-4」とロシアの小型衛星17機、イランの小型地球観測衛星「パールス1」を、降交点通過太陽地方時(LTDN)が3時00分の太陽同期軌道に打ち上げた。

 打ち上げには「ソユーズ」ロケットが使われ、ソユーズの第3段は協定世界時5時52分に高度約12×180km、軌道傾斜書角98.6度の軌道に入り、6時13分ごろに北緯25度、西経42度付近の大西洋上空で再突入した。

 第4段にあたる「フレガート」上段は、協定世界時5時54分に1回目の燃焼を行い、高度180×800km、軌道傾斜角98.6度の軌道に達した。

 6時40分には、遠地点で2回目の燃焼を行い、高度812×824km、軌道傾斜角98.6度の軌道に入った。メテオールM 2-4はこの軌道に投入された。

 フレガートはおそらく7時22分ごろに3回目の燃焼を行い、近地点高度を500kmに下げたようである。それに続いて、8時10分には4回目の燃焼を行い、高度486×509km、軌道傾斜角97.4度の円軌道に入った。

 搭載されていた衛星のうち、14機はこの軌道で分離された。そのうち、おそらく12機はロシアのマイクロエレクトロニクス企業シトロニクスの3Uキューブサット「シトロAIS(SITRO-AIS)」とみられ、そのほかは同社の地球観測衛星「ゾールキー2M No. 2(Zorky-2M No. 2)」、イランの地球観測衛星パールス1(質量134kg)だったとみられる。

 フレガートはその後、8時48分に5回目の燃焼を行い、高度502×750km、軌道傾斜角95.4度の軌道に乗り移った。

 残りの4機の衛星は、この軌道で分離された。おそらくこの4機は、最後のSITRO-AIS 衛星だったとみられる。

 9時36分に、フレガートは6回目の燃焼を行い、高度732×752km、軌道傾斜角89.0度の軌道に達した。軌道傾斜角が大きく変化している点に留意すべきである。

 ここでは1機の衛星が分離されており、おそらく「マラフォーン」衛星通信コンステレーションのダミー試験衛星であるマラフォーンD GVM であると考えられる。

 米国宇宙軍によると、最終的にカタログ化された物体は、高度710×752km、軌道傾斜角89.0 度の軌道上にあることが確認されている。これはフレガートとみられ、おそらく軌道から離脱するのではなく、最後の衛星を分離したあと、小規模ながら不活性化させる運用が行われたものとみられる。

中国運載火箭技術研究院(CALT)の打ち上げ

 中国の「長征五号」Y7ロケットは、2月23日に文昌衛星発射センターから打ち上げられ、軍事衛星「通信技術試験十一号」を静止トランスファー軌道に投入した。通信技術試験十一号は、新世代の大型SIGINT衛星と考えられている。

 2月29日には、西昌衛星発射センターから「長征三号乙」ロケットが打ち上げられ、「衛星インターネット高軌道衛星01星」が軌道に投入された。軌道パラメーターは現時点でまで不明となっている。

X-37B

 米宇宙軍の無人スペースプレーン「X-37B」のOTV 7ミッションは、サテライト・ウォッチャーのTomi Simola氏によって、南緯 37 度付近に遠地点をもつ高度323×3万8838km、軌道傾斜角59.1度の軌道に乗っていることが特定された。

木星探査機「ジュノー」

 NASAの「ジュノー」探査機は、木星の極を回る高度917×606万8000km、軌道傾斜角97.4度の軌道にあり、協定世界時2月3日の17時47分に、高度1496kmで衛星イオに接近した。この接近通過によりに、探査機の近木点(木星に最も近づく点)は2000kmまで上昇した。

ヴァーダ(Varda)

 米宇宙企業ヴァーダ・スペースの材料実験用宇宙機「ウィネベーゴ1」は、2月21日に地球に帰還した。

 着陸に先立ち、2月19日5時58分に、軌道が高度504×523kmから約302×508kmに変更された。続いて2月20日19時53分ごろに行われた2回目の燃焼により、宇宙機は高度302×908kmの軌道に投入された。

 その後、ロケット・ラボの「フォトン」サーヴィス・モジュールは2月21日20時44分に軌道離脱噴射を行った。

 そしてヴァーダW-1のカプセルは、21時08分に分離された。W-1は耐熱シールドによって大気圏に再突入し、21時40分、西経113度、北緯40度付近のユタ試験・訓練場に着陸した。一方、フォトンは突入時に燃え尽きた。

万里鏡1号

 北朝鮮の偵察衛星「万里鏡1号」衛星は、2月21日から24日にかけて、複数回の小規模な軌道変更を行った。おそらく大気との抵抗による高度の降下に対応するための軌道変更とみられる。

 2月18日には高度488×508kmだったが、本ニューズレター発行の時点で、高度497×508km、軌道傾斜角97.4度になっている。

正誤表

 前号のJSRにおいて、「天舟七号」に関する文章にタイプミスがありました。打ち上げ日は1月14日ではなく1月17日でした。

訳者より

 本記事は、天文学者のジョナサン・マクダウェルさんが発行されている『Jonathan's Space Report(JSR)』の日本語版です。

 JSRは、マクダウェルさんが1989年から、毎月1~2号の頻度発行されている宇宙開発に関するニューズレターで、最近の衛星打ち上げをはじめ、国際宇宙ステーションでの活動、特筆すべき宇宙活動などをまとめたもので、米軍などの機密ミッションに関する推測、NASAの発表やメディアの報道の誤りの指摘なども含まれ、高い信頼性で知られています。

 基本的には原文に忠実に訳しつつ、日本において知名度が低い事柄など、必要と思われる部分については、原文の意味を損なわない程度に若干の補足や言い換えを行いました。一方で、基本的に省略は行っていません。

 また、訳者の誤解などにより、間違いがある可能性があります。正確な内容をお知りになりたい場合、引用をされたい場合などにつきましては、原文を参照していただけますと幸いです。


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