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『The video game theory reader』の紹介

 今回は,以下に示すゲーム研究をテーマとした洋書をご紹介します。ゲーム研究の本は,海外ではたくさん出版されています。それらのうちで,参照するに値すると思われるものを取り上げます。

Wolf, M. J. P., & Perron, B. (Eds.) (2003). The video game theory reader. New York: Routledge.


どのような本か

 全13章からなるゲーム研究の学術書です。ゲーム研究に関わる研究者たちが各章を執筆する形になっています。「入門書」として位置づけることはできますが,トピックが多様であることから,「入門的な論文集」とみなしたほうがよいかもしれません。ビデオゲームに関わる研究者や開発者向けの本だといえます。

 編著者のWolfは,これまで多くのゲーム研究の本を書いている研究者です。Wolfのビデオゲームのジャンル分類は,他の分野の文献でも見かけることがあるので,比較的有名だと思います。


本書の特徴

 出版年が2003年であることから,「ゲーム研究(game studies; ゲームスタディーズ)」では初期の本だといえます。本書のトピックは様々ですが,ゲーム研究を象徴するトピックとして,第10章が挙げられます。この章の執筆者は,ゲーム研究では有名なゴンサロ・フラスカ(Gonzalo Frasca)で,ルドロジー(ludology)の提唱者です。ゲーム研究について勉強すると必ずといっていいほど見かけるのが「ナラトロジー(narratology)対ルドロジー」の話でしょう。本書の第10章もこのトピックを扱っています。

 ナラトロジー(narratology)は「物語論」と訳されています。主としてルドロジーが提唱される前からあった,物語としてのビデオゲームについて論じるための方法を指します。すなわち,小説や映画などの物語メディアを論じてきた方法を,ビデオゲームについて論じるために使うというやり方がナラトロジーだとされています。これに対して,ルドロジーは「遊び論」などと訳され,ゲームそのものを論じるための方法として提案されたといわれています。

 つまり,ルドロジーは「ゲームをゲームとして研究しよう」という立場を示すもので,初期のゲーム研究のひとつの潮流だといえます。本書は少し古くなりつつありますが,初期のゲーム研究について知るための文献として活用できると思われます。


 以上,ゲーム研究の洋書の紹介でした。本書のタイトルになっているvideo game theoryは,複数の主体の合理的な意思決定モデルを扱う「ゲーム理論(game theory)」とはまったく異なるものです。ゲーム理論のほうがはるかに有名で,この理論はビデオゲームとは直接的に関係しないことに注意すべきです。その意味では,本書はタイトルが良くないかもしれないと思います。

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