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『それは「ポン」から始まった』の紹介

 今回は『それは「ポン」から始まった―アーケードTVゲームの成り立ち―』(赤木真澄,アミューズメント通信社,2005)についてご紹介します。


どのような本か

 本書は,2000年代初頭までのビデオゲームの歴史(ゲーム史)を綴った500ページを超える本格的な歴史書です。最初のビデオゲームといわれる『テニス・フォー・ツー』より以前からあった,業務用アーケード機の種類である「エレメカ」の歴史から始まって,家庭用ゲーム機が発展してアーケードゲームにも大きく影響を与えるに至るまでの歴史を,客観的な記述で解説しています。


本書の特徴

 近年は,ゲーム研究関連の書籍が一気に増えてきました。本書はゲーム研究関連の書籍が数多く出版されるようになるよりも少し前の時期に書かれていますが,圧倒的な量でビデオゲーム史を記述している本格的な歴史書です。サブタイトルに「アーケード」とあるように,アーケード機を中心に解説が進められていきますが,少しずつ主流になっていく家庭用ゲームについても合わせて解説されています。

 アーケードゲームの情報発信に携わってきた著者が,主観的記述を避けながら,収集してきた資料と取材記録をもとに,代表的なビデオゲームについて時代順にまとめています。そのため,信用できるビデオゲーム史の本のひとつになっています(もちろん,ビデオゲーム史を学術的な研究テーマとするような場合は,本書だけでなく,さらに多くの資料を比較参照すべきです)。ビデオゲームの数は膨大であるため,ビデオゲーム史の全体像を網羅的に説明することは困難ですが,重要な作品はもれなく解説されているので,出版されてから約15年が経過した現在でも,ゲーム研究の参考書として使えます。

 また,平易な文章で書かれているため,とても読みやすいです。掲載されている写真は読者のイメージを膨らませ,理解を助けてくれます。一般向けの読み物としては量がやや多いですが,その読みやすさのおかげで,読み切ることは難しくないと思います。もちろん,ビデオゲームの開発や研究に関わる方であれば,ぜひとも手元に置きたい本です。巻末には文献リストがあり,参考になります。


 たいていのことに当てはまることですが,相対化しなければ対象の理解はほとんど不可能です。個人的には,ビデオゲーム史の重要な出来事は生まれる前や物心がつく前にすでに起きていることが多く,例えば『スペースインベーダー』のブームに伴って起きた社会現象などを実感をもって語ることはできないため,本書がなければ視野が大きく狭まってしまっていたと思います。いまだに忘れた頃に参照するような良書ですので,ゲームが好きで深く理解したい方にオススメします。

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