見出し画像

『ゲーミフィケーション』の紹介

 今回は,『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える―』(井上明人,NHK出版,2012)についてご紹介します(以前,この本の書評を書いたことがあったのですが,それを載せていたWebサイトがなくなってしまったため,こちらに移すとともに,改めて書き直して公開しています)。


どのような本か

 「ゲーミフィケーション」とは,一言でいえば,ゲームの仕組みを現実の社会活動に応用することです。ゲームの仕組みを利用するという取り組みは,比較的新しいものであり,馴染みがないと感じる方は多いかもしれません。本書は,平易な文章で多くの事例を紹介していて,ゲーミフィケーションの概説書として,とても読みやすいものになっています。ゲームのもつ力を利用し,実際に現場にゲーミフィケーションを取り入れるための方法について考えようとしている方には最適の本です。さらに,著者の井上さんは「ゲーム研究」に携わる研究者です。本書ではゲーム研究にアプローチするために必要な,重要な概念がいくつか紹介されています。付録のブックガイドも含めて,ゲーム研究の資料としても活用できる一冊であるといえます。


ゲーミフィケーションの可能性

 ゲーミフィケーションはすでに,私たちの日常でありふれた存在になりつつあります。ゲーミフィケーションの代表的な例として「バッジ」を用いたシステムが挙げられます。noteのダッシュボードのバッジは,この例のひとつであるといえます。私たちはバッジがたくさん集まるとうれしいですし,いったん集め始めれば,まだ取得していないバッジが欲しくなります。バッジの取得条件を満たすために,新しいことを始める人もいるかもしれません。バッジのシステムがあるのとないのとで人の行動に差が出てくるということは容易に想像されると思います。このように,バッジ(アイテム)による動機づけというのは,ビデオゲームには当たり前のようにシステムの中に組み込まれています。バッジのほかにも,ポイント,順位づけ(順位の可視化),ミッションの設定,レベルの設定などがあります。ビデオゲームではなく,子どもとの遊び(ゲーム)の中に似たようなシステムを組み込んで子どもを楽しませようとするといったことは,大人がよく用いる手段です。

 ゲーミフィケーションの可能性は,ゲームとまったく異なる活動の中にゲームの仕組みを活用することができるという点にあると思います。仕事や勉強,退屈な作業,ダイエットなど,私たちの日常生活の中にゲームの仕組みを活用することは,それほど難しくありません。簡単かつ低コストで応用可能であるという点がゲーミフィケーションの強みであるといえます。


 本書の出版当時は,ゲーミフィケーションは新しい概念として注目され,バズワードのようになっていました。今では流行が落ち着いて,正しい認識が広まったように思われます。流行をもたらしたほどには重要かつ応用可能性のある概念です。少しでも関心をもたれた方にはオススメします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?