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『教養としてのゲーム史』の紹介

 今回は,『教養としてのゲーム史』(多根清史,ちくま新書,2011)についてご紹介します(以前,この本の書評を書いたことがあったのですが,それを載せていたWebサイトがなくなってしまったため,こちらに移すとともに,改めて書き直して公開しています)。


どのような本か

 本書は,主として1980年代から1990年代までのビデオゲームの歴史(ゲーム史)を扱っています。ゲーム史における重要な作品に言及しながら,ゲーム開発と不可分な技術と開発者の着想,およびプレイヤー(あるいは,ゲーム市場)の欲望という視点から,ビデオゲームの進化を追っていきます。


本書の特徴

 ビデオゲームの歴史は,小説や映画といった他のメディアと比較するとかなり短いですが,すでに膨大な数が世に出ています。それゆえ,現状はゲーム史の全体像を網羅的に説明することが難しくなりつつあります。しかし,1990年代までにおおよそのゲームジャンルが確立していることから,すべてを網羅せずに俯瞰することはできます。日本のゲーム史を扱った本は少ないため,本書は貴重な資料になっています。ゲーム史の議論を深める役割を,本書は十分に果たすと思われます。

 本書の特徴のひとつとして,やや修辞的な文体が挙げられます。そのため,人によってはやや読みにくい印象を受けるかもしれません。また,学術的な記述にこだわらず,やや冒険的な論述を試みている点にも注意すべきでしょう。読者は本書から一定の史観を得ることができますが,ゲーム史の資料として本書のみを鵜呑みにすることは危険です。とくにゲーム史を正確に記述し,説明するためには,複数の資料にあたる必要があります。

 ビデオゲームに何らかの形で触れてきた読者にとっては,本書は読み物として十分に楽しめる内容になっています。たとえば,子どもの頃にプレイした記憶のあるビデオゲームに関する記述を見れば,現代と比較して相対的な理解を深めつつ,その当時を懐かしむこともできます。大胆にゲーム史に踏み込んでいく筆者の独特の語りは,読者を楽しませるだけでなく,次々と斬新な視点を読者に与えてくれます。

 シミュレーションジャンルを扱っている第4章では,「欲望」を軸とした独創的な視点によって,初期の国産シミュレーションゲームから恋愛シミュレーションゲームまでを一本の線でつなぐ大胆な論述を試みています。本書はゲーム史の自発的な探究に踏み込むための最初の手がかりにもなり得ると思います。


 ゲーム研究の本として参考になりますし,たんに読み物としても面白いです。新書のサイズですので気軽に読めるところも良いと思います。自分の知らない昔のゲームについて知る面白さや,自分が生きた時代をゲームで振り返る面白さといったものが味わえる本です。

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