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『僕たちのゲーム史』の紹介

 今回は,『僕たちのゲーム史』(さやわか,星海社新書,2012)についてご紹介します(以前,この本の書評を書いたことがあったのですが,それを載せていたWebサイトがなくなってしまったため,こちらに移すとともに,改めて書き直して公開しています)。


どのような本か

 本書は,1980年代から2000年以後までのビデオゲームの歴史(ゲーム史)を扱っています。雑誌記事やインタビューなどを引用しながら,ゲーム史における重要な出来事や作品について述べています。

 英語で書かれたゲーム研究の学術書でもゲーム史はしばしば触れられるテーマですが,日本人にとって馴染みのある日本のゲーム史だけを重点的に扱うということはありません。日本のゲーム史を追えるという点において,本書は貴重だと思われます。


本書の特徴

 本書は歴史を扱っていますが,複数の資料(史料)を相互に参照しながら批判的に検討していくという方法で記述されているわけではありません。歴史学的方法という視点から見れば,必ずしも学術的な説明がなされているとはいえませんが,この点が本書の短所であるとはいえません。ビデオゲームの歴史は100年にも満たないものですが,すでに膨大な数のゲームが存在します。そのため,一冊の新書でゲーム史のすべてを記述することは困難です。そして,それは新書の役割ではないと思われます。今はゲーム研究に関連する学術書が増えてきていますが,日本のゲーム史全体を扱った本はほとんどなく,むしろ,ゲーム史を扱った本であれば何でも重要な資料になるというのが現状でしょう。

 本書の魅力は,ゲームとプレイヤーがたどってきた時間を,筆者がひとつの物語としてまとめている点にあります。ゲーム史の全体像を網羅的に説明することが難しくなりつつある現状において,本書は平易な文章によって読者に一定の史観を与え,ゲーム史における議論を深めることを促す役割を果たすと思われます。

 本書はゲームに何らかの形で触れてきた読者にとって,読み物として十分に楽しめる内容になっています。その生き生きとした文体は一気に読み進めることを助けると思われます。ゲーム史をたどっていく中で,自分がプレイしたゲームを見かけたとき,当時のゲームプレイの楽しさがよみがえるということがあるかもしれません。また,ゲーム研究という観点から見ると,本書は資料的価値があると思います。これからゲーム研究に携わろうとしている人にとっては,ゲーム史の参考書としても活用できるでしょう。


 ゲーム史の新書は読み物として十分に面白いと思われます。歴史を見ることはひとつの物語をたどることでもあるので,物語を読んで楽しめるという点でオススメできます。前回,同じゲーム史の本である『教養としてのゲーム史』についてご紹介しましたが,これら2冊を比べて読んでみても面白いと思います。

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