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Netflix「梨泰院クラス」①:不条理な世の中に立ち向かうヒップなサクセスストーリー

こんにちは、カイラです!

「愛の不時着」に並び、現在Netflix及び日本でも2大人気作品ともなっている「梨泰院クラス(이태원클라쓰)」をレビューしたいと思います。

今回は作品の中身にフォーカスした前編として、作品を支える魅力について考察します。まだ見てない方でネタバレは嫌!という方は公開済みの「後編②:作品ラバーに贈る「クラス」の違う小ネタ」からご覧ください!

--------このレビューは、非常に多くのネタバレ含みます--------

1. 男性支持200%、静かな男気溢れる次世代のリーダー像パク・セロイ

「愛の不時着」のユン・セリが次世代の女性リーダー像だとすれば、「梨泰院クラス(以下、イテウォン)」の主人公パク・セロイ(박새로이)は、まさに次世代の男性リーダー像とも言える。
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セロイの人生は、父子共々、始まりから決して平易な道のりではなかった。ストーリー冒頭から父の会社員人生に影響する事件、不慮の事故、そして自身が犯罪者として数年間刑務所へ収容と、正直これだけで十分「人生終わった」と思えるような展開だ。

しかし、セロイは決して諦めない。ともすると、フィクションでありながらその過程は地味とも言える。周囲が夢物語と笑い飛ばす「計画」すら、彼にとっては文字通り「計画」であり、だからこそただ実現させるために存在するのだ。(以下、刑務所から出所後、幼馴染のスアと再会。7年後に再会の地・梨泰院でお店を開くと宣言。梨泰院はソウルでも有数の競争の激しい地のため、スアは思わずお酒を吹きだす。しかし、7年後セロイは本当にお店を構えるのだった。)
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派手さはないが着々と、自分の目標にだけ集中し着実に実現をさせていく。前科者として全てを失い文字通り「何もない」青年が、世間の偏見や前例に負けず有言実行していく姿は、社会格差の大きい韓国だけでなく、日本でも十分勇気を与える内容だったろう。セロイのリーダーとしての重要な能力の一つ目が、逆境でも決して諦めない実現力だ。

次に、セロイは決して自分の仲間を見捨てない。正直、セロイは地味だ。冗談やお世辞を言うのも苦手だし、SNSライブ中継での気の利いた即興コメントなんてもっての他、長年想いを寄せるスアにもほとんど告白らしい告白を出来ない。
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だが、仲間のことになると180度変わる。どんな過去があっても、仲間になった瞬間から守るべき対象であり、そんな仲間を馬鹿にするのであれば、その人はもはや仲間ではない。前半で、イソが何度もセロイに勘当されそうになるのは印象的だった。ほとんどの人がイソの提案する「もっと楽な」「世渡り上手な」やり方を選択しそうになるが、セロイは商売の原則を大事にしながらも、決してその利益のために仲間を切り捨てない。

そして最後に特徴的なのが、父から受け継がれた商売人魂だ。

ゼロから始まったセロイの商売人人生だが、長年、外食産業の雄として君臨してきた「チャンガ(長家)」の会長チャン・ヒジェと、その違いは徐々に鮮明になってくる。当初は憎みながらも、一商売人として一代で成功した叩き上げのヒジェを尊敬していたセロイ。ヒジェの自伝を刑務所の中でボロボロになるまで読み込み、敵からも学ぶべき所は学ぶ。こういった学びへの謙虚さも、セロイの成功要因の一つだろう。

特徴的なのが後半でハイライトとなる土下座のシーン。何があっても、何度も拒んできた土下座を、セロイもチャンヒジェも双方が双方にすることになる。その中で、ヒジェ→セロイに土下座することになったシーンでのセロイの言葉はとても印象的だ。画像4

”내가 호구로 보이냐. 저는 장사꾼이다. 기업 인수하는 일에 달콤한 사과가 무슨 가치가 있겠냐. 비지내스 해라.”「マヌケにしてるんですか?俺は商売人です。企業の買収に関わることに、甘ったるい謝罪に何の価値があるんだ。ビジネスをしろ」(筆者意訳)

きっと多くの人が長年に亘る積年の復讐劇に終わりを告げる、とっても感情的な言葉を期待したはず。しかし、セロイは既に立派な商売人だった。ビジネスと感情を切り離せ、と冷たく言い放ち、土下座したままのヒジェから立ち去るのだった(かっこいい~!)。

こんな素質を持った男気溢れるリーダーならば、男女問わずまさに最後までついていきたい、と全員が思ったのではないだろうか。男性からのセロイ支持が強いのもこういった男気溢れるリーダー資質を備えているからと、納得できる。

2. 心が洗われる、名言だらけの作品

イテウォンを見た人であれば、胸打つ名言の多さに何度も胸が熱くなり、感動しただろう。ドラマというより正確には原作ウェブトゥーン作者の言葉が秀逸なのだが、その辺りは次回作にて考察したいと思う。

名言があり過ぎて全ては紹介出来ないのだが、最も有名ないくつかを紹介したいと思う。(以下、日本語は筆者意訳)

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"제 삶의 주체가 저인게 당연한 소신에 대가가 없는 그런 삶을 살고 싶습니다"「自分の人生の主体が自分であることが当然である、自分の所信に対価や犠牲がない、そんな人生を歩みたいです」

イテウォンでは、この所信(≒信念や志)という言葉が何度も出てくる。昨今、こんな渋いセリフを若者のドラマで見たことがあるだろうか。

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"내 가치를 네가 정하지마! 내 인생 이제 시작이고 원하는거 다 이루면서 살거야 등신아"「俺の価値をお前が決めるな!俺の人生、まだ始まったばかりなんだ。俺が求めるもの、これから全部実現させて生きていくのさ、バカ野郎」

また、ストーリーの核となる父子の絆を描くシーンでも名言が多いに出てくる。セロイが学校で暴行事件を起こし退学処分となった時、父子は初めてお酒を交わすことになった。酒は親から教わるものだと語る父が、こんな言葉を紡ぐ。画像9

"맛이 어떠냐?" "달아요." "오늘 하루가 인상적이었다는거다" 「酒の味はどうだ?」「甘いです」「それは、今日一日が印象的だったということだ」

この「酒が甘い」という内容が、セロイがオープンするお店「タンバム(文字通り、甘い夜)」の由来にもなった。

また、同日セロイの父は長年勤めたチャンガを即刻クビになり、セロイ自身も退学処分となった。後悔してもし切れず、泣きながら謝る息子を前に、父はこう伝えた。
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"너는 나와 다르게 살길 바래서...얼마나...자랑스러운 아들이냐"「お前は俺と違った人生を送ってほしくて…どんなに…誇らしい息子なんだ」

お父さんー(T T)

また、土下座や謝罪といったキーワードが何度も出る中で、この名言も印象的だ。画像10

"지금 한번, 지금만 한번! 마지막으로 한번! 또 또 한번! 순간은 편하겠지.근데 말이야, 그 한 번들로 사람은 변하는거야" 「この一回、この一回だけ、最後に一回。何度も、何度も、何度も!その瞬間は楽になるだろう。でもな、その一回の積み重ねで人は変わっていくんだよ」

原作での名言がそのまま多く使われているイテウォン。作者の経験をもとにしているとのことで、本当に深く刺さります。

3. 韓国社会が抱えるイシューを包み込む、インクルージョンな作品

1のセロイのリーダーシップでも少し述べたが、セロイはすべての人を過去に囚われず仲間として受け入れる。実際、彼のタンバムのメンバーはソシオパスのイソに始まり、LGBTQ、前科者(元ヤクザ)、外国人と、まさに多種多様だ。

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まさにヒップな文化を支える梨泰院という街のイメージとも合わさり、これらともすれば「デコボコ」なタンバムメンバーは、多くの障壁を乗り越え強いチームとして成功の道を進んでいく。

過去投稿の「愛の不時着」レビューにて韓国社会における女性の社会進出についても述べたが、それ以外にも保守的な韓国社会には沢山の問題が存在する。キリスト教的な価値観から来るLGBTQへの偏見や差別、また昨今増えている東南アジア系移民や「イテウォン」でのトニーのように、いわば見た目から「韓国人ではない」とジャッジされる外国人への差別。また、前科者の社会復帰については、日本でも共通する点かもしれない。

有数のIT国家でありスマートシティやキャッシュレス等、IT分野では日本の数倍も先を進む韓国だが、一方で社会の前提となる価値観はまだまだ男尊女卑的な志向や、「異質者」への偏見・差別に溢れているとも言える。

本作品は、そういったアウトサイダー達にも目を向け、一対一の人間として向き合う機会、考える機会を与えてくれたという点でも意味が深い。その意味で、ダイバーシティ(多様性)を超えたインクルージョンという言葉がよりこの作品には合致すると感じる。

いかがでしたか?次回は原作となったウェブトゥーンやOST(サントラ)の魅力などについてもレビューしたいと思います。

Thank you and addios!



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