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BTSから読み解く韓国社会:①「スプーン階級制度」から這い上がった軌跡とプライド

こんにちはカイラです。前回のイントロに続き、BTSから読み解くシリーズ、今回はBTSそして韓国社会を語る上で外せない「スプーン階級制度」について、楽曲の紹介と共にお伝えしたいと思います。

「あなたのスプーン(匙)は何色?」

韓国のニュースで度々耳にするのが、「〇スジョ(수저)」と呼ばれる、いわゆるスプーン階級制度だ。

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スジョ(수저)とはスプーン(숟가락)とハシ(젓가락)をセットにした言葉なのだが、自分の家庭が裕福かどうかをその度合いによって高い順に金、銀、銅…と表現される。最近では金の更に上をいくダイヤや、はたまた銅よりももっと下をいく泥(흙)や糞(똥)、またプラスチックや木といった表現もされる。色んな解釈があるが、ざっくりとスジョの階級はこんな感じ。

ダイヤモンド ー いわゆる財閥一族など、全体の0.1% 億万長者レベル
金のスプーン ー 年収2000万以上、全体の1% 富裕層
銀のスプーン ー 年収800万以上、全体の3% それなりの富裕層
銅のスプーン ー 年収550万以上 中流階級7.5%
泥のスプーン ー 年収200万以下の低賃金で、社会のほとんどがここ以下

見て頂くとわかるように、ほとんどの人が一番下の「泥」以下に属することになる。精密な統計データかどうかはわからないが、こんなにも巨大な格差社会で、あなたなら自分の夢を信じて邁進し続けられるだろうか…?

「뱁새(ペプセ)」:階級社会へのアンチテーゼ

スプーン問題を語る上で最初に挙がるBTSの歌は、間違いなく「뱁새(ペプセ)/ Silver Spoon」だろう。この楽曲では、황새(ファンセ)=コウノトリと表現される旧世代、つまり既得権益を獲得して自分たちを上から見下ろす前の世代が、뱁새(ペプセ)=日本名はダルマエナガ、として生きる新世代の自分たちに対して、搾取を続けながら横暴を続ける現実について批判たっぷりに歌っている。

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この二つの鳥の対比は、「足が短いダルマエナガ(上右)が、足の長いコウノトリ(上左)のマネをすると股がさけてしまう。自分をコウノトリと勘違いして無理なことはするな」という韓国特有の意味のようで、つまるところ自分のレベル=身の丈を知って行動しないとひどい目に合う、という皮肉を込めた教訓だ。

歌詞の中でも、「努力しろ」と焚きつける学校の先生も、横暴を振るう上司も、みんな「努力の意味を知らない(むしろ努力をしたことがない)」金のスプーンとして生まれているとされている。

금수저로 태어난 내 선생님 「金のスプーンで生まれてきた俺の先生」

にもかかわらず、そんな彼らに教育を受け、仕事を習い、バイトに行けば最低限の時給でも狂ったように働かなくてはならない。そんな無情さと矛盾に満ちた社会に問いかけと皮肉をストレートに投げかけているのがこの歌なのだ。

*少し混乱しやすいが、英語題のSilver Spoonは英語のSilver Spoon=裕福な家庭としての意味であり、ここでいう韓国の「金のスプーン以上」を指してると思われる。韓国語原題と英語題で主語が違うと予想。*

「アンダードッグ」だからこそ弱者に寄り添える

めらめらと燃え上がる強烈なMVと激しいダンスで有名な「Fire(불타오르네)」でも、リーダー・RMのパートでスジョが出てくる。

그냥 살아도 돼 우린 젊기에   그 말하는 넌 뭔 수저길래                                  수저수저 거려 난 사람인데 So what

「ただ生きてるだけでいいんだ 俺たちはまだ若いから  そう言うお前はどの分際(スプーン)で スプーンだ何だ言ってるんだ 俺は人間なのに So what」(筆者意訳)

最後の「俺は人間なのに」は、まさにスプーン階級を礎にした既得権益者に翻弄され、もはや人間扱いを受けていない社会的弱者の本音を代弁しているとも考えられる。

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RMは同じく「DOPE(쩔어)」でも、「メディアと大人は意志がないと言って俺らを株のように売り飛ばす なぜ試してもみる前に殺すんだ?」と歌い、大人や社会からの扱いに強く異議をたてている。

また、「Not Today」では、冒頭歌が始まる前のパートで、再びRMが次のフレーズを唱えている。

All the underdogs in the world
A day may come when we lose
But it is not today
Today we fight!

「世界中のすべての弱者(アンダードッグ)たちよ
いつかその日(負ける日)が来るかもしれない
でも今は、今日はその時じゃない
今日、俺たちは、共に戦おう!」(筆者意訳)

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BTSファン・Armyの中ではかなり有名だが、「Not Today」はあの映画「ロードオブザリング 王の帰還」からインスパイアされている。黒門での戦い、アラゴルンの演説「It is not this day」からインスパイアされた楽曲とのこと。ここでも自分たちを「アンダードッグ」、つまり社会の弱者であるペプセと表現しており、楽曲内でもペプセという言葉は実際に使われている。

뱁새들아 다 hands up ペプセ達よみんな hands up

これら数曲を振り返るだけでも、BTSの楽曲に込められた社会や旧世代への批判、韓国社会特有の生きづらさと葛藤、同時にそこで苦しむ若者たちに送るエールに気づくことが出来るだろう。自分たち自身も決して最大手事務所ではなく、中小事務所としてスタートしたBitHitプロデューサー陣とBTSだからこそ、何よりも弱者の気持ちに寄り添うことができるのではないだろうか。

それでも、今でも「俺たちは変わらない」

前回のイントロでお伝えしたように、今では名実ともに世界のスーパースターのBTS。しかし、事あるごとに彼らは、自分たちを今でもデビュー当時の「ペプセ」のままだと間接的に表現している。

「Airplane pt.2 」のサビで何度も出てくる「El Mariachi~」というフレーズ。この「マリアッチ」はメキシコの楽団のことのようで、写真の彼らのように毎日街角に立つ、音楽を愛してやまない人たちだ。

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街角で、ともすればカジュアルに出会える音楽好きの楽団に自分たちを例えているのがとてもBTSらしいと同時に、ファンであるArmyにはこのメッセージに心打たれるものがある。同曲のラップパートで、SUGAはこう歌う。

야 야 셀럽놀이는 너네가 더 잘해
우린 여전히 그때와 똑같어

「おいおい セレブ遊びはお前たちの方がもっと上手だよ
俺たちは今でもあの時と全く変わらない」(筆者意訳)

つまり、世界のスーパースターとなった今も、音楽にだけ集中し、自分たちを支えてくれるファンArmyにだけ集中するという彼らのスタンスでありArmyへのメッセージなのである。同様のメッセージは、実は他の楽曲でも数多く探すことが出来る。曲そのものの完成度や秀逸さとは別に、Armyや音楽への一途な姿勢こそ、BTSの最大の魅力の一つとも言えるのではないだろうか。

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いかがでしたか?今回は「スプーン階級制度」からBTSの楽曲を読み解き、そこに込められた韓国の格差社会や彼らの苦悩・葛藤を紐解くと同時に、スーパースターとなった今も変わらず、一途にArmyに素晴らしい音楽を届けるアーティストとしての姿勢についても考察してみました。

あくまで個人の主観的な考察ですが、Armyからのコメントもお待ちしています💜

Thank you and addios!



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