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Netflix「サイコだけど大丈夫」:心を閉ざした大人のための、自分と愛を見つける旅

こんにちはカイラです。放映終了ほかほかの話題作、「サイコだけど大丈夫(사이코지만 괜찮아)」についてです。一言、めちゃくちゃ良かった!最初はちょっと怖かったけど、文字通り後に尾を引くとても素晴らしい作品でした。

<あらすじ> 精神病棟の保護司・ガンテ(キム・スヒョン김수현)と反社会的な性格で育った童話作家のムニョン(ソ・イェジ서예지)のちょっと変わったラブストーリー。「椿の花~」にて韓国・百想芸術大賞で2020年の助演男優賞に輝いたオ・ジョンセ(오정세)が自閉スペクトラム・ASDを抱える兄・サンテを演じている。ソ・イェジは自身のキャラクターに最も合う「人生キャラクター」を得たとも言える。

---------以下、ほぼネタバレなし---------

販売リクエスト殺到、深すぎるオリジナル絵本

絵本作家というヒロイン・ムニョンに合わせて、このドラマでは毎回沢山の童話・寓話がストーリーとリンクして進む。かのグリム童話から韓国独自の寓話、「赤い靴」や「王様の耳はロバの耳」など懐かしい話も多く出てくるのだが、最もインパクトあるのが作中でムニョンが書いたとされるシリーズだ。特に「悪夢を食べて育った少年(악몽을 먹고 자란 소년)」「ゾンビの子(좀비아이)」は、一見とても暗くて残忍、時におぞましい程の内容で、制作側も「大人のための残酷童話に近い」と伝えている。

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だが、これらがとても洞察が深くて、印象的なのだ。「悪夢を食べて~」の最後に出てくるフレーズは、ドラマを通して何度も出てくる。

"그러니 잊지마. 잊지말고 이겨내. 이겨내지 못하면, 너는 영혼이 자라지 않는 어린애일 뿐이야."

「だから忘れるな。忘れずに乗り越えろ。無理ならば、魂が成長しないから、いつまでも子供のままだ」(筆者意訳含む)

作中では当然ながら児童向けの童話なのだが、正直大人が読んでもはっとさせられる一句だ。この直前のフレーズとも合わせるとより一層深みが出てくるので、続きはぜひドラマで。(第一話)

なお、これら絵本はドラマに合わせてオリジナルで作られた作品なのだが、放送直後から販売についての問い合わせが殺到し、現在は実際に販売もしてるそう。(日本でも一部オンラインで販売してるよう)

「悪夢を食べて育った少年(악몽을 먹고 자란 소년)」、「ゾンビの子(좀비아이)」、「手とアンコウ(손,아귀)」も良かったのだが、最終話で出てくる「本当の顔を探して(진짜 진짜 얼굴을 찾아서)」も有終の美を飾るとても良い話だったので、ぜひドラマで確認を!

世界観を完成させたアート

絵本の挿絵を担当したコンセプトアーティストのJamsa(잠산)さん。劇中のほぼ全てのイラストを担当しているとのことで、兄・サンテが描く絵も全て彼が実際に担当したとのこと。(こちらの記事を参考)

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第一話に登場したクレイアニメーションも、彼のコンセプトアート(下左)を元に作られたそう。主演二人のキャラクター研究だけに1ヶ月かけたというだけあって、二人の特徴をよく表したキャラクターに仕上がっている。

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なんとあの「ボーイフレンド(남자친구)」でコンセプトアートを担当したのも彼。毎回あの美しい世界観に魅了されていたのだが、「サイコ~」とは真逆のピュアですがすがしい世界観。このアート、額で家に欲しい。

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「通常のイラストレーターと違い、コンセプトによって流動的に動き、ジャンルを限定しないのがコンセプトアーティスト」という彼の言葉通り、企画によって全く異なる表情を魅せる彼の作品も要注目だ。

「大丈夫じゃなくても大丈夫」

オ院長率いる精神病棟・OK病院(괜찮은 병원)では、それぞれの痛みを抱えた患者にもスポットが当たる。一見、ここにいる人たちだけが社会に適さない「サイコ」のようだが、このドラマが本当にスポットを当てたいのは「大丈夫に見えて大丈夫じゃない、普通を演じてる人」だと思われる。

何度か出てくる病院のスローガンには、こう書いてある。

"아프냐? 나도 아프다.  죽고 싶냐? 나는 더 죽고 싶다. 안 괜찮아도 괜찮아! 괜찮은 병원"

「辛いか?俺も辛い。死にたいか?俺はもっと死にたい。大丈夫じゃなくても大丈夫!OK病院」(筆者意訳)

ASDの兄の面倒を見つつも、その過程で母からの言葉に何度も傷つき未だに心を閉ざしたままの主人公・ガンテこそが、まさにこの大丈夫じゃない人の代表として描かれている。ガンテやサンテ、ムニョン程の大きな事件はなくても、こういった過去の痛みや傷は、誰にでも共通するものではないだろうか?

また、制作側の企画意図をまとめたページにはこんな一節も。

"統計によると韓国国民の80%が精神病を患っており、内20%は薬の服用が必要なレベルだ。こんな時代に誰が正常と非正常を区分できるのか。単純に「多数」が「正常」になるのは暴力ではないか?言葉が通じず、理解が出来ない存在は隔離と監禁だけが解なのか?"(筆者意訳)(参考ページ

このドラマでは精神病棟の患者を、正常ではない「サイコ」側として暗に示しているが、患者ではない「普通の」日常を送る私たちこそ、最も危うい存在ではないかと示唆しているようだ。たとえ日常生活を送るのに支障がなくても、自分の痛みや傷に目を向け、自らを癒し、そして時に許し、本当の自分を見つけていく。そして「大丈夫じゃない」ことを時には堂々と宣言する。そうすることで本当の自分の姿を取り戻し、本当の幸せに向き合えることが出来るようになる。一歩外に踏み出す勇気を、痛ましい主人公たちの姿を通して伝えてくれている。

めまぐるしい競争社会や、昨今の行き場のない未来への不安感と自己肯定・自己認識に苦しむすべての現代人に、「サイコ」はこういった励ましと慰労のメッセージを贈っているのではないだろうか。

総評

「愛の不時着」「イテウォンクラス」に続くとってもオススメな作品!特に残念ポイントはなく、キャスティングから撮り方、構図、色彩やフィルムの感じも含めてとても美しい。また各キャラクターにマッチした衣装、サントラ(OST)と文句なし。そして毎回思うけど、主演から助演のベテランまで、韓国は俳優の層がほんと厚い。

オススメポイント:ダーク&ゴスロリの世界観、俳優陣の演技(特に兄弟)、随所に出てくる絵やアート、OST(サントラ)、ムニョンの独自ファッション、ぴったりなキャスティング、サブキャラのコミカルさ
残念ポイント:ほぼない…たまに母に関する回想シーンが本気のホラーで怖かったくらい

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オススメ度 ★★★★☆ 4.5

涙度 ★★★★★(もっとサイコな予想だったのにいっぱい泣いた)

ロマンス要素 ★★★★☆ (二人の構図も美しく、定番とはまた違う意味でのもどかしいロマンス。普通のロマンスというより、二人の絆の延長戦上にある感じ)

謎解き要素 ★★★★☆ (精神病棟という設定も相まって、自然なストーリー展開。伏線の回収も◎)

コミカル要素 ★★★★★(兄サンテとムニョン、ジェスとサンサンイサンの二人、ジュリ母娘、オ院長)

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Thank you and addios!

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