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【観劇レポ】Gutenberg! The Musical(オリジナルブロードウェイキャスト公演)

「ミュージカルはキャストがだいじ」という、十数年気づかずに過ごしていた真理を一撃で学んだ作品。この日を境に、私の観劇史はキリスト誕生よろしく、「BG (Before Gutenberg)(グーテンベルク前)」と「AJA(After Josh&Andrew)(ジョシュ&アンドリュー後)」に分かれ、主演キャスト情報から完全新作やリバイバル作品を探す楽しみ方を知ることとなる。
<<以降ネタバレ含みます>>


鑑賞のきっかけ&チケット取り

信頼する観劇ガチ勢から「ブックオブモルモンの初代主演コンビが再結集する新作ミュージカルがあるよ」との報に接し、面白そうと思って何も考えずにチケットを取る。スケジュール調整が上手くいかず、初観劇が千秋楽というていたらく。
この時点でブックオブモルモンは音源すら聴いてなかったが、この公演で狂った結果、2人が主演のOBC盤無限リピート再生して底なし沼から出れなくなったのはまた別な話。

予習方法

2006年にオフブロードウェイで上演された時のキャストのレコーディングがApple Musicにあったので、英語版Wikipediaに載ってたあらすじを確認しながら試聴。「グーテンベルクをテーマにした新作ミュージカルを作った脚本作曲コンビが、ブロードウェイ契約を目指して本読みを演じるミュージカル。劇中劇ではワインの醸造業を営むグーテンベルクが、村娘ヘルベチカに恋する。グーテンベルクはワイン絞り機から印刷機を作るが、それを気に入らない村の神父はその印刷機を壊そうとする。劇中劇を演じる時は役名が書かれたキャップを被る。」らしいが、こう書いていてもよくわからないのでとりあえず会場に向かうことにした。
会場で配布されたプログラムにはミュージカルナンバーがどこにも記載されておらず、かろうじて記憶に残ってた歌詞もガンガン改変されてたので、おそらくこれ以上の予習は難しかったと思う。それどころか半分以上アドリブだったんじゃないか疑惑すら残っている(狂気)。

キャスト

バド(Josh Gad)

アナ雪のオラフの声優さんと知って、あの声が聞けるのか〜!とのんびり構えていたが甘かった。私は何もわかっちゃいなかった。
純真無垢でキュートでスイトピーみたいな天使。純白のシロツメクサの花輪を被ってほしい。可愛すぎて気が狂う。もうなんなの無理かわいすぎて無理。いやオラフは可愛いって知ってたけど造形が可愛いから可愛いんだと思ってた。因果関係が逆だった。声帯の愛くるしさに引っ張られて雪だるまが可愛く見えてただけだった。オラフが雪だるまじゃなくて人間だったらディズニープリンセスだった。舞台には声帯だけじゃなくて本人が出てきたんだから可愛さがカンストするに決まってる。
ヘルベチカを演じている時はマイムでおさげな可憐な娘に扮しているが、絶対ヘルベチカより本人の方が可愛い。相棒のダグが足をかけたりどっかり座ったりする丸椅子に、何回頑張ってもしても脚が届かなかったり床に足が付かなかったりするの、愛らしすぎて抱きしめたくなる。ダグが中央で歌う時に、バドが後ろでコーラスライン達の帽子をひもで繋げて劇中のアンサンブルの動きを表すシーンがあって、おててを一生懸命広げてダグをサポートしようとするのが愛おしすぎた。
事前に見たインタビュー動画で、地だと落ち着いた年相応の男性だということを知っていたはずなのに、帰宅してその動画を見返すまでピュアピュア天使というイメージが頭に焼き付けられてた。

制作側も需要をわかってやがる

ダグ(Andrew Rannells)

最近はテレビでのご活躍が多い俳優さんらしく、知らない作品が多いな……|ω`)と己のテレビ音痴っぷりを嘆いていたら、なんか妙に見覚えがある役柄が目に飛びこんできて二度見。しゃ、シャーマンキング旧アニメ英語版の道蓮役吹替ですって……!?私がオタクになったきっかけのレジェンドジャンル……!!
なんだろう、Wikipediaに載っている数々の名作映画ドラマをいくら眺めても靄がかかったような感覚だったのに、「道蓮(CV朴璐美)の英語版吹替声優」と知った瞬間のこの安心感。完全に理解した。
バドが天真爛漫なプリティエンジェルなのに対して、こちらは頼りになるお兄さん系。でも明るさの中に微かな影があり、そこに気づいてしまったが最後一気に沼に引きずり込まれる(マンキン吹替が蓮じゃなくてホロホロだったらJOH!仏するところだった)。私はかろうじて致命傷で済んだため、この日以降ブックオブモルモンOBC盤(アンドリューのソロ曲多数)を1日十数周しなければならない深刻な中毒症状に至った。付言しておくと、私はこれまで「母国語で至高のアニソンキャラソンイメソンがあるのに、なにが悲しくて余暇の時にまで外国語を聞かねばならんのだ」と頑なに洋楽を拒否してきた、気合の入った尊邦楽攘夷主義者であり、言葉の壁を貫通してブッ刺さってきたのはこのアルバムが初めてである。なおブックオブモルモンOBC盤は公式チャンネルで聴けるので、気になった人は是非とも聴いてほしい、特に2曲目Two By Twoの02:59で来るアンドリューの"Yes, sir"からしか得られない貴重な栄養素がある(隙あらば布教するオタク)。
話をアンドリューに戻すと、ダンスと歌唱が抜群に上手く、特にダンスは「これはカモメ」「これはワシ」と言いながら両腕をパタパタさせているだけでもリズムが見えてくるくらい美しい。ほぼ180°の開脚もしていて柔軟性がすごい。
ヘルベチカを演じている時は、最初はセクシー路線だったのが途中から路線変更してカッコいい女子へ。女声の歌唱が上手すぎて、ギャグシーンなはずのヘルベチカソロが普通に名曲に聞こえてしまったので、レコーディングが出たら永久リピートフォルダにぶち込みたい。

コンビについて

キャストはジョシュとアンドリューの2人だけでずっと出ずっぱり&プログラムにミュージカルナンバーが載ってない&というか衝撃すぎて本筋の詳細忘れたので、いかにコンビ芸がすごかったのかを語りたい。

  • ステージ中央に盆を模したと思しき円のテープが貼ってあり、時々2人が盆が回っているかのように動くのだが、これが本当に盆に見えるくらい動きがぴったり。一度、互いに背を向けたまま円状に動いていた時ですら完璧に速度が揃ってたの何???背中に目が生えているの????

  • 2人ともマイムが上手すぎる上に息が合いすぎ。バドが投げた鉛筆がダグの胸に刺さるというシーンが何度かあるのだが、本当に刺さったんじゃないかと心配になるくらいタイミングが完璧。

  • 2幕途中、2人が珍しく静かに演じてる時に、静まり返った客席から鳴り響く携帯の着信音。その瞬間、2人とも正面を向いててお互いに目配せもできないのに、客席を見たまま同時に指をチッチッチと振って「あれはなんだろう?」「良くないよねえ」「いま鳴らした人立って!ほら、こっち来て!」(結局来ず)と、着信音ごと仕込みだったんじゃないかと思うくらい完成度が高すぎるアドリブを披露。

  • バド(ジョシュ)があまりにも可愛すぎるので、このコンビはプリキュアジョシュをスパダリアンドリューがリードする関係なのかと思いきや、よくよく見てるとジョシュがアドリブと思しきネタで一人で笑いを取っている間、アンドリューが真剣な表情でステージ後方で水を飲んでることに気づいてしまった。その後もジョシュが一人で場面を引っ張っている時にオペラグラス(青年館2階後方からキャストのシューズもしっかり判別できるスグレモノ)でアンドリューの動きを追ってみると、水を飲んでたりドラムの方と打ち合わせしてたりしていた。逆にジョシュは自分の給水はサッと済ませて、バンドと打ち合わせをしている様子は見えなかったので、たぶんジョシュがアドリブで時間を作っている間に全体の調整をアンドリューがやるという役割分担をしている?

  • 2人の息が合いすぎていたのもあって、劇中劇を演じていない時のキャスト2人がバドとダグという役柄ではなく、何も演じていないジョシュとアンドリューの素の状態だと錯覚させられて非常に危うい。2幕後半で、2人がそれぞれ自分の秘密を告白する流れになり、バドが"I……. I'M A VIRGIN!!!!!!!!"と叫んだのがあまりにも真に迫りすぎていて、「ちょっ、そういうプライベートなことは心の中にしまっておいて良いのよ!!」と焦り、帰宅後に2児の父だと知るまで信じかけていた。

演出・構成

かろうじて覚えてる部分に関して走り書き。以下の見出しのミュージカルナンバーはオフブロードウェイ版に基づいて書いているものの、OBC盤が出たら確実に変えられている気がする。
全体を通じてオーケストラピットは使用せず、演奏はステージ上にいるドラムとピアノの2人のみ。ピアノ奏者が司会者っぽい役回りをすることもあり、開演時は最初に挨拶をしてキャストが来るまでの繋ぎをしていた。

OK! Here We Go!

オフブロードウェイ版では「ミュージカルには真面目なテーマが不可欠ですが、このGutenberg!(劇中劇の作品名)の場合はホロコーストです!ドイツなので!」というセリフがあり、ギャグシーンに用いる必然性が低いうえにこれをホロコーストサバイバーの親族がいるジョシュに言わせるのはエグすぎるのでは……?と思っていたら、ホロコーストが「ナチス」に変更。その後の場面でもナチスで統一してたのでおそらくブロードウェイ上演にあたり修正したと思われる。

(☆2曲目以降は記憶が飛びました☆)

Finale

Sing-along形式で、バド&ダグと一緒に観客がWe eat dreamsと歌っていると、劇中劇Gutenberg!をブロードウェイで上演するための契約書を持ったプロデューサーが客席から登場。このプロデューサー役が日替わりでゲスト出演になっており、あのヒラリー・クリントンが舞台に立った回もあった模様。千秋楽は女優のオードラ・マクドナルド。このシーンで一瞬だけ劇中劇の世界観を示すドイツ風の家屋セットが出てくる。

千秋楽スペシャル

カーテンコールでは、脚本家と作曲家が揃って登場して感謝の意を述べる千秋楽仕様。ジョシュとアンドリューに「僕たちを信用してこのクレイジーな作品に出演してくれてありがとう!」って言ってたけど、狂ってる自覚あったのね。

全体

めっちゃくちゃ面白くて記憶飛ぶ、合法的なお薬みたいな公演だった。これまでアメリカで何度かコメディを観る機会があったものの、いまいち面白さが分からなかったので楽しめないかもと思っていたが間違っていた。アメリカ人じゃないとわからないような社会ネタ・慣用表現・スラングが少なく、外国人でもわかりやすい言葉とネタを選んでいるのも伝わってきたが、それでも面白くて客席が沸騰してたのはひとえにキャストの力量によるのだろう。
キャストは2人のみ、しかもずっとステージに立ちっぱなしで劇中劇を演じる作品であることから、当然ながらキャストが命。キャストが合わないとおそらく地獄の2時間半になる。脚本家やっぱりクレイジーだよ。
本当に最高すぎるコンビだったので、是非是非是非是非この2人でA Year With Frog and Toad(児童文学の古典的名作『がまくんとかえるくん』のミュージカル版、作者の娘さんが舞台化を手がけているだけあって原作の優しい雰囲気がそのまま活かされていて大好き)を演じてほしい。

ワシントンポストと解釈一致しちゃったな(日替わりゲスト出演プロデューサー腕組み面)