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【観劇レポ】Sweeney Todd(ブロードウェイリバイバル公演)(2024年版キャスト)

人生ベスト観劇に殿堂入りするすごさ。上演中はハラハラしてるか歌と演技に圧倒されてるかのどちらかの感情に支配され、2時間45分の長編であることを完璧に忘れて18世紀末のフリート街にいた。
(※公演終了済み作品)
<<以降がっつりネタバレ含みます>>


鑑賞のきっかけ&チケット取り

ミュージカルの古典的名作、さらには2007年にティム・バートン監督&ジョニー・デップ主演という超有名タッグで映画化されていたのにも関わらず、全く知らなかったこの作品。私の癖(ヘキ)であるダブル主演モノ、さらに作曲が巨匠ソンドハイムと知って映画を観てみたらホラーが苦手で直視できないシーンばっかりなのに引き込まれて最後まで目が離せなかったこと、2024年リバイバル公演版の主演俳優が映画版レミゼのアンジョルラスとのことで俄然興味が湧く。
Playbill公式サイトで割引コードが出回るなど、チケット入手はあまり難しくなさそうだったため、ボックスオフィスに向かうと当日の2階席最前列を半額でゲット。

予習方法

映画版を一回観て、公式サイトと関連サイトでリーディングキャストについて軽く予習した程度。事前に2023年リバイバル版の音源を聴き込んで主演キャストのインタビュー記事に目を通していればもう少し厚みのあるレポが書けたはずなので悔しい。ここまで圧倒される予定じゃなかったんだ。
予習と言えるかは微妙だが、森山絵凪先生のコミカライズ版『モンテ・クリスト伯爵』は以前からの愛読書。

キャスト

ほぼリーディング揃いだったため、ムーランルージュOBCクリスチャン役でトニー賞取ったAaron Tvietと過去にトニー賞受賞2回ノミネート6回のSutton Fosterが主演、他のキャストさんもハミルトンやらレミゼやらウィキッドやらにメイン役でバリバリ出てる方という超豪華布陣。パイの具になるフラグかな???

ラヴェット夫人(Sutton Foster)

本人本人本人本人本人本人本人

この作品、悪魔の理髪師という枕詞があるスウィーニー・トッドよりも、ラヴェット夫人の方がダントツにヤバいんですよ。無実の罪をでっち上げられて流刑にされたトッドが帰ってくるのを一途に待ち続けたり、身寄りのなくなってしまったトバイアス(※トッドがその場の勢いで殺したため)を可哀想に思って我が子同然に育てて全面的に慕われたりする情の厚さがあるのに、その辺の人を片っ端から殺してひき肉にしてパイの具にしたらウチの店も繁盛するんじゃないかしらっていう妙案()を思いつくような、たぶん普通の編集者に読ませたらその場で原稿返すんじゃないかと思うくらい性格が矛盾してる登場人物なんですよ。そして飲食店経営なのに衛生観念が死んでる。それをなんら違和感を抱かせることなく、なんならトッドを愛してトバイアスを慈しむ様子がいじらしく思えてくるのおかしくないですか???
そしてここまで演技に身体張ってる女優さん人生で初めて見た(オタク特有の誇張表現ではない)。一例→登場シーンでニンジンかじりながら手に持ったボールに吐き出してパイを作り、パイに積もったホコリを吹き飛ばして店に入ってきたトッドにパイを手渡す
歌唱力に関しては、両足でトッドのシャツを開けて乳首いじったり首に引っかけてぶら下がった逆立ち状態になったりしながら、なんら支障なくソロ曲のBy the Seaで会場中に美声を響き渡らせてたことからどれだけすごかったか察していただきたい。

スウィーニー・トッド (Aaron Tveit)

あなた本当にアンジョルラスとフィエロとクリスチャンやったんですか????あんなピュアピュア青年役を???その場の勢いだけで人を殺すことに全くためらいがないのに???
アー写の通り、デフォルトで眉間に皺が寄ってて復讐の狂気に取り憑かれてることが目に見えてわかるのだが、判事とか客の前など、散髪屋としてサービス業然としないといけない場面ではしっかり切り替えてて、これは客も騙されて来店してしまうと思った。
2幕後半の緊迫感が圧巻。結末を知ってるのに、一挙一動に鼓動が早くなるし呼吸が浅くなる。だめ、落ち着いて、そこに戻っちゃだめ!自分を取り戻して!ってハラハラし続けさせられる。
アンジョルラスとクリスチャンをやってたことが信じられないので、レミゼ映画を観なおしてムーランルージュOBC盤を聴いて困惑したい。

アンソニー・ホープ(Daniel Yearwood)

映画版のアンソニーはレミゼのマリユスっぽい印象を受けたけど、こちらはWickedのフィエロのような、明るく朗らかな恋する青年というイメージ。あまり後先は考えないけれど、地に足がついてない訳ではなく、思いやりがあって機転が効くタイプなので船乗り仲間からは頼られていそう。
ジョアンナが欲しがってたカナリアを買ったら、その場でビードルに握り殺されてしまうのだが、ジョアンナから死骸が見えないように布を被せててやさしい。

トバイアス (Joe Locke)

これまで主にテレビで活躍されてて、本作でブロードウェイデビューとのこと。
映画版のトバイアスはガブローシュ的なキッズ役だったけど、こちらは青年と少年の間くらいの年齢のイメージ。ピュアピュアという意味ではアンソニーに近いが、あちらは自立した大人でありつつ夢見がちなのに対して、トバイアスは心に穴が空いたまま育ってしまい、親からの愛情に飢えてラヴェット夫人に母親を投影する不安定な純粋さのイメージ。

ジョアンナ (Maria Bilbao)

ジョアンナは悲運の囚われの美少女というイメージなのだが、なぜかキツめの細眉での登場で悲壮感が伝わりづらかった。シルエットで出てきた時は指先まで挙動が美しく、ラストで逃亡するために男装した時はしっかり可憐な美少女だったので(トバイアス、センス良いな)、たぶんメイクの好みの問題。歌は上手かった。もうちょい視界不良な席だったらそこまで違和感なかったと思う。

ターピン判事 (Jamie Jackson)

ディズニー版ノートルダムの鐘のフロロー系キモ判事。親子の歳が離れてるジョアンナと本気で結婚しようとする気持ち悪さを持ちつつ、立ち居振る舞いが洗練されてるので、世間一般ではエリート判事様としてもてはやされてそう。

ビードル (John Rapson)

レミゼ北米ツアー(2010-13)ブロードウェイ公演(2014-16)でバマタボワやグランテールをやりつつ、テナルディエとミリエル司教とジャベールのu/sをやっていたらしい役者さん。役柄の幅が広すぎませんか……????
ビードル役は何度も演じているらしく安定感抜群。映画版のビードルは軽薄コミカル路線だったが、こちらはズル賢いクソ野郎系統だった。嫌なヤツとしての身のこなしが上手いので、この俳優さんのティナルディエは見てみたい。

乞食女(Ruthie Ann Miles)

昨年版のリバイバル公演で老婆役で出演した際にトニー賞助演女優賞にノミネート。
俳優さん本人の実年齢は知らないが、ほんとに心が壊れてしまった老婆だった。ステージ上に立ってるだけでもちょっと絡まれたくないなと思わせられる存在感があり、出てくるだけで緊張する。
ラストで両足を上げた状態で奈落に落ちたため、これは事故なのではと焦ったが、その後カーテンコールで普通に歩いてた。プロ根性が凄すぎる。

アンサンブル

「主役をやれなかったからアンサンブル」ではなく、「アンサンブルとして上手いからアンサンブル」をやってるプロ集団。どの場面でもコーラスが良くて、歌が入るのが楽しみになる。

美術

美術は基本シンプルめだが、ステージ上に階段付きの屋体があり、1階部分で演技しながら2階部分でシルエットだけ写して映画風の演出をしたり、2階部分にある奈落が死体ダストシューター(後述)として大活躍したりする。

死体ダストシューターとは
殺しても問題なさそうな客が、トッドの床屋に髭剃りに来た時に活躍する機械仕掛け。椅子と床が連動しており、髭剃りに来た客の喉を掻っ切ってから椅子の仕掛けを踏むと、死体もといパイの材料が椅子の足元の穴から地下室まで一直線に落ちていってくれてとっても便利。これなら人に見られる心配ないし、解体作業が地下でできるしナイスアイディア!観劇レポでこんな解説させないでほしい。
これ、別に舞台版で完全再現する必要ないと思うんですよ。喉掻き切った瞬間に暗転して効果音入れて客がいなくなってた、って演出にしても誰も文句言わないしそんなに違和感ないと思うんですよ。 な ぜ 完 全 再 現 し た 
しかも2階部分の奈落の下を隠すために出てくるセットが、しんせんなおにく(婉曲表現)の解体作業をやる地下室にある焼却炉なので違和感ゼロ、むしろ必要。焼却炉は最後にラヴェット夫人を投げ込むのにも必要だしね。 な ぜ そ こ を こ だ わ っ た
焼却炉は何回か扉を開け閉めするのだが、赤い照明とドライアイスの煙で、本当に中で炎が燃え盛っているように見える。焼却炉の近くにある挽肉機(なんのお肉かはお察しの通り)もリアルすぎて視界に入るのも怖い。美術さんの職人魂が炸裂しすぎてて怖さに拍車をかけている。

音楽

当たり前だろうと言われそうだけれども、音楽最高。グロくてホラーな話なのにイヤらしさが全く無く、それどころか古典オペラみたいな品格を感じるのはおそらく音楽の影響大。
でもソンドハイム先生、なんでこのストーリーでこんな美しい旋律を書こうと思ったんですか。

演出

God, That's Good!のアンサンブルの振り付けが良かったとか色々あったはずなのだが、ラストが凄すぎて全てぶっ飛んだ。

映画版のラストでは、妻の亡骸を抱くトッドの喉をトバイアスがカミソリで掻き切り、二つの死体が写されてフェードアウトしていたため、なんでこの内容で最後に美しい夫婦愛っぽく仕上げたんだよ頭おかしいだろと思った。思いました(過去形)。ティムバートンはまだ人の心があったことがわかりました。
本作ではトバイアスがトッドを殺すところまでは同じ。その後、トバイアスがその場を離れて死体だけ残る→アンサンブル合唱→殺された人たちも立ち上がって合流→トッドとラヴェット夫人が出てきて前方中央へ→トッドとラヴェット夫人が手を握る→手を握ったままステージ後方中央の奈落に飛び込む(おそらく「二人は一緒に地獄に落ちました」というメタファー)
オーケストラの美しさとも相まって、幕が下りると涙なしには見れない純愛物語だった気がしてくる怪異現象。そうね、この二人の間にあったものが真実の愛ね、と説得させられそうになるけど、殺人狂とカニバの頭おかしいコンビの話だったはず。理屈は全く合わないのに、作品としての芸術性が高すぎてなすがままに感動させられる。そんな状態でカーテンコールに突入させられたら立つしかない。(満場のスタンディングオベーション)

会場・物販

どう考えても万人向けではない内容のため、観客の年齢層は高め。1幕最後、トッドが死体を埋めると言った時、ラヴェット夫人が「まあ別にそれでもいいけど……あっ!」と妙案()を思いついた瞬間に客席から笑い声が漏れるなど、事前に予習してる観客が多いことがうかがえた。こっちはミュージカルの予習しない人が多いので珍しい(客席の反応でだいたいわかる)。
物販でパンフを買おうとしたら、そもそも作ってなかった。代わりにポスターを買おうとしたらまさかの完売。大物主演コンビなのでレコーディングを期待するも、昨年と演出が同じなせいか録らない方針らしい。クソッ、こうなったら音源聴きながら脳内で別音声に変換する幻聴スキルを活用するしかない。

全体

最高最高最高最高最高最高
倫理観狂ってるし登場人物ほぼ全員狂ってるのに、舞台芸術としての美しさが完成されすぎてて、なんかすんごいいいもの観た気持ちになる。殺人カニバリズムを3時間見せられ続けたはずなのになんで胸がいっぱいになってるんだ。でも本当に美しいアートだったんだ。
当日券をゲットして観に行ったことは人生で誇るレベルに最良の選択だった。こんな奇跡めったにめぐり逢えるもんじゃない。
そして鑑賞前はやや頭痛気味だったのが、終演時にはキレイに完治。なるほど、医療行為だからチケット代が5割負担だった訳ね(テニミュ理論)。

おまけ

観劇オタ仲間にスウィーニートッドが最高すぎたと叫んでいたら、ハミルトン履修者向けの面白すぎる動画が送られてきました。英語字幕表示推奨。

天才の無駄遣い(すごくほめてる)