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【D】炎の男・松山晋也

 ドラフトの時には、「これは活きのいい投手が入ってきたぞ」と嬉しくなったものだったが、まさかここまで早くモノになるとは思わなかった。松山が今季の後半戦、中日の苦しい救援投手陣をおんぶにだっこで支えたことはいうまでもない。今回は、彼の魅力と来年への期待を書いていくこととしよう。

魅力は投げっぷり、剛速球

 これほどまでに、魅力を聞かれて即答できる投手は珍しい。見出し分に書いた通り、松山の魅力は投げっぷりと球の強い剛速球だ。

 世の中の速球には、「剛」と「快」の2種類がある。前者は力強い腕の振りをそのまま、捕手のミットを劈くようなバチンという音をたてながら打者を圧倒するような重い球。後者は指先のスナップが球の縫い目に伝わり、ほぼ地面と垂直の回転で打者の手元でキュッとホップするような軌道でミットに収まる綺麗な球だ。往年の竜戦士に例えると、前者は炎のセットアッパーとして伝説となった浅尾拓也現中日コーチで、後者はオリエンタルエクスプレスとして名を馳せたチェン・ウェインがそれに当たる。松山はと言うと、確実に前者の剛速球だ。

 バレーボールの必殺技を決めているかのような躍動感溢れる投げっぷりから、腕を強く振って150キロを超える球を投げる。制球力なんてあったものじゃないが、それでも百戦錬磨のプロ野球選手達のバットに球がかすりもしないのだ。これこそが彼の魅力。これほどまで直球に魅力を感じる選手は阪神の藤川球児氏以来だ。

神宮の仇を横浜で討つ…負けん気の強さ

 死に物狂いでAクラスに残っている横浜ナイン、そして横浜ファンにとっては、江戸の仇を打たれた長崎人のような理不尽さを覚えたかもしれないが、松山の負けん気が分かるエピソードを紹介しよう。

 大車輪の活躍で疲労困憊の中迎えた9/20のヤクルト戦。この日も松山は試合を締めくくる為、8回から登板したものの暴投、四死球禍で呆気なく同点を許し、結局は回をまたいでサヨナラ負けを喫してしまった。普通の新人であれば、その後は潰れてしまう。僕自身、又吉克樹や田島慎二がまだ新人だった頃、連投が嵩み打たれてしまった後はずるりずるりと悪い方向に行ってしまったのを目の当たりにしていたからだ。松山もこの試合でそうなるかと思っていたが、彼は強かった。続く横浜戦は雨のおかげで中2日のゆとりを持った状態で登板。この試合をなんと三者三振で無得点に抑え、髙橋宏斗の勝ちを守りきったのだ。そこからの松山は、一回り大きくなった。故障さえなければ、数年は抑え投手の前を投げるセットアッパー的な存在となるのではないか。

最後に…重なる「あの人」

 これは書こうか迷ったのだが、松山はどこか夭逝した木下雄介(今でも中日の一員だと思っているので、あえて呼び捨てで)と被る。ダイナミックな投球モーションから剛速球。闘志剥き出しの命を燃やすかのような投球スタイル…背番号も90番台と全てが被って仕方ないのだ。

 あまりオカルト的な話はしたくないが、これはマウンド上での木下の魂を、あのナゴヤ球場の外野を延々と走っていた木下の努力で培った胆力を野球の神様が松山に与えているのだと信じている。しかし、野球の神様は残酷だ。木下がもし健康に生きていたら、もしマウンドを踏み外さずに肩を負傷していなければ今頃、木下、松山、マルティネスが鉄壁の勝利の方程式を形成していたのだから。

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