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古のロックバンドじゃないですか②:KingGnu


13.あぶく

この世にはいわゆる『ライブ映え』というものが存在する。音源で、イヤホンで聴いても もちろん素晴らしいのだけど、現場で聴いたとき、それはそれは信じられない化け方をする楽曲が時々出てくる。これまで様々なアーティストのライブに参加してそのステージを見てきたけれど、全アーティストを含めても、私のなかでその頂点に立っているのは『泡』だ。

"音圧に溺れる" という感覚が近いと思う。どんどん音の海に深く深く入り込んでいくような、酸素が薄くなってまわりの音が聞こえなくなって、音波と心音だけが体内で響いているような、そんな感覚。その感覚を、地上で、音だけで体感させてくるこのチームの恐ろしさに震えてしまう。

申し分ない音の密度に加え、泡はビジュアライザーも濃密すぎる。まるで 泡という楽曲における常田さんの脳みそを、融かしてそのまま垂れ流したかのようなビジュアライザーなのだ。この音と映像の合せ技、あまりにも至高がすぎる。必ず一度はライブで浴びてほしい楽曲。


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14.幕間 〜 15.どろん 〜 16.Overflow 〜 17.Prayer X

開会式に続き 幕間がセトリに入ってきたことで ほんのり "あの曲" への期待が脳内をよぎったものの、「先の展開より今に集中しろ」と言わんばかりの怒涛の畳み掛けが始まった。そして先に謝罪させていただきます。(誰向け?)

ここから先、著しく記憶が喪失している。もはや笑えるほどに、壊滅的に残っていない。


常田大希・絶対アカンぞフレーズランキング(※私調べ)不動の首位をキープしている『ダァイ都会の 他愛もない ダイッレンアァァァァァイ (どろんより)』を浴びた記憶を最後に、Overflow・Prayer Xあたりの記憶がマジのマジで無い。手繰り寄せる残像すら1ミクロンも残っていないのである。もはや 聴いたんか?レベルだ。不甲斐ないとしか言いようがない。どなたか どんな演奏だったか私に教えてください。(どういうこと?)

このあたりの記憶が失われた原因は、なんとなく分かっている。とんでもない生まれ変わり方をした楽曲があったのだ。


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18.Slumberland

コイツ(コイツ)である。

もしかしたら過去のフェスだったり東京ドームで既出のアレンジだったのかもしれないが、私は今回初めてこのバージョンを聴いたため、そのあまりの変貌に終始圧倒され言葉を失い、なんの反応もできないままあっという間に終わってしまったのだ。完全に「今のなんだった?」現象だった。

イントロ冒頭で内臓が沸々と熱を帯びていく感覚、常田さんの雄叫びで一気に拳が上がり、サビでは妖しげな集いがクライマックスを迎えるかのようなある種 歪んだ高揚感に包まれる、あのスランバーの面影はもはやどこにもなかった。

体感1.5倍速、ヒップホップ濃度を高めたかのような音の編成に、どこか酔った足取りを思わせる常田さんの気怠さMAXのボーカル、完全に別曲になっていた。メチャクチャ遊ばれた。音楽に弄ばれたのだ。ずるいにもほどがあるだろ。こんなことをしてくるから抜け出せないんじゃないか。いやまぁ、抜け出す気なんてさらさらないのだけども。


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19.Stardom 〜 20.一途 〜 21.逆夢

畳み掛けは止まらなかった。Stardomのラスト、MVと近しいドデカロゴがスクリーンに映し出されてからの感情の高ぶり、本当になんて言えばいいのか。もうこのあたりになると、ライブ始めのあのもじもじ感はフロア中どこを探したって 微塵も残っていなかった。まさに『解放』そのものだったと思う。

一途に関しては特に楽曲と演出(レーザー照明)が一分の狂いもなく絡み合っていて毎度没入感が半端じゃない。常田さんはいつかのインタビューで理のボーカルについて、「あいつにダーティさは出せないから(※もちろん愛を込めた意味で)」と言っていたことがあったけれど、この曲の理の声は 他とかなり質感が違うのではないかと個人的に思っている。たしかにダーティではないかもしれないけれど、かなりザラついた鋭利な質感で、曲自体の疾走感も相まって突き刺してくるような感覚があるのだ。理ゥゥ〜〜〜!カッチョええぞ〜〜〜〜〜!!!!!


己の解放により多方面にとっ散らかった肉片たちを、このタイミングで投下された逆夢がまるっと全部、柔く包み込んでくれた。お布団だった。「じんわりと、じんわりと、」のフレーズを、まるでワレモノのように大切に並べていた理のあの声が、音源を聴く度に思い出される。


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22.壇上

必ず聴きたいと思っていた。聴きたいと思っていたし、聴かなければと思っていた。

この曲をつくっていた頃の常田さん、メンバーの心情を思う。千切れそうなものがあるなぁ。自分の目に見えているのがどれほど一部なのか、続けるというのがどれほど難しいのか、改めて思い知らされた。それと同時に、決意と絆も。常田さんのソロで始まって、2番から少しずつ増え重なっていく音たちがどうしようもなく愛おしかった。抱きしめて、抱きしめられて、これから先も生きていきましょう。真夜中だって、どこでだって、私たちは一緒です。


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23.サマーレイン・ダイバー

あぁ、お別れの時間が来てしまった。多幸感と寂しさの洪水に襲われるサマーレイン・ダイバーは、どこまでも刹那的で、「今この瞬間がずっと続けばいいのに」みたいな、引き伸ばしたい 心の "まとわり" が音にとてもあらわれているような気がするんだよなぁ。夢に落ちるように、音が止んだ。本当に美しい楽曲だ。


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Encore

24.閉会式

間違いなく、今ツアーのハイライトはここだと思う。

いつか見れたら、いつか聴けたら、そうほんのり思い描いていた瞬間が、ついに現実になった。

常田大希の、チェロ独奏である。


ライブでストリングスやホーン隊の音を聴くことは稀にあったとしても、チェロの独奏なんてものはまず聴くことがない。ましてやその演奏者はバンドメンバーであり、極めつけに彼の場合はマジの、ホンモノのチェロリストだ。こんなシーンをライブ内で魅せられるバンドは確実に彼らだけのはず。ここが想像の100000000倍、とんでもなかった。

クラシックを聴いてきたわけでもなく、チェロの生音も今回初めて聴いた私が綴る感想なんてこの上なく薄っぺらいものだけど、常田さんの血肉は、血液は、本当に音で成り立っている。以前からそういう感覚は自分のなかでずっとぼんやりあったけれど、この演奏を体感して メチャクチャ濃く、ハッキリしたものになった。

"常田大希が鳴らすチェロの音" とかいうもんじゃない。なんというか、常田さんがチェロを握ったその瞬間から、常田さんとチェロは限りなく一体化していて、血管が繋がるような感じ。だから ゆらぎ巡るそれはもう "常田大希の血液" だし、"常田大希の音" なのだ。圧巻だった。


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25.白日

再び謝罪させてください。
ヌーの代表曲といえる白日、閉会式の影響によりこれまた微塵も記憶に残っておりません。出禁案件がすぎるだろ。かつお節くらい薄くて構わんからどうにかして残せんかったのか、私よ。(かつお節にも失礼だよ)


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26.McDonald Romance

「大合唱、しませんか」

いつからか 理のこの言葉が、この曲の合言葉のようなものになっていた気がする。

頭から常田さんのギターのみで始まったマクドナルドロマンス。2番に入ったタイミングで、くしゃっと笑って 弾く手を止めた。スタジアムが、人間の声だけで包まれたのだ。

私は時より空を見上げながら歌った。

なんだか常田さんのおばあちゃんに、届いているような気がした。

おばあちゃん、あなたのお孫さんは、お孫さんのチームは、音楽にどこまでも誠実な人たちだなぁと思います。その誠実さゆえに苦しむこともたくさんあるかと思うのですが、1ファンとしては、その誇りとプライドにとても じん としますし、とても、とても格好良いです。人はたぶんこういう姿を、生き様と呼びたくなるのだと思います。


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27.Flash!!!

本当に最後になった。マクドナルドロマンスで目に溜まっていた涙が、ここでジャンプしたことで全部こぼれ落ちてきた。最後の最後で、傍から見たときにFlashで号泣した人間になってしまった。想定外すぎる事態だった。

そしてラスサビに突入するくらいのタイミングで、大量の花火が打ち上がり始めた。演奏がとてつもない部分なので そちらに集中したいところだったが、花火には勝てなかった。終盤はほぼ空を見上げ、ステージがどんな様子だったかは全く確認出来ていない。(ええんかそれは)
絶妙にくだらないオッサンのような言い回しになってしまうが、あれは完全にFlashだった。FlashがFlashしていたのだ。「Flashだけに〜〜〜!!!」と謎のクソダサ雄叫びを空に轟かせ、私のスタジアム公演は幕を閉じた。






KingGnuの音楽性や人柄を見ていると、変わるもの、変わらないもの、そういったところの融合がとても心地良く感じることが多い。和洋折衷のような、温故知新のような。言葉としては2つとも音楽に関係ないけれど、どんなかたちであっても否定というものを絶対にしない、彼らの大きく包み込むようなマインドには、なんとなくお似合いの言葉だなぁと勝手に思っている。

間違いなく令和を生きるバンドでありながら、同時に 間違いなくいにしえのロックバンドじゃないですかと、私は言いたくなるのだ。

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