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【エッセイ】冬の色〜シロクマ文学部〜

冬の色と言われたら
ある映画のシーンを思い出す。

寒い午後、
主人公が窓辺に近づき、
曇ったガラス窓に息を吹きかけ、
拳で拭って外を見る、空を見上げる。
古今東西よく使われる、
ありがちな冬の日のシーンだ。
どういったことのないシーン。

そのあと主人公は、
鳴らない電話を待っている。
好きな音楽をかけて
コーヒーを淹れ本を読む。
ただそれだけのシーン。
台詞さえない。

ジェットコースター並みに
ハプニング連続の恋愛物語の中で、
それはあまりにも静かなシーンだった。
けれどその時流れた曲は
お気に入りになった。

それもまた誰もがよく知る曲で
今更さらだったというのに。
それなのに、
その情熱的なリズムさえもが
押し隠した感情に寄り添う
密やかな呼吸みたいに
私の胸に染み込んだ。

やがてすべてが
影に溶け込んでいくかのような
モノクロームな時間。

あの日、
彼の心中に去来したものの本当を
私たちが知ることはないだろう。
すべては憶測の域を出ない。
でもなぜか。

誰もが知らないままのものに
そっと触れたような気がして、
今も曇天の寂しい冬の午後に
そっとその曲をかける。
彼と私が見た冬の色が
そこには静かに広がっている。



とても好きなお題だったので、
もう一つ書きました。
今回はエッセイです。

書きながら一人盛り上がって
ロマンチックな気分をひたすら味わいました。
小牧さん、今週もありがとうございました。

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