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父のグラタンと100年の嘘

あんまり堂々と言う趣味じゃないのかもなと思いつつ、今日ほど言うのに適した日はないので、言う。

私には、「嘘集め」という趣味がある。

その名の通り、誰かがついた嘘を集めているわけなんですが。4月1日、今日はエイプリルフールなので、その「嘘集め」の話と、集めるきっかけになった父の嘘のものがたりを、書いていこうと思います。

……と同時に、私の人生にとって、大事な発表をしたいと思います。

・・・


「嘘ついたら針千本、の〜ます!」
「嘘つきはどろぼうのはじまり!」

この2つは、小さい頃の私にとって、こわいこわい呪文だった。母や先生からも「嘘をついてはいけません」と教えられてきた。

けれど、実のところ私は、「嘘っていいな」と思っていた。
そう思ったきっかけは、父が作った「グラタン」だった。



「パパ、グラタン食べたい」

私が小学校にあがる前の話。その日、母は出かけており、家には私と父、ふたりきりだった。普段はほぼ家にいない父なので、かなりレアなシチュエーション。(思い返せば、おなかの中にいた弟の検診日かな)

そんな中で、急に「グラタンが食べたい」と言い出した私。父は、決まって日曜日に食べるお好み焼以外、全く料理をしない人だった。でも、この日の父は「よっしゃ」と言った。


数十分後。
「できたよ」

出されたグラタンは、お皿もフォークも大人用。父はたぶん、私が使う子ども用のものが、どこにあるか分からんかっただけと思うけど、なんかちょっと大人になった気がして、嬉しかったのを覚えてる。

ただ、一口食べて、すぐに「ん?」となる。自分の知ってるグラタンじゃない。味も食感も、ちょっと違う。「ぷるん」とならず「ふにゃん」となるそれをフォークにさし、父に聞く。

「パパ、これ何?」
「マカロニやん」
「ほんと…??」
「うん。穴もあいてるやろ?」

確かに、白いソースの中に、白くて細くて短くて、穴のあいたのがたくさん入ってる。でも、父がニヤニヤしてこっちを見ている。あ、その顔。やっぱ違うんやんか。もう一口食べる。あ、わかった。よく食べるやつやん。

「パパ、これおうどんよ! 」

すると、父は言った。

「あやちゃん。うどんを短く切って穴あけたのが、マカロニやんか」


後から知ったけど、父は、マカロニもホワイトソースもなかったために、冷凍うどんをかために茹で、3cmほどの長さに切り、わざわざ千枚通しか何かで、ひとつひとつに穴をあけていたのだ。(ちなみにソースはシチュー)

「うどんじゃないよ〜マカロニだよ」と言われれば、「またまた~」と信じずにいたかも。でも、「うどんを短く切って穴あけたのがマカロニ」って、ちょっと本当っぽいやん。思いっきり信じるわ。こっちは未就学児やぞ。


そして私は小学4年生になるまで、「うどん=マカロニ」を、まじで信じていた。学校の給食でマカロニの入ったスープが出て、「ねえ知ってる?マカロニって…」と言ったときには、隣の席のカドワキ君に、めちゃくちゃ笑われた。

「だってパパが言ってたもん!!」
「お前のとーさんやばい!めっちゃおもろいな!」

ヘンテコな嘘をつく「しまだのとーさん」は、私の学年で話題に。しかも、当時男子に人気だった「バーチャファイター」という格ゲーの「ジェフリー・マクワイルド」というキャラに見た目がそっくりだったことから、あだ名が「ジェフリー」に。運動会などの行事ごとで現れた日にゃ、男子たちに「ジェフリーー!!!」と囲まれるという、しあわせな構図が生まれた。


それを見て、子どもながらに思った。

嘘ついたら針千本って、ほんとかな。
嘘つきは泥棒のはじまりって、ほんとなんかな。
嘘って、いい嘘もあるよな。


そんな具合で、「うどんを短く切って穴あけたのがマカロニ」は、私が覚えている父の嘘。とても大好きな、一番の嘘。

(余談だが、「マカロニ≠うどん」の解を知って以降、「シチューうどん」というメニューが、我が家のレパートリーに入った。めちゃうまいのでやってみてね。穴はあけなくていいよ)

・・・


……というエピソードから、私は、「嘘」に魅力を感じるようになった。そして、あるときから「嘘集め」をはじめた。

具体的には、誰かから「こんな嘘をついちゃってさ」という話を聞けたとき、「よかったらもう少し聞かせて」と詳細を聞く。で、それをエクセルにまとめる。もちろん「今、嘘集めをしていて」と本人に伝えた上でね。 そしたら、いっぱい集まった。


集まっている嘘は、ライトなので言えば、こんなの。


「予約してました、田中です」

僕、めちゃくちゃ珍しい名前で。電話予約とかだと、いつも聞き直されるんですよ。聞き間違えたまま、違う名前で予約が通ってて、行ったら「ご予約ありませんね…」ってややこしかったこともあって。なので、飲食店とか出張先で受けるマッサージとか、重要じゃない予約のときだけ、僕の名前は「田中」です。

お店の人への気遣いが混じった、便宜上の嘘。私の友人にも同じような人がいるけど、その人は「○○様〜!っておっきな声で呼ばれるのが恥ずかしいから」と言っていた。「地元だと特にね」たしかにね。

あ〜、今書いてて思い出したけど、私も苗字の嘘ついたことある。昔、お付き合いしている人の苗字でAmazon注文した。「□□様にお荷物です〜」「?? あ、私か。はーい!」って。新婚で苗字が変わって、そこに自分の宅急便が届いた、という設定で返事できて、楽しい。

はい。

あと2つくらい紹介しよかな。次はこちら。28歳の友人がついた嘘。


「すみません、引っ越してきたばかりで」

地元歩いてたら、道聞かれて。普段は、時間さえあれば目的地まで案内するぐらいのタイプだけど、咄嗟に、この嘘が口から出た。このとき仕事で疲れてて。メンタルも落ちてて。

でも、シンプルに「ごめんなさい、わからないです」でも良かったのに、「引っ越してきた」って。なんでそんな嘘、なんでこんなとこでも言い訳してるんだろうって思って。まあでも、「思ってる以上に自分は弱ってる。週末もっと、ちゃんと休もう」って、気づいたっていうか。

「言い訳」って言ってたけど、私はそうは感じなかった。相手にも、自分にも、やさしい嘘だなと思った。

28歳、責任の伴う仕事も増えてるやろし、彼のやさしさゆえに、いろんな気配りをして疲れてたんかも。それでも、通りすがりの人の不安な状況に寄り添って、「僕も引っ越したてだよ」っていう状況の嘘が、選ばれたのかも。

きれいに考え過ぎてるかな? いやでも、私はそう感じた。友よ、とりあえずご自愛してね。


最後は、子どもがついた嘘。

「お母さんが、水筒のコップ使いなさいって言いました」

小3のとき、理科で「コップの水の量を測る」っていう授業があって。「家から1つコップを持ってきましょう」って宿題があった。連絡帳にもちゃんと書いたのに、僕、忘れてしまって。

ただ、どんなコップかは自由って言ってたから、「そうだ!」って思いついて、持ってた水筒のフタを出した。そしたら、先生に「忘れたんか」って聞かれて。僕、「はい」って言わずに、「お母さんが、水筒のコップ使いなさいって言いました」って、嘘ついた。でも、先生にはバレバレで、しっかり怒られて。授業にも参加できなくて。

嘘ついたこともだけど、母のせいにしたことに気づいて、ウッとなった。母まで怒られてしまったような気持ちにもなった。なんかもう、あのときは気が気じゃなかったなあ。

もし、私がその先生やったら、どうするやろう。
ちなみに、彼は今、学校の先生をしている。

・・・


世の中にはいろんな嘘があると思う。悪い嘘も、確かにある。でも、「嘘集め」で聞かせてもらった嘘たちは、どれも針千本なんかじゃなかった。

4歳が、親の気をひくためについた言葉遣いの嘘。
19歳が、一度でいいからデートしたいと思った人についた嘘。
28歳の介護員が、相手の生きる力を尊重するためについた嘘。
67歳の占い師が、今にも崩れ落ちそうなお客さんについた嘘。
90歳のおばあさんが、戦後に自分の身を守るためについた嘘。

嘘には、その人の本当の気持ちが、いっぱい詰まってるって思った。


……ということで、発表です。


『100年の嘘図鑑』

(仮)。

私・しまだあやが、はじめて本を出します。1歳から100歳まで、私がいろんな人から聞いた大切な嘘たちをエッセイにし、出版します。




「嘘集め」をしていると、自分がついた嘘、つかれた嘘のこともたくさん思い出す。誰かの嘘にまつわるエピソードを通して、自分が経験した嘘の、後ろ側にまわる。中には苦い記憶もあるけれど、どんな本当があったのか考えてみる。そしたら、いろんなことが見えた。毎日の感情が濃くなった。

「1歳から100歳まで、100年分の嘘を集めたら、どうなるやろう」と思った。もっと世界が見えそうだな、と思った。だから、これを、ひとつの図鑑にしたくなった。


そんな『100年の嘘図鑑(仮)』、
出版は「ライツ社」さんからです。

ライツ社さんは、私がnoteで記事を書きはじめて、すぐくらいに連絡をくださり。何者でもない私に「しまださんの本を出したいです」と。それから、(私の調子が)晴れの日も雨の日も、大大大嵐だった期間もずっと、道を照らしてくださった。

で、私は普段、日常の遊び方を作ったり、嘘とか癖とか、ふしぎと思ったものを集めることが本当に好きなんだけど、それらを伝える中で「嘘の本を出しませんか?」と声をかけてもらって、今回に至りました。

嘘の本なので、ほんまは今日やった、出版日は次のなのに私がぐずぐずしすぎたエイプリルフールがいいかなあ、と思ってる。ライツ社のみなさん、先に伝えてたみなさん、ごめんなさい。

でも、1年後はさすがにちょっと遠いので、noteで1ヶ月に2本ずつとか、集まった嘘たちを連載しようかな。や、イベントで話すのもいいなあ…「嘘スナック」とか「嘘ピクニック」とか。オンライン上で「嘘BAR」とか。匿名で参加しやすそうだし、とっても楽しそう。


そして。

こういうのは、出してから言うことかもしれないんですが。しかも志高すぎる話なんですが。

私は、この『100年の嘘図鑑』が、植物図鑑や天体図鑑みたいになったらいいな、と思っています。昔の図鑑って、今読んでも色褪せない。この本も、末永く受け継がれてほしい。未来の人は、「こんな嘘をついた時代があったんだな〜」って思うかな。「わー、今も昔も変わらないね!」って思うかな。100年後、嘘を教えてくれた人たちがみんな眠りについても、この本の中に詰まった「本当の気持ち」が、世界に続いてほしい。



ペースは緩やかだけど、今、書いていて、とっても楽しい気持ち。嘘集めをはじめて、生きているのがもっと楽しくなりました。この力を届けられるよう絶賛執筆中なので、ぜひ、待っていてください。

あと、このnote書いてたら、昼飯に父さんの「嘘グラタン」が無性に食べたくなったので、今からうどん買う。ので、ここで終わります。


では、また!


\最後におねがいごと/
よかったら、みなさんの嘘も、教えていただけませんか。

今日までに集まった嘘は、実際に顔を合わせて教えてもらってるものです。なので、地域がまだまだ限定的。また、顔を合わせないネット上だからこそ言える嘘のエピソードも、大事にしたいなと思っています。

そこで、インターネット上にポストを作った。「嘘ポスト」です。ま、Googleフォームなんだけどね。登録やログイン不要、匿名で送れます。

▲クリックすると、ポストに飛ぶよ

嘘ポストに投函しない人でも、このnoteに登場していない嘘をひとつ、書き方例として載せているので、ぜひ読んでみてください。

「嘘はないけど、出版したら連絡くれ!」という嬉しい方は、嘘関連の質問は空白にして、最後の連絡先のみご入力いただければ、ご連絡いたします。



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