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地域のための摂食嚥下リハビリ・栄養指導の取り組み

こんにちは、CCH協会です。コミュニティホスピタルでは患者さんが住み慣れた地域でそのひとらしく生活できるようにするために様々な取り組みを推進しています。

今回は水海道さくら病院で在宅療養支援中の患者さんに対する訪問嚥下リハビリテーション導入が誤嚥性肺炎リスクの低減とQOL向上に寄与した事例をご紹介します。取り組みを推進した久富護医師に実際にお話をきてみました。


1 嚥下機能(飲みこむ力)について

嚥下機能(飲み込む力)について、意識したことはありますか? 若い方などは、ムセ込んだ時以外、ほとんど意識したことがないのではないでしょうか。

高齢になると、人間は嚥下機能がどなたでも低下します。その際に、自身の嚥下機能にあった形態(大きさや硬さなど)の食べ物を食べないと、嚥下が難しくなり、飲み込んだものが本来の通り道とは違って、空気の通り道である気管の方に入ってしまいます。これを誤嚥といい、さらに食べたものが肺に入り、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすと、致死的になることがあります。

75歳以上の死因*をみると、1位 悪性新生物(がん)、2位 心疾患、3位 老衰、4位 脳血管疾患に次いで、5位が肺炎となっており、75歳以上の肺炎の多くが誤嚥性肺炎と言われています。つまり、自身に適した形態の食事をすることは、誤嚥性肺炎を予防する意味でも、非常に重要なこととなります。
*厚労省令和3年度人口動態統計

2 言語聴覚士と管理栄養士について

みなさんは、言語聴覚士や管理栄養士といった職種をご存じでしょうか? 両職種は今回のテーマになっている嚥下機能について、非常に重要な役割を担っています。

嚥下機能に絞って述べると、言語聴覚士は嚥下機能についてのスペシャリストとなり、各患者さんにあった食形態はどういったものか?どういった姿勢で食べるのがよいか?口に運ぶ量はどれくらいがよいのか?などについて検査等を通じて、アセスメントや嚥下訓練(嚥下リハビリといいます)を実施し、最終的には他の医療職やご本人・ご家族にそれら情報の共有や、実施方法を教える役割を担っています(なお、「言語聴覚士」という名称の通り、発声についても担当領域になります)。

また管理栄養士は、生活習慣病の方に対して、食事指導を行うイメージがあるかもしれませんが、嚥下機能の領域では、ご本人にあった食形態で必要なカロリーを摂取するための献立を立てたり、その食形態をご自宅で作るためのご家族への調理指導を担うことが多くなります。

3 水海道さくら病院での取り組み(入院による嚥下機能検査)

嚥下機能が低下した患者さんに対して、医療職とご家族が一緒に取り組み、患者さんの誤嚥性肺炎のリスク低減だけでなく、食生活についてのQOL(生活の質)が向上した茨城県にある水海道さくら病院の事例をお示しします。

90歳代の女性の話です。この方は、ご自身で食事、着替えや排せつなどは出来ず、御家族が介護をされている方で、訪問診療が導入されています。
訪問診療の際に、主治医はご家族から「食事の時に、ヨダレが少し出ている。」との話を聞きます。ヨダレは嚥下機能低下の一つのサインとなるため、主治医は誤嚥性肺炎のリスクもあるため、しっかり嚥下機能を確認する必要があると判断し、入院による嚥下機能検査を行うこととなりました。
入院中に各種検査を行い、言語聴覚士による嚥下機能の評価を行いました。その結果、やはり機能は低下していたため、適した食形態(硬さ・大きさ)、食べさせ方、食べるときの姿勢、調理の仕方などを言語聴覚士や管理栄養士から、ご家族に指導させて頂き、退院となりました。

訪問リハビリ中の様子


4 水海道さくら病院での取り組み(訪問による実践度・お困りごと確認)

退院後に主治医は、あらためて入院時に指導させて頂いた内容が、しっかり実践できているか?ご家族として、なにか困っていることはないか?などを確認するために、入院時の担当言語聴覚士や管理栄養士に患者さんのご自宅への訪問を依頼しました(少し専門的になりますが、これらを訪問嚥下リハビリや訪問栄養指導と言います)。

訪問の結果としては、残念ながら入院時の指導内容(食形態等)のおおよそ半分程度が実践できていない状況でありました。しかし、これはご家族に落ち度があるわけでは、当然ありません。患者さんの入院中、限られた短い時間の中で、ご家族は医療者から多くのことを依頼されるため、実践することが難しいのは、当然のことと言えるかもしれません。

そのため、担当言語聴覚士と管理栄養士は、あらためてご自宅で指導を行いました。言語聴覚士は、ご家族が使い慣れている食器やスプーンなどを用いて、食事介助の方法などを丁寧に教え、管理栄養士はご家族と一緒に台所に立ち、適した硬さの食事を一緒に調理しました。

入院中の食事:90歳代患者入院時に家族に対して
食事指導を実施(全粥/刻みとろみ等)
退院後の食事。指示内容の多くは順守できていない。
(食事時間40-50分)


5 慣れ親しんだ場での指導の重要さ

3か月後、あらためて指導内容の実践度を確認すると、そのほとんどをご家族は実践来ていました。それらにより、嚥下機能低下の発見につながったヨダレは減り、結果として誤嚥性肺炎のリスクは低減した、と考えられます。

また、患者さんご本人に適した食形態や改善された姿勢等による食事で、元々1食あたり40-50分かかっていた食事介助時間が20-30分程度にまで短くなっていました。これは、食事時間が長くなることで疲労を感じやすくなる高齢者に対しての体力的な負担軽減だけでなく、ご家族の介護負担軽減の意味もあります。

訪問嚥下リハ・訪問栄養指導介入後
食事時間20-30分

今回、専門職である言語聴覚士や管理栄養士の介入により、誤嚥性肺炎によるリスク低減だけでなく、患者さんやご家族の食事についてのQOLが大きく向上した事例を紹介しました。この事例は、患者さん・ご家族が慣れ親しんでいるご自宅での指導の重要性をあらためて認識できたものとなります。医療は様々な専門職がチームとなり、目的を達成するものとなります。

コミュニティホスピタルでは、これらの考えのもと、地域住民のみなさまに対して、必要なアプローチをさせて頂きたいと考えています。


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