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経営難と災害から3年で奇跡の復活。地域の在宅医療拠点になるまで。水海道さくら病院の変革

茨城県常総市にある水海道さくら病院(93床)。利根川氾濫で病院の一階が水没する水害を経て、地域包括ケアシステムを支えるコミュニティホスピタルとして再生してきた軌跡をご紹介します。


病院概要

茨城県常総市水海道森下町4447
93床(一般38床 / 障害者一般27床(うち地域包括ケア17床) / 療養28床)


1 有床診療所から始まり、外科、透析病院へ。

茨城県常総市にある水海道さくら病院は、昭和56年に田中病院(19床)として開業しました。当時は、病床拡大のニーズもあって昭和59年に52床、平成10年に100床に増床。外科を中心とした医師体制を築いていきました。

平成12年は透析センターを立ち上げたこともあり、次第に地域の透析病院として認識されるようになってきました。

しかし、高齢化が進展すると共に、隣接するつくば市の医療提供体制が充実する一方で病院としての特徴があと一歩打ち出せずにいました。また、医師や職員の不足も重なって、病床の稼働率は低迷。次第に経営は困難になっていきました。

現在の水海道さくら病院


2 災害からの奇跡の復興

経営難が続く中で、更なる追い打ちとなったのが2015年9月に発生した関東東北豪雨による被害です。

記録的な豪雨により鬼怒川堤防が決壊し、水海道さくら病院の地下と1階部分はすべて浸水するという災害に見舞われました。被災直後は医療を続けられる状況ではなく、病院の継続自体が危ぶまれましたが、多くの方々からの支援、ボランティアの協力、職員一丸となった復興活動の結果、3ヶ月後に全面営業再開という「奇跡の復興」果たします。このニュースは様々なメディアにも取り上げられました。

ボランティアの協力、職員一丸となった復興活動

しかし、被災総額は8億円にのぼり、一旦落ちた稼働率は低迷を続け、経営悪化は続きました。

3 コミュニティホスピタルへの転換を決める

2018年、新たな総合診療医が1人採用できたことをきっかけに、抜本的な経営改善策として、病院の舵を大きく切る決定をします。

病院があるつくば医療圏は、今後高齢化が進むにつれて医療ニーズが伸び続けることが明らかでした。病床は高度急性期、急性期、回復期が充足しており、慢性期については不足。在宅医療については、2025年には現状の150%の供給量が必要で、早期に在宅医療を提供する体制を構築する必要がありました。

高齢化に伴う医療のニーズが「病気の治療」から「生活の質の向上(QOL)」に変わっていくことは明らかだったので、当院は地域包括ケアシステムの拠点病院となるべく「コミュニティホスピタル」にチャレンジすることを決めました。


4 地域包括ケア病床と在宅医療をスタート

地域包括ケア病床を導入するために、ニーズが無くなっていた障がい者病棟を減らし、地域包括ケア病床19床と在宅療養支援病院を届出。病院内に在宅医療部を設置し、近隣の介護事業所や行政への挨拶回りなど、病院職員が一丸となって取組みました。

当時は、在宅医療を行う医療機関がほとんどなかったことで、自宅療養ができなくなったら施設に入所することは当たり前、がんの終末期を自宅で暮らすことは選択肢としてありえない状態でした。

地域での在宅医療啓発、地域の介護事業所とともに勉強会を重ねる中で、少しずつ在宅患者数が増加。それにともなって病床稼働率も上昇し、経営は好転していきます。そして、この理念に賛同する医師や専門職の入職も増加していきました。


5 復興から3年間で経営を再建

災害から6年経過した2021年には、売上は増加して黒字に転換。その立役者となったのが在宅医療で、患者数は70名。特別養護老人ホームの利用者を含めると300名の在宅患者を診療しています。また、在宅医療を受けている患者さんの病状悪化時の入院や、ご家族や介護者の休養を目的としたレスパイト入院などの影響もあって病床稼働も大幅に回復しました。
透析は常総市唯一の入院施設として機能し、2021~2022年はコロナ重点医療機関としても、地域に貢献しています。

医師・スタッフ体制にも大きな変化がありました。
高齢化していた医師体制(当時は外科医中心の常勤4名)は、入れ替わりと若手医師の入職があって現在は内科医を中心とした常勤医師8名体制になりました。新たに加入した内科医は、呼吸器、腎臓、循環器などの専門医の資格を保有しているものの、外来、在宅、病棟をシームレスに患者を支えたいという想いで当院に入職しました。各専門分野の医師が集まって、それぞれの得意分野を生かしたチーム医療を実践できています。

また、当初理学療法士しかいなかったリハビリスタッフも大幅に増加し4名から11名に。作業療法士、言語聴覚士も入職して様々な患者ニーズに併せてリハビリが提供できる体制となりました。

6 在宅医療の充実に向けた取り組み

このようにコミュニティホスピタルとして生まれ変わったさくら病院は、現在地域のニーズに応えるべく様々な取り組みを行っています。

高齢者のQOL(生活の質)向上のためには、ADL(移動・排泄・食事などの日常生活で最低限必要な動作)の維持向上が不可欠です。そのためにはリハビリテーションや筋肉量保持のための栄養管理が欠かせません。これらは急性疾患と違い緩徐に変化するため、見落とされることが多くなります。

それを予防するために、医師による訪問診療に加えて、リハビリスタッフによる訪問リハビリ、管理栄養士による訪問栄養指導を開始しました。これらの専門職は病院と在宅の両方にまたがって活躍していて、専門職が多数在籍する病院の強みを生かした取り組みになっています。

また、放射線技師による訪問エコー検査も実践しています。外来受診が難しい在宅患者に対して、放射線技師がご自宅に赴きエコー検査を行うというものです。深部静脈血栓などの早期発見に繋がるなどの効果が出ています。

7 これかの水海道さくら病院

常総市は、高齢な方、病気や障害をもった方が地域で安心して生活するためのリソースはまだ足りないことが多いため、病院としてそれらの機能を補完していくことが次の目標です。

まずは、地域の他の在宅医療・介護サービスとの連携強化。
訪問歯科との連携、嚥下リハビリの拡充などによって、咀嚼→嚥下リハ→栄養管理→身体リハビリという円滑な流れを作ることで、在宅患者のADLの維持向上につなげていくというものです。訪問薬局とも連携強化をすることで、特にターミナル期の点滴等が必要な在宅患者に対して、迅速に対応できる体制も構築に向けて検討しています。

もう一つは、健康寿命の延伸や病気を重症化させないための予防の取り組みなどです。
各種の健康診断に加えて、高齢者のための身体機能が落ちていないかを調べるためのフレイル検診を基本として、地域住民の方々が気軽に病院に立ち寄って健康チェックができたり、病気や予防について学ぶ場となったり。地域住民の方々が自然と病院に集えるような病院作りを目指していきます。

「患者さん、地域住民の方々に必要なことはなんでもやってみよう」
職員全員で試行錯誤を繰り返して、真に地域に根差した病院になるための取り組みをこれからも続けていきます。


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