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第267号(2024年6月3日) 西側製兵器によるロシア領内攻撃の開始


【今週のニュース】スウェーデンが過去最大規模の対ウクライナ軍事援助を発表 ほか

ウクライナ初のコルベットがトルコで洋上試験へ

 ウクライナがトルコに発注していたコルベット、ヘーチマン・イワン・マゼパが初の洋上試験を開始した。

 ヘーチマン・イワン・マゼパは壊滅したウクライナ海軍再建の第一歩となる水上戦闘艦であるが、2番艦以降の起工の目処は立っていない。

スウェーデンが過去最大規模の対ウクライナ軍事援助を発表

 5月29日、ウクライナのゼレンシキー大統領の訪問に合わせて、スウェーデン政府は133億スウェーデンクローネ分の軍事援助を発表した。過去16回の軍事援助パッケージの中では最大規模となるものである。
 目玉となるのはASC890空中装軌警戒機(サーブ340ベースのAEW)2機で、この種の装備をウクライナが受領するのは初めて。ウクライナ領空外からしか活動できないNATOのE-3を補ってレーダー覆域を広げることが期待されるが、訓練や支援体制の立ち上げにどのくらいの時間がかかるのかは明らかでない。また、今回の軍事援助パッケージでは長距離空対空ミサイルAMRAAMや155mm砲弾、PBV302装甲兵員輸送車の在庫全部なども含まれる。

ロシアの国防・公安支出は対GDP比8.7%へ

 5月16日、プーチン大統領は軍事支出をテーマとした会議をクレムリンで開催した。この中で興味深いのは、2024年度の国防・公安比がGDPの8.7%に達していると発言したことである。
 2023年12月にプーチンが署名した2024年度連邦予算法では、国防費単体での予算額が約10兆8000億ルーブル、対GDP比は6%とされていた。とはいえこれは補正前の額であるから、実際にはその後、国防費は積み増されているはずである。5月12日にペスコフ大統領報道官が発言した時点では国防費の対GDP比が6.7%とされていたから、0.7ポイント増、金額にして(約180兆ルーブルとされるGDPの見積もりが変化していなければ)1兆2600億ルーブル増ということであろう。

 とすると、国家親衛軍を含む公安予算は対GDP比で2%ほどと見積もられる。これから2025年度予算の策定作業が本格化するにつれてより詳細な数字が明らかになってこよう。

  

【インサイト】西側製兵器によるロシア領内攻撃の開始

ウクライナがロシアの早期警戒レーダーを攻撃

 5月末、ウクライナ軍がロシアの早期警戒レーダー2カ所を相次いで攻撃しました。
 まず標的となったのはクラスノダール州アルマヴィルに設置されていたヴォロネジ-DM(77Ia6-DM)で、二つのアンテナ部分が派手に破壊されたことが地上からの画像ではっきり確認できます(私が使っているMaxarの画像では2月までの画像しか来ておらず、自分では確認できていません)。攻撃は5月23日の夜間に行われたと見られています。

 続く5月27日には、オレンブルグ州オルスクのヴォロネジ-M(77Ia6-M)が攻撃を受けました。こちらについては死傷者や施設の損害は発生していないとされますが、ウクライナ国境からは実に1800kmも離れた場所であり、『ウクラインシカ・プラウダ』はドローン攻撃によるものとしては「新記録」だという国防省情報総局(GUR)筋の談話を伝えています。

 しかし、この二つの攻撃のインパクトは、距離というよりもターゲットの性質にあると言えるでしょう。ロシアの核抑止力を支える警戒システムが初めて攻撃対象になったという点がそれです。
 現在、ロシア航空宇宙軍(VKS)は計13基の早期警戒レーダーを運用していますが、このうちの3基はソ連時代に開発・建造された旧式です。ヴォロネジはこれに代わる新世代警戒システムとして2000年代以降に配備されたもので、メートル波を使用するヴォロネジ-M、デシメートル波を使うヴォロネジ-DMなど各タイプ合わせて10基が運用されていると見られます。それぞれの配備位置や性能はWikipediaロシア語版で公開されています。

 これを元に各レーダーの配備位置をGoogle Earth上にプロットしたのが以下の地図です(ロシア中央部から西部のみ)。核攻撃の主要なターゲットになるであろうウラル山脈以西のヨーロッパ・ロシアを取り囲むようにして、ぐるりとレーダー警戒網が張り巡らされていることが読み取れます。つまり、これらのレーダーは核戦争時におけるロシアの「眼」となるものと言えるでしょう。

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