第165号(2022年2月21日)ウクライナ危機を巡る「プーチンのジェットコースター」
【インサイト】ウクライナ危機を巡る「プーチンのジェットコースター」
最近もうこればっかりになってしまったのですが、今週もウクライナ情勢です。普通、ある地域のテーマというのは一度さらっておくと数ヶ月か、場合によっては数年、大体「あそこはあんな感じね」という土地勘が頭の中にできるのですが、今次ウクライナ情勢は凄まじい速度で進行していくのでこういうわけには行きません。
特に先週以降はアクロバット的な展開がありました。以下、順を追ってみていきたいと思います。
対話継続と「ロシア軍撤退」
まず先週14日、プーチン大統領はクレムリン宮殿でラヴロフ外相及びショイグ国防相と相次いで会談しています。まぁこの二人とはしょっちゅう会っている筈なのですが、今回はペスコフ大統領報道官から事前アナウンスがあり、会談の模様は全て中継されていましたから、それだけ注目を集めたい内容だったということでしょう。会談という形式をとったアナウンスメントだったと考えてもいいかもしれません。
その中身については、ロシア大統領のサイトに映像と文字起こしの双方が載っています。
ここでの全体的なトーンは「緊張緩和」でした。
ラヴロフ外相は「(NATO不拡大などに関する)ロシアの提案に対し、西側が寄越してきた返答は全く不満足である」「いつまでも無限に話し合いを続けるつもりはない」としつつ、「軍備管理などに関しては米から見るべき提案があった」「チャンスまだ尽きておらず、今は対話を続けるべきだ」などと発言。これに対してプーチン大統領は「ハラショー」と返答しました。
一方、ショイグ国防相は、現在ウクライナ周辺に集結しているロシア軍実は全軍挙げての大演習を行なっているのだという新設定を持ち出し、「一部は既に終了しつつあり、また別の一部は近いうちに終了する」と述べました(ちなみにショイグによると、この演習は12月に計画されたものであるとのこと)。
両閣僚との会議が行われた翌日の15日には、プーチン大統領がドイツのショルツ首相とモスクワで会談しました。ショルツはこの直前にキエフでウクライナのゼレンシキー大統領と会談し、ここで「第二次ミンスク合意の履行に必要な憲法改正等を三者コンタクトグループ(TCG)で話し合う」という言質をとってきています。この件はプーチンにも当然伝達されたと伝えられていますし、プーチン側は会談後の共同記者会見で、西側の対応には不満だとしながらもやはり対話継続路線を強調しました。
さらにこの日、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、ウクライナ周辺のロシア軍部隊が実際に撤退を開始したと述べ、その映像も公開されました。
進まないロシア軍撤退
この数日前には「米情報機関は、ロシアが16日に戦争を始めると見ている」という報道があり、世界は固唾を飲んでロシアの振る舞いを見守っていました。こうした中でロシア側からは緊張緩和ムードの動きが出てきたわけですから、「これはもしや危機が回避されたのでは」という期待が高まるのは当然でしょう。
私自身もそうで、「戦争が回避されそうだ」という思いと「年度末に戦争が重なって過労死しなくて済みそうだ」という思いが同時に去来しました。
が、これはほぼ、ぬか喜びであったと認めざるを得ないでしょう。理由は二つあります。
第一に、ロシア軍の「撤退」は口先だけで終わりました。上記のコナシェンコフ報道官の報告資料にもあるように、撤退を開始した部隊はごくわずかであり、大部分はそのままウクライナ国境に留まり続けています。部隊が駐屯地に戻ったとしても、その駐屯地自体がウクライナからそう離れた場所でなかったりするケースもあります。さらにこの間、ウクライナ周辺には新たに増派されてくる部隊まであり、結局、総量はむしろ増加することになりました。
前号ではウクライナ周辺のロシア軍が100個BTGに達したとの見積もりを紹介しましたが、2月18日の『ウォール・ストリートジャーナル』では125個という見積さえ報じられるようになりました。
この頃には、従来言われていた「10万人規模」という曖昧な言い方もあまり使われなくなり、バイデン大統領は「15万人」(2月15日時点)、米国のマイケル・カーペンター欧州安保協力機構(OSCE)大使は「16万9000-19万人」という数字(2月18日時点)をこの頃には挙げるようになっていました。
相次ぐウクライナへのジャブ
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