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第77号(2020年3月30日) イタリアに派遣されたロシア軍とは?


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【質問箱】イタリアに派遣されたロシア軍とは?

 今週は久しぶりに「質問箱」のコーナーです。コロナ絡みで次のような質問をいただきました。

●質問
 ロシア軍がイタリアのベルガモに化学部隊(結構な大部隊)を送ったようなんですが、具体的にどんな活動をする部隊なのですか?
 また、ロシアも来週から一週間有給だそうですが、そんな余裕があるのでしょうか?

●小泉より
 ご質問ありがとうございます。
 NATO加盟国であるイタリアにロシア軍が派遣されるというのもなかなかシュールな図でしたね。
 まずは事実関係から整理しましょう。
 ロシアのプーチン大統領は今月21日、イタリアのコンテ首相との電話会談において、イタリアでのコロナウイルス対策支援のため、防護服、トラック移動式消毒ユニット、医療機器をロシア人専門家とともに派遣することを表明し、イタリア側はこれに感謝を表明して受け入れました。
 また、ロシア大統領府は同日、これが伊露国防省のラインで行われる活動であり、ロシア航空宇宙軍の輸送機が用いられることを明らかにしました。さらに同日深夜、ロシアのショイグ国防相は、ロシア軍のウイルス専門家、医官、ウイルス対策用設備をイタリアに派遣することを表明し、翌22日からこれらを派遣するための航空グループを編成するよう命じています。
 そして22日、ショイグ国防相の予告通り、ロシアのチカロフスキー飛行場からIl-76輸送機の第一便が出発し、ローマ近郊のプラクチク・デ・マーレ飛行場に到着。以降、述べ15機を動員してロシア軍のイタリア展開が実施されました。
 派遣部隊はロシア軍でも有数のウイルス対策・疫学知識を持った専門家から構成され、その中には国防省第48中央科学研究所(TsNII-48 MO)、すなわち生物防護・特別任務センターの所長を務めるイーゴリ・ボゴモロフ大佐が含まれていると伝えられています。
 TsNII-48はロシア国防省放射能・化学・生物防護(RKhBZ)総局の生物防護局傘下で最も歴史の古い研究機関の一つであり、ソ連時代から微生物(ペスト、炭疽菌、野兎病、ブルセラ菌、鼻疽、類鼻疽)、リケッチア(チフス、Q熱)、毒素及びそのワクチン・解毒剤、さらにウイルスの研究を行ってきました。
(補足:放射能・化学・生物防護(RKhBZ)は「部隊」と呼ばれますが、この場合の「部隊」は「兵科」の意味。ただし陸軍など軍種の管轄下にあるのではなく、国防省内に置かれた専門の次官が管轄するという、物資装備補給(MTO)部隊や道路部隊と同じような扱いです)

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