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第204号(2022年12月26日) 国防省拡大幹部評議会で示されたロシア軍大増強の方針

【レビュー】国防省拡大幹部評議会で示されたロシア軍大増強の方針

 2022年12月21日、モスクワの国家防衛司令センター(NTsUO)において、毎年恒例の国防省拡大幹部評議会が実施されました。
 最高司令官である大統領出席の下、国防相が1年間の総括と来年に向けた大方針を示す重要な会議です。今年は戦時下での開催であり、しかも西側との関係が極度に悪化する中でもあったので、その動向が注目されていましたが、果たして重要な論点が出てきました。そこで2022年最後の今回は、ショイグ国防相が国防省拡大幹部評議会で行った報告の内容をレビューしてみましょう。

特別軍事作戦について

・今回の特別軍事作戦(第二次ロシア・ウクライナ戦争のロシア側呼称)において、ロシアは欧米の支援を受けたウクライナと戦っている。これは武器供給、訓練、情報提供、軍事顧問と傭兵の派遣、情報戦、制裁戦から成る
・ウクライナはテロ、契約殺人、市民への砲撃といった禁じ手を使っている。ザポリージャ原発への挑発的攻撃やダーティボムの準備も同様であるが、西側は見て見ないふりをしている
・米国はこの状況を利用して世界支配を維持するとともに、欧州同盟国を含めた諸外国の弱体化を図っている
・この戦争の原因は、2014年にウクライナで西側がクーデターを起こしたことにある
・ロシアの特別軍事作戦の目的は、ウクライナ人を大量虐殺とテロから救うことである
・建設的な和平交渉に対してロシアは常にオープンである
・ロシアの攻撃はウクライナ軍の指揮統制システム、軍需産業、エネルギー施設に対する大規模な精密攻撃である。また、外国製兵器の供給網を破壊し、ウクライナの軍事力を壊滅させつつある
・民間人が犠牲にならないよう、徹底的な対策をとっている
・ウクライナ軍は大きな損害を受けており、開戦当時の武器・装備の大部分が破壊された。これを補うために欧米諸国は970億ドルの武器援助を行っているが、その一部はテロリストの手に渡っている
・戦闘地域にはNATOの参謀将校、砲兵、その他の専門家が派遣されている
・NATOはウクライナ軍を支援するために500機以上の人工衛星を投入している。うち70機以上が軍用、残りが軍民両用である
・米国と同盟国は大規模な情報・心理戦を実施しており、ワシントンの指令で同じテンプレートに基づく情報がテレビ、出版物、SNSで拡散されている。一方、西側メディアではウクライナの戦争犯罪が黙殺され、ウクライナ軍によるテロ行為がロシアの仕業とされている
・状況の安定化と新たな領土の防衛のために軍を増強する必要があり、部分動員が実施された。動員の実施は第二次世界大戦以来初めてのことであったため、現代の経済状況に適応できておらず、出頭の通知を出すのにも苦労した
・部分動員は時間的にも量的にも十分なものであり、30万人の予備役を招集できた。また2万人以上が招集を待たずに自ら志願した。防衛産業等、国家にとって重要な分野の労働者83万人は動員を免除された
・今やロシアは2月24日時点におけるドネツク・ルガンスク人民共和国の支配領域の5倍以上の面積を「解放」している
・アゾフ海は再びロシアの内海となり、クリミアへの鉄道・道路輸送が再開され、ドンバスへの鉄道輸送も復旧された。マリウポリやベルジャンスクの市街地には物資が届くようになり、クリミアへの水供給も復活した
25万人以上の軍人が戦闘経験を積んだ(訳註:ロシア側の投入兵力を推し量る上で興味深い数字)

ロシア軍の近代化状況について

・戦略核部隊の装備近代化率は91.3%に達し、戦闘準備態勢が向上した
・戦略ロケット部隊では2つのロケット連隊がヤルス移動式ICBMに装備更新された
・新型のアヴァンガルド極超音速ミサイル連隊が戦闘任務に就いた
・航空宇宙軍においてはTu-160M及びTu-95MSM爆撃機が配備された。航空宇宙軍は2022年に73回の空中パトロールを実施し、うち2回が中国と合同で実施された
・海軍の弾道ミサイル原潜(SSBN)は世界の海洋で常時パトロール任務を実施している。2022年にはブラワー潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を装備するボレイ-A型(955A型)SSBN「スヴォーロフ」が就役した
・ミサイル監視衛星クーポルの6号機が打ち上げられ、監視衛星網「統一宇宙システム(EKS)」がさらに発展した
・新型練習機の導入により、パイロット候補生の飛行時間は3分の1以上増加した。また、女性パイロットが初めて飛行訓練課程を修了した。彼女らの半数以上は優等で卒業した
・海軍は最新鋭の潜水艦1隻、水上艦艇6隻、戦闘艇3隻、支援艦船11隻、地対艦ミサイルシステム2個コンプレクス(2個大隊)を受領した
・ツィルコン海上発射型極超音速ミサイル量産型の受領が始まった。同ミサイルを搭載するフリゲート「ゴルシコフ」は就役に向けた最終段階にある
・2022年の国家防衛発注(GOZ)における最大の特徴は、特別軍事作戦に従事する部隊グループへの装備供給である。部隊の戦闘力を増強するため、2024-25年に納入されるはずだった武器のうち、特に求められるものの納期が2023年に前倒しされた
兵器供給を最適化するために10年間の予定表を作成し、その履行を国防省・軍需産業委員会、産業貿易省、軍需産業団体による合同委員会で監視する体制を導入した(訳注:戦争の長期化を睨んだ措置?)
・2022年には武器・装備の供給需要に応じて資金供給を増額し、主要兵器の供給量を30%、ロケット砲兵兵器や航空機用武器の供給量を69-109%増加させた
・主要品目のGOZ達成率は91%となった

訓練・演習・教育活動

・14件の国際演習を含め、予定された作戦・戦闘訓練計画が全て実施された
・今年初頭には海洋からロシアに及ぼされる脅威に対抗するための大規模海軍演習が実施された
・最大規模の演習活動は東部軍管区での戦略指揮・参謀部演習「ヴォストーク2022」であり、14カ国の軍隊を含む5万1000人以上が参加した
・この演習では多国籍部隊の編成と共同活動が訓練され、諸兵科グループによる地域安全保障任務を効果的に実施できることが実証された
・敵の大量破壊兵器使用に対抗するために戦略核部隊が大規模核攻撃を行うことを想定した特別演習が実施された
・北極圏東部のチュコトカにおける探検が行われ、局地における戦闘訓練・調査・実験が実施された
・高等軍事教育は世界でもトップクラスであり、55カ国から学生や士官候補生を受け入れている
・来年9月1日にはドネツクに高等諸兵科指揮学校が、イルクーツクにスヴォーロフ幼年学校が開設される

インフラ建設

・計画は全て達成され、3000棟以上の建物・施設が建設された
・特に重要なのは戦略核部隊のためのインフラ建設であり、アヴァンガルド、ヤルス、サルマートといった最新型ミサイルを収容するための施設650ヶ所が建設された
・北方艦隊ではガジエヴォ(訳注:原潜基地)で地上エネルギー供給施設と社会インフラ施設が稼働した
・カスピ小艦隊では全長1154mの埠頭が稼働し、さらにもう一つの埠頭が完成した
・軍の飛行場システム発展のために15の飛行場で最新型航空機を受け入れるための改修作業が実施された
・駐屯地整備計画も予定通りに実施され、625の建物、装備置き場、兵舎が建設された
・鉄道部隊により、バイカル・アムール鉄道のウラクからフェブラリスク間339kmの再建作業が行われている

今後の軍事力強化に向けた措置

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