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第88号(2020年6月22日)日本のイージス・アショア「停止」、ロシアではどう報じられている?

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【インサイト】日本のイージス・アショア「停止」、ロシアではどう報じられている?

 驚きました。6月15日に河野防衛大臣が突如としてイージス・アショア(陸上型イージス)配備計画の「プロセス停止」を決めたことです。
 これまでミッドコース(中間段階)でのミサイル防衛を担ってきたイージス艦の負担を軽減するために2017年に導入が決まったのがイージス・アショアであり、2018年度に策定された現『防衛計画の大綱』にもその配備が盛り込まれています。
 イージス・アショアはすでに米軍がルーマニアとポーランドに配備していますが、米国以外が採用するのはこれが初めて。しかもレーダーを従来のSPY-1ではなく、開発中のSPY-7(V)1)とし、日米共同開発のSM-3ブロック2Aも撃てる、というアップグレード型でした。
 予定通りであれば、今後、日本の拒否的抑止力(北朝鮮による限定的な弾道ミサイル攻撃程度なら無効化することで、北朝鮮がこれを使用したり使用の脅しをかける誘因を低下させる能力)の柱となっていったでしょう。
 今回、河野防衛大臣が表明した配備の「プロセス停止」が完全な計画の放棄なのか、一時的な中断なのかはどうもよくわかりませんが、前者であれば日本の防衛戦略はもう一度練り直しとせざるを得ません。さらに安倍首相はイージス・アショアを配備しない(つまり拒否的抑止力の低下を受け入れる)のであれば敵基地攻撃能力の保有を検討する意向も示しており、いろいろな意味で日本にとっては曲がり角になりそうな事態と言えます。
(安倍首相の「敵基地攻撃能力」論については編集後記で改めて触れたいと思います)

 ところでイージス・アショアについては、ロシアが度々懸念を示してきたことが知られています。そこで今回は、日本のイージス・アショア問題をロシアのメディアはどのように報じているのかを見ていくことにしましょう。というのも、イージス・アショアに関するロシア側の理解を通じて、なかなか面白い日本観が浮かび上がってくるためです。
 というわけで、主要紙の記事から興味深い部分を以下に紹介していきたいと思います。
 翻訳は毎度お馴染みのAI翻訳サービスDeepLによる自動翻訳を手直ししています。

ワシリー・ゴロヴニン「イージスとの決別 日本は何故アメリカのミサイル防衛システムの導入をやめるのか」TASS通信、2020年6月17日
(前略)
昨日の戦争に備えて
 ブースターの問題ももちろんあるが、大臣がすべてを語ったわけではない。例えば東京は、増え続けるコストに非常に困惑している。(中略)。報道によると、ミサイルや関連機器の購入とともに、2つの複合施設の費用は7000億円(65億ドル以上)に跳ね上がったという。
 しかし、識者が言うように、それは主な理由ではない。現在の構成のイージス・アショアでは、弾道が極端に低く、標的に当たる前に軌道が急変する最先端の弾道ミサイルの迎撃には効果がないことがすでに判明している。
 さらに、日本の防衛当局は経済性のために、これらのシステムに巡航ミサイル迎撃能力を装備することを拒否した。これは中国が熱心に近代化を進めているものだ。つまり結果的に、イージス・アショアは主要軍事大国が開発中の極超音速兵器に無力になってしまった。これらのミサイル防衛システムは、明らかに昨日の兵器を防御するために作られたものであり、このためにプロジェクトが中止になったと見られる。
ミサイル防衛の無敵艦隊
 このような決定が秘密にされ、最後の瞬間に発表されたことは次のようにも理解できる。このような高価な購入を放棄する計画について米国が事前に知っていた場合、ワシントンは極東の同盟国に圧力をかけるかもしれないと東京は恐れていたのである。ドナルド・トランプ大統領は武器取引が大好きであることは周知のとおりであり、彼はイージス艦だけでなく合計100機の最新型戦闘機F-35を導入するという東京の決定を称賛していた。
 パンデミックと前代未聞の反レイシズム暴動、そして11月の次期大統領選挙にワシントンの耳目が集まっている今なら、BMDコンプレックスの放棄による痛みを最小にできると東京は踏んでいる。ところで、日本は主に同じイージスによるBMDを維持するつもりだが、これは海上型のみである。来年春までには、東京はすでにこのようなコンピュータ化されたミサイルシステムを搭載した最新の艦船8隻を保有することになる。アメリカの同盟国でこのような艦隊を持っている国はない。
 そして今秋には、在日米軍基地の維持に対する東京の貢献度を大幅に引き上げる交渉を開始する予定であり、ここで陸上型イージスの問題が再び浮上する可能性がある。幾人かの専門家によれば、再び米国の高価なイージス・アショア導入を検討する準備と引き換えに、(大幅な割引を要求できるかもしれない。ただし、より近代的な兵器が将来的に出現することを考慮に入れて近代化されたバージョンを。

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