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第100号(2020年9月28日) 「スラブの絆」演習をめぐるセルビア・ベラルーシ政治 ほか

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【インサイト】「スラブの絆」演習をめぐるセルビア・ベラルーシ政治

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 ロシア軍南部軍管区を舞台とする大演習「カフカス2020」については前回、簡単にお伝えしました。従来、演習の中心であったロシア軍とアルメニア軍に加え、今年は中国やイランが加わって多国間演習化しているのが今年の特徴、ということです。
 また現在、国内での騒乱に揺れるベラルーシも集団安全保障条約機構加盟国(CSTO)として同演習に部隊を派遣していますが、こんな状況で故国を離れる軍人たち、なかなか複雑な心境なのではないでしょうか。
 なお、演習自体は9月26日につつがなく終了しました。

 さて「カフカス2020」についてはまた詳しく扱うとして(とりあえず次回の『軍事研究』に書くつもりです)、今回はほぼ同時期にベラルーシで実施された「スラブの絆2020(Славянское братство 2020)」演習の方を取り上げたいと思います。
 「スラブの絆」演習はロシア、ベラルーシ、セルビアの3カ国演習として2015年に開始され、以降毎年開催されているもの。ロシアとベラルーシは前述のCSTOの同盟国としてこれ以前から各種の合同演習(ロシア軍西部軍管区大演習「ザーパト」、二国間演習「同盟の盾」など)を実施してきましたが、「スラブの絆」のミソはセルビアが入っている点でしょう。
 もともとセルビアは旧ユーゴスラヴィア諸国の中でもロシアとの関係が深いことで知られる一方、2009年に欧州連合(EU)への加盟申請を行い、政治・経済面での欧州統合も志向しています。コソヴォ問題が足かせとなって加盟交渉は難航していますが、バルカン半島でもEUや北大西洋条約機構(NATO)が拡大していく現状に危機感を募らせるロシアは、特に2010年代半ばからセルビアの取り込み策を熱心に進めてきました。
 こうした中、軍事面での目玉となったのが「スラブの絆」演習であり、東スラブのロシアとベラルーシに加えて南スラブの「兄弟民族」であるセルビアを加えて軍事面での結束(言い換えればNATOからの離間)を図ることがその最大の狙いであると言えます。
 さらにロシアは2017年、セルビアに対して中古のMiG-29戦闘機6機、T-72戦車30両、BRDM-2偵察車30両を無償供与(MiG-29の近代化改修費用は実費)するなどの戦略援助を行い、2019年にはロシアとセルビアによる初の合同防空演習「スラブの盾2019」が実施されました。
 EU加盟はともかくとして、軍事面ではセルビアを軍事的パートナーとして扱うことでNATO加盟だけは諦めさせたい、という思惑が透けて見えます。2020年のコロナ危機に際してロシア軍がセルビアで実施した防疫支援作戦もこうした取り組みの一環と見ることができるでしょう。

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