見出し画像

第99号(2020年9月14日) ロシア軍カフカス大演習の概要 人民解放軍がついに欧州でも合同訓練へ


存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
定期購読はこちらからどうぞ。


【インサイト】ロシア軍カフカス大演習の概要 人民解放軍がついに欧州でも合同訓練へ

 毎年9月はロシア軍の軍管区大演習の季節です。
 この10年ほどのサイクルでは、4つある軍管区がそれぞれ持ち回りで大演習の舞台となるため、各軍管区では4年に1回、大きな演習があるということになります(ただし来年からは北方艦隊が独立した軍管区になることが決まっているため、このサイクルは少し変わるかも知れません)。
 ごくごく大雑把に言えば、各軍管区と大演習の関係は次のようなものです。

・ザーパト演習
 西部軍管区。対NATO戦争想定。通常、ベラルーシと合同で実施(2009年、2013年、2017年に実施)
・カフカス演習
 南部軍管区。対グルジア、ウクライナ、イスラム武装勢力等を想定。通常、アルメニアと合同で実施(2008年、2012年、2016年に実施)
・ツェントル演習
 中央軍管区。対イスラム武装勢力戦闘を想定。通常、中央アジアの旧ソ連同盟国と合同で実施(2011年、2015年、2019年に実施)
・ヴォストーク演習
 東部軍管区。対日米戦争、対中戦争想定。通常、ロシア軍単独で実施(2010、2014、2018年に実施)

 まぁこのように、各正面において想定される仮想敵を念頭に大規模演習が行われてきたのですが、2018年から少し風向きが変わってきました。まず2018年のサプライズは、ヴォストーク2018演習に中国の人民解放軍(とモンゴル軍ごく少数)が参加したことです。
 人民解放軍はそれ以前からロシアと合同演習をやってはいたのですが、ヴォストーク演習はそもそも対中国戦争演習という側面が強かったので、これは大きな驚きでした。演習の内容自体はまだまだ対中国戦争を意識したと見られる内容も多いですし、人民解放軍は演習のごく一部に参加したに過ぎないとはいえ、近年の中露接近を如実に象徴するような出来事と言って良いと思います。
 続く2019年には、中央アジア方面を担当する中央軍管区のツェントル2019演習にも人民解放軍がやってきました。ただ、この年は中国に加えてインドやパキスタンが参加したのが目に着きます。
 もしこの演習が従来のようにロシアと中央アジアの同盟国だけで実施されているのであれば、その実施枠組みは(ロシア主導の軍事同盟である)集団安全保障条約機構(CSTO)ということになりますが、今回はそこに中国・インド・パキスタンが加わって上海協力機構(SCO)の枠組みで実施されました。
 もともとロシアは中央アジアにおける中国の軍事的影響力拡大を嫌ってCSTOとSCOの連携に消極的でなかったとされますが、最近ではインドとパキスタンが加わったことでSCOを入れても中国一色にはならないという判断になったものと思われます。
 カレー味、大体なんでもカレー味にしてしまいますしね(そういう話ではないかも知れませんが一昨日のカレーの匂いが鍋から取れずにいる身としては深刻です)。
 さて、こうした中で今年は南部軍管区でカフカス2020演習が実施されることになっています。南部軍管区は従来、北カフカス軍管区と呼ばれていたもので、かつてはチェチェン戦争の舞台となり、21世紀に入ってからもグルジア戦争やウクライナ介入の際に策源地となったことが知られています。

 こうしたロシアの「南方の最前線」であるだけに、従来のカフカス演習はロシア軍とアルメニア(隣接する南カフカス地域唯一の同盟国)との合同演習という形で実施されていたのですが、今年はだいぶ様相が変わりそうです。
 9月11日にフォーミン国防次官が実施したカフカス2020演習についての外国武官団向けブリーフィングより、その要点を紹介していきましょう。

ここから先は

4,152字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?