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核抑止の分野におけるロシア連邦の国家政策の基礎(2020年版)

核抑止の分野におけるロシア連邦の国家政策の基礎

(2020年6月2日、大統領令355号により承認)

I. 総則


1. 本「基礎」は国防分野における戦略的計画文書であり、核抑止の本質に関する公式見解を反映するとともに、核抑止によって中立化されるべき軍事的危険性、核抑止の原則及びロシア連邦が核兵器の使用に踏み切る際の条件について規定する。

2. 仮想敵がロシア連邦及び(又は)その同盟国に対する侵略を確実に思いとどまるようにすることは国家の最優先課題の一つである。侵略の抑止は、核兵器を含めたロシア連邦の全軍事力の総体によって確保される。

3. 核抑止の分野におけるロシア連邦の国家政策(以下、「核抑止の分野における国家政策」という)は、ロシア連邦及び(又は)その同盟国に対する侵略を防止するための戦力及び手段として機能する政治、軍事、軍事技術、外交、経済、情報その他の手段に関する考え方を調整、統合した結果を示すものである。

4. 核抑止の分野における国家政策は、核戦力ポテンシャルを核抑止力の確保に十分な水準に保つことを志向する防衛的な性質を有しており、国家の主権及び領土的一体性、ロシア連邦及び(又は)その同盟国に対する仮想敵の侵略の抑止、軍事紛争が発生した場合の軍事活動のエスカレーション阻止並びにロシア連邦及び(又は)その同盟国に受入可能な条件での停止を保障する。

5. ロシア連邦は、核兵器は専ら抑止の手段であり、その使用は極度の必要性に駆られた場合の手段であると見なし、核脅威の削減及び核戦争を含めた軍事紛争を誘発しかねない国際関係の悪化の防止に全力を尽くす。

6. 本「基礎」の法規範的基盤を構成するのは、ロシア連邦憲法、国際慣習法、ロシア連邦が国防及び軍備管理の分野で締結した国際条約、連邦憲法法、連邦法、防衛と安全保障に関する問題を規定するその他の法規範的アクト及び文書である。

7. 核抑止に関与する全ての連邦政府機関、その他の政府機関及び組織は、本「基礎」の規定を必ず履行しなければならない。

8. 本「基礎」は、国防に影響を及ぼす内外情勢次第で改訂される場合がある。

II. 核抑止の本質


9. 核抑止とは、ロシア連邦及び(又は)その同盟国を侵略すれば報復が不可避であることを仮想敵に確実に理解させるようとするものである。

10. 核抑止を担保するのは、核兵器の使用による耐え難い打撃をいかなる条件下でも確実に仮想敵に与え得るロシア連邦軍の戦力及び手段の戦闘準備並びにこの種の兵器を使用することについてのロシア連邦の準備及び決意である。

11. 核抑止は、平時、侵略の危険が差し迫った時期及び戦時を通じ、実際の核使用が始まる直前まで切れ目なく実施される。

12. 軍事・政治的及び戦略的環境の変化によってロシア連邦に対する軍事的脅威(侵略の脅威)に発展しかねず、核抑止によって中立化されるべき主要な軍事的危険は次のとおりである。
а) ロシア連邦及びその同盟国の領域及び海域に隣接した地域において、核運搬手段をその構成要素に含む仮想敵の通常戦力グループが増強されること。
б) ロシア連邦を仮想敵と見做す国家がミサイル防衛システム、短・中距離巡航ミサイル及び弾道ミサイル、精密誘導兵器及び極超音速兵器、攻撃型無人航空機、指向性エネルギー兵器を配備すること。
в) 宇宙空間にミサイル防衛手段及び攻撃システムが設置・配備されること
г) 諸外国が核兵器及び(又は)その他の大量破壊兵器並びにそれらの運搬手段を入手し、ロシア及び(又は)その同盟国に対して使用され得ること。
д) 核兵器、その運搬手段、その製造に必要な技術及び設備が管理されずに拡散すること。
е) 非核保有国の領土に核兵器及びその運搬手段が配備されること。

13. ロシア連邦の核抑止は、ロシア連邦を仮想敵と見做し、核兵器、その他の大量破壊兵器、非常に大きな通常戦力ポテンシャルを有する特定の国家及び軍事的連合(ブロック、同盟)に対して実施される。

14. 核抑止の実施にあたり、ロシア連邦及び(又は)その同盟国に対して使用される可能性がある攻撃手段(巡航ミサイル、弾道ミサイル、極超音速飛翔体及び攻撃型無人航空機)、指向性エネルギー兵器、ミサイル防衛手段及び核ミサイル警戒手段、核兵器及び(又は)その他の大量破壊兵器の仮想敵による外国領域への配備に注意を払う。

15. 核抑止の原則は以下のとおりである。
а) 軍備管理の分野における国際的義務を遵守すること
б) 核抑止の取り組みを間断なく行うこと
в) 核抑止を軍事的脅威に対して適合させること
г) 核抑止に関する戦力及び手段の使用の可能性について、その規模、時期及び場所を仮想敵に察知されないこと
д) 核抑止の確保に関与する連邦行政機関及び組織の活動を政府が集権的に管理すること
е) 核抑止に関する戦力及び手段の構造及び構成を合理的なものとすること並びにこれらが与えられた任務を達成する上で最小十分な水準に保つこと
ж) 核抑止に専任する戦力及び手段を戦闘使用のために常時即応体制に保つこと

16. ロシア連邦の核抑止戦力には、地上配備型、海洋配備型、空中配備型核戦力が含まれる

III. ロシア連邦が核兵器の使用に踏み切る条件


17. ロシア連邦は、自国及び(又は)その同盟国に対する核兵器及びその他の大量破壊兵器が使用された場合並びに通常兵器を用いたロシア連邦への侵略によって国家の存立が危機に瀕した場合において核兵器を使用する権利を留保する。

18. 核兵器の使用に関する決定はロシア連邦大統領が行う。

19. ロシア連邦による核兵器の使用の可能性を規定する条件は以下のとおりである。
а) ロシア連邦及び(又は)その同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得たとき
б) ロシア連邦及び(又は)その同盟国の領域に対して敵が核兵器又はその他の大量破壊兵器を使用したとき
в) 機能不全に陥ると核戦力の報復活動に障害をもたらす死活的に重要なロシア連邦の政府施設又は軍事施設に対して敵が干渉を行ったとき
г) 通常兵器を用いたロシア連邦への侵略によって国家の存立が危機に瀕したとき

20. ロシア連邦大統領は必要に応じ、ロシア連邦による核兵器使用の準備、核兵器使用に関する決定の採択、その使用の事実に関して外国政府及び(又は)国際機関に対して通告することができる。

IV. 核抑止の分野における国家政策の実施に関与する連邦政府機関、その他の政府機関及び組織の機能及び任務


21. 核抑止の分野における国家政策の総合的な監督はロシア連邦大統領が行う。

22. ロシア連邦政府は、核抑止手段の維持及び発展を目的とする経済政策の実施に関する取り組みを実施するとともに、核抑止の分野における対外政策及び情報政策を策定し、実施する。

23. ロシア連邦国家安全保障会議は、核抑止の分野における軍事政策の基本方針を策定し、核抑止の確保に関連してロシア連邦大統領が採択した決定の実施に関与する連邦行政機関及び組織の活動を調整する。

24. ロシア連邦国防省は、核抑止の分野における組織的及び軍事的性格の計画及び実施を間断なく行う。

25. その他の連邦行政機関及び組織は、核抑止の確保に関連してロシア連邦大統領が採択した決定の実施にそれぞれの権限内で参画する。

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