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第122号(2021年3月22日)対露「コスト賦課」戦略 ロシア軍の「本当の兵力」ほか


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【インサイト】ロシアに対する「コスト賦課」戦略を考える

●『ニューズウィーク』に噛み付いたザハロワ
 ロシア外務省のザハロワ報道官の発言が注目を集めています。
 元外交官の河東哲夫氏(初代ウズベキスタン大使)が『ニューズウィーク』に寄稿した論考で、有事には宗谷・津軽両海峡を封鎖できる能力を示すべきであると書いたことに反発したもの。
 実際のやりとりは次の通りでした。

Q.ロシア本土と南クリル諸島を結ぶ主要航路が通るラペルーザ海峡(宗谷海峡)とサンガルスキー海峡(津軽海峡)を、日本が封鎖する能力をデモンストレーションすべきだという記事を、日本の政治学者で元外交官のA.河東氏が書いたことについてコメントしてもらえませんか?

A. あなたが正しく仰ったように、この記事は日本政府の元高官によるものであり、このことはいくつかの観点から重要です。
 誰が言ったにせよ、このようなアピールを注視しないわけにはいきません。威嚇を伴う(平和条約問題交渉のための戦術的手段としての)アピールには残念というほかありません。
(中略)
 このようなアプローチは両国の対話を停滞させるだけであり、現実を変える力は持ちません。すなわち南クリル諸島に対するロシアの主権は議論の対象たりえないということです。

 実際に河東氏の論考を読んでみると海峡封鎖の話はほんのちょっと出てくるだけであり、議論の本丸は「今のロシアと実のある領土交渉なんかできないから時期を待て」ということでしょう。また河東氏は、こういうことは静かにやるべきだとも書いているのですのが、ロシア側が騒ぎ立てるのでそうもいかなくなってしまいました。
 さらにいうとザハロワの反論もなんだか不可解で、「南クリル諸島に対するロシアの主権は議論の対象たりえない」というなら海峡を封鎖しようがしまいが最初から交渉は進まないということになります。
 つまりロシアが言う「交渉」は領土問題抜きの平和条約を結んで経済協力をやりましょう、ということであり、日ソ共同宣言や東京宣言等の諸合意に基づいた領土問題解決には回帰する気がないということだと思われます。

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