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第203号(2022年12月19日) 日本の戦略三文書改訂とロシアの反応

【今週のニュース】パラムシル島にバスチョン地対艦ミサイルを配備 ほか

ロシアの巡航ミサイル生産能力

『ニューヨークタイムズ』は、ウクライナに対して使用されているロシアの巡航ミサイルがごく最近になって生産されたものであったと報じた。

 11月23日の空襲で使用されたKh-101空中発射巡航ミサイルの残骸をConflict Armament Research (CAR)が調査した結果に基づくもので、ここに残されていたシリアルナンバーから判断して2022年の第3四半期に製造されたと推定されるという。また、CARによると、これ以前に調査した残骸の多くは、2014-2021年に生産されたコンポーネントを含んでいた。
 NYTの記事中でも触れられているように、この事実をどのように解釈するかはなかなか難しい。通常、弾薬は古い方から使っていくので、新しいミサイルが使用されたということは、いよいよ在庫が尽きつつあるという解釈が一つには可能であろう。他方、ロシアが本当にミサイルを古い順に使用しているのかどうかは明らかではなく、新旧取り混ぜて売った中の一つだったという可能性もある(この場合、半導体などをどこから入手しているのか、備蓄がかなりあるのかといった問題も出てくるが、これはまた別の機会に論じたい)。
 また、仮にロシアが「古い順に撃つ」原則を守っているのだとすると、今度は現在の供給能力が問題となろう。
 パーヴェル・ルジンが述べるように、ロシアの巡航ミサイルにエンジンを供給している統合エンジン製造コーポレーションの労働生産性は米ウィリアムス社の6分の1以下、ジェネラル・エレクトリック社のエンジン生産部門の11分の1以下であり、巡航ミサイル用エンジンとして使用されるTRDD-50の各タイプの年算数は40-50発と推定される。したがって、ロシアが生産できる各種巡航ミサイルは合計でも年産100発かそれ以下だろうとルジンは推計しているが、これが事実なら、開戦前に生産されたミサイルを撃ち尽くした後のロシアは現在の規模での空襲を年に1-2回程度しか実施できない可能性が出てくる。戦時増産を行なっても、「巡航ミサイルによる」空襲可能回数はせいぜい年に数波ということになるかもしれない。

 ただ、以上はあくまでも「巡航ミサイルによる」空襲の話である。イランから導入されているシャヘド136ドローンや、新たに導入が噂されているファテフ110弾道ミサイルはミサイル不足をある程度補うことができようし、ソ連時代の古い対艦ミサイルで無差別攻撃を行うとか、場合によっては戦闘爆撃機をウクライナの都市上空まで侵入させるといった手もあるわけで、巡航ミサイルが尽きたら尽きたなりにロシアの空襲は続いていくと見るべきであろう。

ロシアとイランの「宇宙協力」

 以上に関連して注目される動きとして、ロシアの国営宇宙公社ロスコスモスとイラン宇宙庁(ISA)は、12月14日に宇宙分野の協力協定に調印している。イランを訪問したロスコスモスのボリソフ総裁(前国防次官)が締結したもので、衛星技術での協力が主とされている。
 ただ、当初は衛星製造でスタートした協力がどこまで進んでいくのかは明らかでない。今回の戦争でイランがロシアへの武器供給国に躍り出たことを考えると、将来的にロケット技術そのものへの協力に発展していく可能性も考えられ、このあたりは今後の注目点になると思われる。

パラムシル島にバスチョン地対艦ミサイルを配備

パラムシル島に配備されたK-300Pバスチョン地対艦ミサイルのTEL

 12月5日、ロシア国防省は、千島列島のパラムシル(幌筵)島にK-300Pバスチョン地対艦ミサイルを配備したことを明らかにした。
 映像に映っているのは「モノリート-B」火器管制レーダー車1両とTEL2両であるから、少なくとも1中隊が配備されたことがわかる。背景には大きなパラボラアンテナが映っているので、これに該当する地域を衛星画像で確認してみると、今年2月ごろにはその近くにコンクリートパネルの土台とモコンテナらしきものが早くも設置されていたようだ。さらに9月にはここにモジュール式兵舎や軍用車両、アンテナなどが並び始め、おそらくはTELの格納庫用地と見られる新たなコンクリート土台も作られた。12月に入ってからは天候が悪く、現況が確認できないものの、おそらくバスチョンが配備されたのはここと見て間違い無いだろう。

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