見出し画像

第255号(2024年2月26日) ナルヴァでわしも考えた


【インサイト】ナルヴァでわしも考えた

 前号の編集後記でもチラッと書きましたが、エストニアに行っていました。正確にいうと前号はエストニア到着当日に書き終えており、この文章はエストニアからの帰国翌日に書いていますので、こっちの方が正式な(正式なというものでもないな)帰朝報告であります。
 エストニアを訪れるのは数年ぶりですが、今回は日本人の研究者と学生総勢11名というかなり大規模なデリゲーションを組んで行きましたので、かつてなく広範囲かつ突っ込んで見聞を広められたように思います。うち、印象に残ったことをいくつか書き留めておきましょう。

「最前線」としてのナルヴァ

 今回は到着早々にナルヴァを訪れました。エストニアとロシアの国境の街です。軍事オタクには宮崎駿の『泥まみれの虎』の舞台といえば話が早いでしょう。私はこれまで首都タリンしか行ったことがなく、ナルヴァは初めてでした。

 わかりやすい話から始めると、国境というものが、あるいは国境をめぐる分断というものがこの場所からは大変に明瞭に見て取れます。川沿いに古い要塞が残っていて、今は博物館になっているんですが、その上に上がっていくと、川向こうはもうロシアです。向こうには向こうでやっぱり要塞があって、こっち側にはエストニア国旗が、向こう側にはロシア国旗が翻っている。

ナルヴァ要塞
川を挟んで並び立つ二つの要塞。向かい側がロシアの築いたもの
ロシア要塞に翻るロシア国旗
エストニア側にはエストニア国旗が

 そして、この二つの要塞に見下ろされる形で、一本の橋が架かっています。ロシアとエストニアを繋ぐ道路橋で、従来はバスや自家用車で出入りできていたのだそうですが、私たちが訪れた時には閉鎖されていました。ロシアがウクライナへの侵略を始めて以降のことだそうで、橋の上にはロシア軍が要塞建設に使ったのとそっくりなコンクリート障害物(いわゆる「竜の歯」)が二列に並べられていました。
 さらに橋の袂にはNATO旗が掲げられています。エストニアでは国旗やEU旗が掲げられているのはしょっちゅう見ましたし、ウクライナに連帯を示すためのウクライナ国旗もまた本当に多かったのですが、NATO旗というのは珍しい。そこがロシアとの文字通り最前線であることを考えるなら、この旗の意味するところは明らかでしょう。

国境の端に並べられた「竜の歯」

ここから先は

4,250字 / 4画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?