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第155号(2021年11月29日)現実味を増すロシアのウクライナ侵攻シナリオ 猫と暮らせば ほか

【NEW CLIPS】ちょっとかわいいロシア軍の石型偵察ロボット

ロシア空挺軍アカデミーの学生が開発した石型偵察ロボットの画像が国防省のテレビ局「ズヴェズダ」で公開された(『ズヴェズダ』2021年11月27日)


【インサイト】現実味を増すロシアのウクライナ侵攻シナリオ

今年秋に入ってから、ウクライナ国境にロシア軍が再び集結していることが注目を集めています。先週、米軍事専門誌『ミリタリー・タイムス』がウクライナ国防情報局のブダノフ局長に対して行なったインタビューによると、集結しているロシア軍は9万2000人、計40個大隊戦術グループ(BTG)に及び、1月から2月に掛けて侵攻作戦を行う準備を進めているとされています。

 西側諸国も警戒を強めており、米国は機密情報に基づいてロシアの侵攻が迫っている可能性があると NATO加盟国に警告したと報じられています。

 また、『ミリタリー・タイムス』に対してブダノフ局長が提供した地図によると、ロシア軍はベラルーシにも自動車化歩兵部隊と空挺部隊を展開させており、これが事実ならばベラルーシはいよいよロシアの戦争に対する協力を拒めなくなっているということになるでしょう。
(ベラルーシとのロシアの軍事的関係については本メルマガ第152号及び第153号を参照)
 ロシアは今年の春先にも10万人以上の兵力をウクライナ国境付近に集結させて軍事的緊張が高まりましたが、その一部が撤退したこと、6月16日の米露首脳会談で一応、両国が緊張緩和路線に転じたことなどから、この問題に対する注目度は下がっていました。しかし、ここにきてロシアによるウクライナへの軍事介入が急激に真実味を帯びてきたといえるでしょう。

動く「レッドライン」

 こうした事態の兆候は、今年夏から既に出てはいました。
 最も注目されるのは、7月にプーチン大統領が公表した論文です。この中でプーチンは、ロシアとウクライナが歴史的に一体の存在であり、現在のウクライナという領域はソ連時代に人為的に作られたものに過ぎないというかねてよりの主張を前半で長々と展開しています。
 しかし、興味深いのは論文の後半です。プーチンによれば、2014年のマイダン革命後、ウクライナ政府は過去を書き換えて自分達が歴史的に独立した存在であったというナラティブを展開しており、しかも西側諸国のための「橋頭堡」になろうとしている。これはロシアにとって受け入れ難いことであって、ウクライナの人々からも支持されていないとプーチンは主張します。
 ここでプーチンは、紛争中にウクライナがロシア、欧州安保協力機構(OSCE)、そして親露派武装勢力(自称「ドネツク人民共和国」及び「ルガンスク人民共和国」)と結んだ紛争解決のためのロードマップ群、通称「ミンスク諸合意」を持ち出します。このようにして紛争解決の道は決定されているのに、ウクライナ政府とその後ろ盾である西側はその履行を頑なに拒否しているということです。
 ミンスク諸合意については後段で詳しく扱うとして、ここではもう少し事態の経緯を追ってみましょう。10月21日、クレムリン後援の有識者会議「ヴァルダイ」に出席したプーチンは、ここでもウクライナ問題についての持論を展開しました。

 ウクライナの NATO加盟はもはやありそうもないが、NATOは既にウクライナ領内に展開し、両者の軍事的協力は実際に進展しつつある。それは公的な軍事プレゼンスという形をとっていないかもしれないが、訓練センターという名目で NATOはウクライナに展開している。これはロシアにとって無視できない脅威だ、ということです。
 思えば、ウクライナに対するロシアの「レッドライン」は、これまで「Ukraine in NATO」、つまりウクライナの NATO加盟でした。ロシアの軍事介入によってウクライナが紛争国家化した結果、これはプーチンのいうように「ありそうもない」ということになったわけですが、上記の発言を見ると、ロシアは「レッドライン」を引き直したのではないかという印象を受けます。
 言い換えるならば、新しいレッドラインは「NATO in Ukraine」であり、ウクライナに対する西側の軍事的協力を撤回させることなのではないでしょうか。この点については、米CNAコーポレーションのマイケル・コフマンによるインタビューが参考になります。

再浮上するミンスク諸合意

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