GLOBE・GLOVE(1)
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その日の事は、今でもはっきり覚えている。
通っていた保育園に、いつも砂場で一人、泥団子をこねている女の子がいた。
その頃の僕は、友達と鬼ごっことか、靴とばしとか、園庭を走り回ってばかりで、園庭の端っこにある砂場にはあまり近寄った事がなかった。しかしある時、風邪が流行ってでもいたのだろうか、友達がみんな園を休んでしまった日があった。暇をもてあました僕は、砂山にトンネルでも造るかとその砂場に向かったのだった。
スコップを持って縁石に座ると、先客、つまりその女の子がいた。その子はにこりともせず、泥団子を布で磨いていた。僕はその泥団子を見て、五年間の人生の中で一番驚いた。その子の手の中にあった団子は、泥で出来ているとは思えないほどつるつるでぴかぴかだったのだ。それは、今まで僕が見た物の中でも、いっとうきれいな物に思えた。
僕は思わず、その子に言った。
「そのきれいなの、僕にくれへん?」
女の子は顔を上げ、じーっとこちらをにらむように見たあと、、
「ええよ、あげる」
と、手に握った泥団子を僕に手渡してくれた。その瞬間、僕の目は、笑ったその子の瞳に釘付けになった。それは、今もらったぴかぴかの団子以上にぴかぴかで丸い、それこそ今まで見た事がないほどきれいな瞳だった。
それが僕、小野誠と、笹島美緒との出会いだ。
全12回の予定です。
しばらくお付き合い、どうぞよろしくお願いします。
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