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桜と共に降る雪は、

昨晩は暖かく、明け方まで強い雨が窓を叩いていた。
朝から雪が降るという予報を、半ば他人事のように聞き流して、そろそろ起きだすであろう家人に叱られないようにベッドに潜り込んだ。

寒さで目が覚めたのは、それでもギリギリ朝と呼べる時間帯だった。
9時25分。
スマートフォンの画面に表示されている いくつかの通知を無視して、カーテンを開ける。
窓の外に広がるのは一面の雪景色だった。
雪原のようになった庭に、灰色の空から音も無く降る雪と、大きな桜の樹から溢れる薄い色の花弁が混ざって、積もる。

そもそも、私は雪の降らない土地で育った。
(日本国内では、沖縄に次いで雪が降らない場所らしい。)
スキー場で雪を見たことはあれど、生活の場で雪が降るのを見るようになったのは、ここ数年のことだ。それも、数度しかない。
3月も末になって、こんなに寒い経験も無い。

寝巻きのまま、裏庭に続く扉を開け放って写真を撮る私に、旦那さんは呆れたように声を掛ける。

「そこから桜は見えないよ。」
「うん。」
「寒くないの?」
「寒い。」

旦那さんは私にガウンを着せて、扉を閉めると、着替えて雪遊びでもするかと訊いた。

「それはいいかな。」

窓の外は静かに雪が降り積もっている。
満開の桜も、溶けるようにそれに混じる。

爪先が冷たい。

桜と共に降る雪は、奇跡に例えられるけど。
現実のそれは恋みたいだなと思う。
すれ違って、混ざりあって、溶けてなくなる。
叶わない恋みたいだ。

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