見出し画像

小説『偶然でも運命でもない』 27話:チューリップ

「すごい量、買いましたね。」
「好きなの。チューリップ。大きい花瓶にどさっと飾ろうと思って。」
駅ナカの花屋から大きな花束を抱えて出て来た響子を見て、大河は驚いた顔をした。
その花束を覗き込む。
「これ、何本あるんです?」
「20本」
「重そう。」
「うん。結構、重い。まあ、生モノだからね、野菜とかも重いし。一緒だよ。」
響子の言葉に、大河は両手を差し出だす。
「持ちますよ。響子さんの降りる駅まで。」
そう言って、彼は響子の手から花束を大切そうに取り上げて抱えて、目を細めた。
「チューリップって、こんな香りするんだ。」
「うん。」
「意外。花びらの縁がヒラヒラしてるのも、意外。」
「そう?」
「なんか、もっと単純な色と形の……子供の頃に育てたやつ、あのイメージだった。」
「赤、白、黄色。」
「そうそう、花壇に植えたやつ。」
淡い色の花束を抱えて、大河は前を向く。
キリッとした茎や葉の緑と、ふんわりと淡いピンクに所々グリーンの混ざる清楚な花の開きかけの蕾は、大河の横顔に似合っていた。
ゆっくりと歩きながらチューリップの歌を小さく鼻歌のように歌う大河は、キラキラと眩しい。
「なんかさ、大河くん、そうしているとアイドルみたい。」
「……え?」
ぽつりと呟いた響子に、大河は「なんて?」と、振り返る。
「ううん。なんでもない。」
「響子さんて、なんだかいつも楽しそうですよね。」
「そう?」
「うん。ちょっと、羨ましい。」
「そう?」
「きっと、悩みとか、そういうのは当たり前にあるんだろうけど。でも、いつも楽しそうで。だから、会えるとなんか安心する。」
「うん。」
「俺、自分の為に定期的に花を買う人って、初めて知り合いました。まあ、大人の知り合いそんなに居ないけど。そういうところも、なんか自由で、楽しそう。人生、楽しんでるって感じがする。」
花に埋もれて嬉しそうな顔をする大河に、響子はスマートフォンのカメラを向けた。
今、この瞬間がずっと続けばいいのに。そう思って、シャッターを押す。
「今、なんで写真撮ったんです?」
「嫌?嫌なら消すけど。」
「嫌じゃないけど。」
両手で抱えた花束のせいで、響子からスマートフォンを取り上げることも出来ずに、ただただ困惑した様子でこちらを見つめている大河を見上げ、スマートフォンの画面を見せる。
「なんとなく。チューリップ、似合うなって。」
「え。……これ、俺?」
表示された画面の中で、チューリップの花束に口元を埋めて微笑む大河の横顔。
長い睫毛、前髪の影の掛かる瞳に、少し緩んだ頬。
ポートレートモードを使って、ピントをボカした背景は淡くカラフルな光に満ちていて、そこが駅ナカのショッピング街であるようには見えない。
「ね、アイドルみたいでしょ。」
「それは言い過ぎでしょ。……まあ……写真は、好きにしたらいいんじゃないですか。」
大河は照れたように視線を逸らした。
響子はスマートフォンをポケットにしまって、少し早足になった大河に歩幅を合わせる。
「あ、1本あげようか?これ。」
「要りません。」
「遠慮しなくていいのに。」
「いや、フツーに。いりません。飾る場所もないし。」
「そう?」
「気持ち悪いでしょ?俺が、チューリップ1本だけ持って歩いてたら。」
想像して響子は微笑む。確かに、知らない人から見たら違和感の塊だろう。
「せっかく似合うと思ったんだけどな。」
「俺よりも、響子さんの方が似合うと思いますよ。他のと一緒に飾ってあげてください。俺の部屋には似合わないし。花瓶もないし。」
響子は大河に見えないように、コートのポケットにしまったスマートフォンを服の上からそっと撫でる。
この気持ちに気付かれてはいけない。
なんとなく、そう思って、隣を歩く大河を横目で追いかける。
不意に、大河が振り返ってこちらを見た。
「でも、ありがとう。チューリップ、気持ちだけ貰っておきます。」
彼は幸せそうに笑って、その花束を大切そうに抱え直した。

【チューリップ】

↓このシリーズの別のお話はこちらのマガジンで読めます。↓


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

読んでいただきありがとうございます! サポートは創作の糧にさせていただきます。 是非、よろしくお願いします。

スキスキ♡
6
アクティブな引きこもり。 だいたい毎日、何かしらの小説・日記・エッセイを投稿しています。 🐋文芸サロン青い傘の副部長です。☂️わりとすぐ折れるタイプの骨の継ぎ目。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。